これ、絶対萎縮して事実ねじ曲げるよね。
「は?」
私は、連れてこられた場所からの光景に言葉を失った。
「何だ。この大艦隊は。」
「何かおかしなことでも?」
私の驚愕に村田少佐はさも当然といった顔で問いかけてくる。
「村田少佐、この艦隊は貴国の国防を担う大事な戦力ではないのですか。」
「ああ。これ。ヒロ警備府の常駐艦隊です。今見てるのが、前衛空母打撃群。その後ろに第一水雷戦隊で、更に砲撃戦隊。そして、私たちが属する司令直隷艦隊。その後ろが、航空戦闘艦隊。最後に後衛水雷艦隊。
艦隊周囲はこの秋風のような汎用駆逐艦と対潜駆逐艦、対空駆逐艦で囲まれています。そして、あれがこの艦隊の総旗艦。薩摩級戦艦四番艦の会津です。
その横にいるのが、翔鶴級空母6番艦の峰鶴で、この二隻で、艦隊司令部を組織しています。
中尉はこのままで行けば、明日昼にはあの峰鶴に移っていただきます。」
この規模で警備府の常駐艦隊とは恐れ入った。
「ところで先ほどから聞こえるこの轟音は?」
「空母艦載機の艦隊護衛編隊です。今飛んでいったのは。前衛空母打撃群旗艦の黄龍所属機で、あれは16式噴式戦闘機艦上仕様機ですね。」
噴式とは何かと問うと、どうやら、皇国でやっと技術研究が始まったレベルの新型航空発動機に酷似している理論で飛ぶ機体らしい。
「詳しいですね。」
「ああ。私、ミリオタなんです。その中でも海軍兵器オタク。好きこそものの上手なれってね。」
訊けば、兵器好きが高じて、海軍大学校を受けたが落ちて、併願していた、国立大学の医学部に入ったあと、軍属医として5年間この駆逐艦に乗っているらしい。
翌日、私の身柄は村田少佐の言うとおり、駆逐艦秋風から空母峰鶴に移った。
峰鶴に乗って驚いたのは、甲板がなにやら樹脂のようなもので覆われその上に、固い石のようなもので装甲加工が施されていることと、発艦と着艦が、同時に行われていること。そして、何より、右舷側に張り出した甲板だった。
「驚かれましたか。」
もう一つ驚いたのは、この船の船医は、艦長だった。
「驚きっぱなしです。」
「役職だけしか告げていませんでしたね。航空母艦峰鶴艦長兼船医の内藤由香です。」
また女性だ。聞けば、船医が女性の空母を艦隊内で探したらこの艦だけ該当し、内藤氏が艦長兼務なのはただ単に彼女が医師免許を取得しているからと言う単純な理由だった。
内藤氏の階級は、少将補。資格上、能力上は少将として申し分ないものの、経験が足りないものが付く階級らしく内藤氏も、苦笑交じりに、「とりあえず一息入れろってことよ。がんばりすぎてもいけない。焦ってもね。」と話していた。
「昔、我が国が、大洋を挟んだ大国と戦争になったとき、唯一成功した撤退戦を指示した提督の言葉が、私は好きなの。『帰ろう。帰ればまた来られるから。』っていうもの。奉職以来、私はこの言葉を胸に刻んで一歩づつここまで来た。だから急がない。それにまだ若いしね。」
聞けば彼女たちの国における国防意識は非常に高く、幼いものでは3歳から兵学校に通うものも居ると聞く。そんな環境なので、彼女たちの国における成人年齢で中位士官というものも多いらしい。
「言いにくいだろうし、他国の呼び方に当てはめて、准将で良いわ。」
「では、内藤准将はおいくつなのですか?」
「ん?27。あと2ヶ月で8かな。
私が、海軍の飛行兵となるべく海軍兵学校の門をたたいたのが15の時。目標であった、海軍空母航空隊所属となったのが兵学校卒業と同時の18の時。以来7年間ずっと飛んできた。
「おつかれさま。」
その後准将の部屋に案内されて、准将達の目的を聞いた。
翌日、艦隊は止まっていた。全体の大きさは変わらず、数と密度を上げて。