一つ馬鹿な考えを修正
[ドッカーン。]
すんっごい良い笑顔でこんなこと抜かすのは見た目もいい年こいた彼の国の王様。
[撃っても良いですか?]
現在絶賛海戦のど真ん中である。
[無視すんなや。]
『超長距離射程艦必中射程距離はいりました!』
『敵艦隊未だ我が艦隊を捕捉できていません。彼我の距離2400海里。会合まで海上巡航にて20時間。』
[まあいいか。全艦海上第3戦速。超長距離射程艦は、主砲斉射用意。]
ここは日本の東方3000kmの海上。
先日例の覇権国家が、愚かにも日本に上から目線で降伏勧告してきた。基本的に何にでも首を突っ込むかの国。このとき、ふらふらと遊びに来ていた王族が、この勧告に首を突っ込んで、そのまま使者を回し蹴りしたあと思い切りよく窓から一本背負いの要領でぶん投げ、使者は物の見事に駿河湾にぼちゃりと。
その後、日本が宣戦布告されると、どこぞの少佐殿見たく、国王自ら乗りよく、
[よろしい。ならば戦争だ。]
と、本国の王宮で軍の高級将官数千名をまえに高らかに宣言し、あの大艦隊を投入しただけでなく、後方1000kmには完全武装の陸上兵600万人がこれまた完全重武装の兵員輸送艦に乗り込んで、一路あの新興覇権国を目指していた。
[超長距離射程艦主砲測敵、自動追尾はじめ。打ち方はじめ。]
この言葉前に彼女がいる、旗艦の露天艦橋では、要員全員が耳栓の上から聴覚保護用のヘッドホンをして、さらに厚手の手袋で耳を押さえ、全艦が、艦隊に随伴する潜水艦でさえ、受動聴音を切って、更に艦橋、聴音室全体に「対暴音防御体制」が発令された。
一切マイクを通さず艦隊全体に号令を浸透させるその声量は、下手をすれば、兵器に転用可能である。だが、そもそもこの声量に耐えきれるスピーカーがない。というのも、彼女の声の特性の一つとして複数の共鳴周波数を内包するという物があり、この共鳴周波数は、すでにEPVBとして実用化されている。
[弾着観測。]
『敵艦隊混乱。大型艦に沈没艦多数。現在集計中。』
こちらは例の覇権国家艦隊。
突然大型艦の各所に爆発が起き、わずか10分で爆発が起きた艦全てと、近傍の小型艦2隻が巻き込まれて海に沈んだ。
「なにがおきた。」
「不明です。突然大型艦15隻が、爆沈。特に空母に被害が集中しており、16隻中14隻が失われました。また、グライゼンをはじめとした戦艦6隻が航行不能。戦闘能力喪失に陥っています。
総火力の実に7割が喪失した形です。」
「皇帝陛下になんとほうこk…。」
覇権国の艦隊司令の言葉は途切れた。乗艦の艦橋ごと吹き飛んだからだ。
[敵の残存兵力をたたき、敵中枢を破壊する。雷撃戦用意。]
「さすがは龍脈砲だ。」
大日本帝国海軍連合艦隊司令長官山本大将の言葉に彼の国の王が顔をゆがめる。
[低すぎる。この口径なら700単位は出て良いはずです。でも実際の出力はどれくらいだと思いますか山本司令。]
美女に思いっきり顔を近づけられどきりとする男所帯の長。
「な、75単位くらいですか?」
[惜しい。70単位です。]
「な、70単位であれほどの戦果?いったい何をどうしたら。」
[小龍昇群が少ない?基本地龍脈幹が細いのでしょうか?]
通常龍脈砲は地面に設置している方が出力が多くなる。そのため、戦車砲は2~3倍の大きさの口径の艦載砲と同等かそれ以上の出力を有する。…とされる。ただ、この欠点を補うために艦艇は天龍脈からもエネルギーを取り込めるようになっているほか、今彼女らが乗っている艦隊は1から億ないし兆を取り出すレベルの機関を搭載している。
[小龍降群がない?!あ?あ、え~天龍脈がないってそんな馬鹿なことがあるんですか?!全次元世界中に両龍脈があると思ってましたよ。まあ、良いか。主砲術式砲に切り替え。旗艦を先頭に。僚艦は下がれ。司令、ここは任せました。運航、敵中枢までの距離は?]
『130kkt。EPVB-LS最大射程はいりました。必中射程まであと30分』
艦隊は速度を上げ、彼の国の王は露天艦橋から飛び降りるとそのまま手をつくことなく着地し艦首へ走り寄り、舳先にたつと大きく息を吸い込んだ。
『EPVB-LS必中射程はいりました。艦隊全艦に通達。EPVB-LS発動。対暴音防御態勢発令。繰り返す―。』
直後、海が割れた。
そして、例の新興覇権国の各地が爆発し、崩れ去った。
特にひどかったのは、国家元首の住む宮殿とその周辺だった。床と壁が一瞬にして消え去ったのだ。宮殿内にいた者はいつの間にか全て宮殿の外にいた。私物とともに。
この国の政府が、彼の国の艦隊を認識し、その攻撃により、国が壊滅したと知るのは、国が滅び都市を除く地面という地面が耕し尽くされたあとだった。
こうして、列強になる夢を抱いて機械文明を発達させてきた国家が一つ、高度に発展した魔科融合文明によって消滅した。だが、彼の国が、日本経由でこの地に課したのは覇権主義と、それに類する一切の政治的姿勢の禁止だった。ただなぜかその中に共産主義が含まれていたのが不思議である