ドラざえもん様のポケットの中
「…………………」
ガラガラガラ、とドアを開けて………入ることなくゆっくりと閉じる。
あっれー?おかしいなあ?場所間違えたかな?なんか世にいう四次元空間らしきものが見えたよー?
嘘だと思うだろう。だが、残念なことにこれは事実だ。
開けた教室の先には想像していたクラスの人たちのニヤニヤ笑う顔はなく、あったのは白い光に包まれた四次元空間みたいなところだ。
といっても、四次元空間みたいな、ところだ。断言はできない。なぜなら私は四次元空間というものを見たことはないからだ。
それでもそれっぽいと言えたのは一重に国民的アイドルの●型ロボット様のおかげだ。
彼のお腹にあるポケットの空間によく似ていた。
違うところといえば、素敵な数々のアイテムがなく、何もないすっからかんだったところくらいである。
「………えっと…?」
驚きすぎて言葉が出ない。
え?私はどうすればいいの?もうすぐ授業がはじまるのだけれど?
いや、待て。そもそも本当に四次元空間だったのか?私の見間違いなのでは?
「………………うん」
きっとそうだ。そうに決まっている。
苛めに対する心的ダメージから自分で想像していた以上に疲れていたのかもしれない。
昨日ドラざえもんも見たし。
そう。疲れて幻を見てしまったに違いない。
ほら目を閉じれば私を中心になって苛めている花園さんの声も聞こえてきた。
やっぱりあれは幻だったのだ。
「……………よし!」
再び気合いを入れてドアを開ける。
そしてそこにあったのはいつも通りの………
「ちょっと~!?何よこれ~」
花園さんが重力無視して浮いている不思議な四次元空間でした。
「もう~やだ~!………は!山田!」
なんと逆さまの花園さんとバッチリ目が会った。
その目はいつもの意地悪な目ではなく、少し目元に涙を浮かべた情けない顔だった。
くそ!美人だから泣いてるのに可愛らしく見える!
何がどうなってるのかわからない状況なのに、私の妬みは絶好調で、そんなことを考える。
「山田!助けなさいよ~!」
「へ?」
妬みの世界からその言葉で引き戻された。
いや、でも、助けるってこの四次元空間?から?
無理無理無理無理!
だってそっちにいったら私までバランス感覚失いそうだもん!
そしたら、確実に花園さんみたいになるじゃない!
「えーと!花園さん!がんばれー!!」
「応援はいらないのよ!いいから手をだしなさいよ!」
「えー?はい!つかまってー!私の手に~~!」
「届かない……!もっと近くに来なさいよ!」
「………え?やだ………」
だって、そしたら私がこの四次元空間?に入ることになるじゃない。
それはちょっと………。
そう戸惑っていると………
「え?」
―――ぽん。
軽く、背中を何かに叩かれる。
それは花園さんに手を伸ばしていた私にはじゅうぶんな強さで………つまり、何が言いたいかと言うと……
「嘘でしょ?!」
体が四次元空間?に投げ出されてしまったのである。
ふわっと足をついていないのに体が浮かぶ。
重力を感じられないのが、こんなに不安定で怖いことなんて知らなかった。
「山田!何あんたもこっち来てんのよ!」
「だ、だって……!何かに押されて………!」
と、その時である。
私の体が突然重力に引っ張られた。
先ほどまではあれほど感じられなかったのに、今は思いっきり引っ張られている。
引っ張られている方向に底は見えない。
けれど、もしいつか底が見えてそこに打ち付けられるような事態になったら確実にぐちゃ!と潰れるくらいの速さである。
「ぎぃやあああああああ!!!」
私は悲鳴をあげた。
ある意味自慢のドラざえもん似のだみ声で悲鳴をあげた。
女の子らしい悲鳴が出るなんて幻想だ。
あんなのはあえて出しているものであって、本当の悲鳴とはこういう………
「きゃああああああ!!!」
ものでもないらしい。
花園さんは見事な乙女な悲鳴をあげている。
それを聞いて私は……
「くそおおおおおお!!!」
悲鳴の変わりに敗者の叫びをあげた。