処方箋、カンガルー、鳩時計【クリスマス、受験生】
最悪だ。
このクリスマスという楽しい時期に。
「発熱、頭痛、咳…ふむ」
医者がカルテを書いているが意識がもうろうとしていてぶっちゃけどうでもいい。早く薬をもらって帰りたい。
書き終えたようだ。医者がこちらを向いた。
「まあ、風邪ですね。」
俺は目を見開いた。
嘘だろ、そんな、熱で頭がやられたのか?
─目の前にいたのは、カンガルーだった。
「まあこの時期流行ってますし──」
目の前の医者─もといカンガルーがまだなにか喋っているがもう聞こえない。理解ができない。
隣の看護師は普通だ。人間である。にこにこしている。
「そんなわけで、薬出しとくんで、処方箋持ってお隣の薬局にいってくださいねー。」
カンガルー、めっちゃフレンドリー。
やっとのことで礼だけ言って、診察室を後にする。
…いやきっと気のせいだ。そうに違いない。さっさと薬局行って──
「凪さーん、上着忘れてますよー。」
目の前にカンガルーがいた。そこで俺の意識は途切れた。
******
─くるっぽー…くるっぽー…─
どこかから鳩時計の音がする。聞き慣れた、ちょっとアホらしい鳴き声。
「お目覚めですか凪さんや。」
今度はカンガルーじゃない、単語帳を開いた陽菜だ。そして俺の部屋だ。
「…カンガルー…」
「…はい?」
陽菜が不思議そうな顔をする。
「医者がカンガルーだった…」
「んなアホな。」
一蹴されてしまった。夢だったのか?それならいい。もう、忘れよう。
「こんなセンター前にして風邪引くとかアホですか全く…」
やれやれと溜め息をつき単語帳をしまう陽菜。
「しかも病院でぶっ倒れて、家に夕ちゃんしかいないから私が迎えにいくとかどういう状況よ…」
…待て、今、病院って言ったぞ?
「はい、薬局でちゃんと薬もらってきたから、飲んで寝なさい。」
「…俺、病院いった?」
陽菜がぽかんとしている。
「あちゃー…さっきからおかしいと思ってたけど、あたままでやられちゃいました?」
「うるさい…」
けど、否定できない。自分でもわかっていない。
「はい、もーさっさと寝ろ、勉強再開したいからね、受験生にクリスマスとかないからね。」
クリスマス、そうか今日は12月24日か。まあ陽菜の言う通り、そんな暇はなさそうだ。
「ま、ケーキだけ買ってきたから、もうちょっとよくなったら一緒に食べようね。はい寝ろ!」
ぱふっと布団を掛けられ、そのまま陽菜は単語を再び覚え始めた。
…相変わらずツンデレである。
薬の副作用か、眠気が襲ってきたので寝るしかないようだ。
果たして、医者が何者だったのか、そんなことはどうでもよくなっていた。