第3話
前回言ったとおり、今回は少し時間を遡った錬の視点です。
~錬視点~
「兄貴、いつまで寝てるんだ?」
「う…う~ん……後五分寝かせてくれぇ~……」
うるさいなぁ~。さっきまで可愛い子ちゃんとラブラブな夢を見てたってのに。
「もう七時半だ! いい加減に起きろ!」
ドゴッ!
「ごふぅっ!」
いってぇ~! 腹にモロ当たったぞ!
「いててて……こら賢! 兄貴の腹に肘打ちするなんて何考えてやがる!」
「やっと起きたか」
肘打ちをした弟の賢に怒鳴るが安堵した顔になっている。おいコラ。謝るって事はしねぇのか?
「やっと起きたか……じゃねぇわボケェ! 謝られねぇのかテメェは!」
「そうでもしなきゃ兄貴は起きないだろうが。ほら、起きたならさっさと着替えて顔を洗いな。飯は母さんがもう用意してるから」
そう言って賢は部屋から出て行く。あんにゃろう。ホントに謝らないで出て行きやがるし。
さっき出て行ったのは俺の弟である鬼灯賢。小学六年生のクソ生意気な弟だ。以前までは兄ちゃんと言って甘えてたのに、年頃の所為か兄貴と呼ぶ上にコロっと変わったかのようにぞんざいな態度を取りやがる。兄貴を敬う気ゼロだ。
「ったく。恩を仇で返すってのは正にこの事だな。もしあんなクソ生意気な弟だって知ってたら、可愛い妹が欲しかったな」
純真無垢な優しい妹が俺に『お兄ちゃん、起きて~』なんてユサユサと起こしてくる可愛い妹。そんな妹がいたら俺はすぐに眠気が無くなってスッキリするんだが。
「はあっ。ホントに妹が欲しいなぁ……言ってて虚しいけど」
虚しい事を考えつつも俺は制服に着替え、トイレで小便をした後に洗面所で顔を洗った。
そして居間に行くと、
「遅いぞ兄貴」
既に朝飯を食ってる賢がいた。
「何でお前はそうやって上から目線なんだよ。ってか母さんは?」
「父さんと一緒に開店準備をしてるよ。昨日母さんが言ってたろ? 今日はいつもより早く店を開けるって」
「ああ、そう言えばそんな事を言ってたな」
俺は昨日の事を思い出しながら椅子に座って朝飯を食べようとする。
「ってか今日はカツ丼かよ。朝から随分とヘビーだな」
「昨日の売れ残りだってさ。別に兄貴はカツ丼が好きだから良いじゃないか」
「まぁ確かにそうだけど」
賢と話しながら俺はカツ丼を食べ始める。
因みに俺の両親はトンカツ専門店を経営して、親父が三代目を継いでいる老舗の店だ。で、時折売れ残ったカツは残飯処理として家で食べる事になっている。今食ってるカツ丼がその例だ。
カツは好きだから別に構わないんだが、家族だけで食いきれない場合は誰か呼んで食わせる事にしている。いつも喫茶店で世話になってる修哉とその親父さんとか。もし修哉の友達で大のカツ好きがいたら呼ぼうと思っているがな。
「兄貴、ちゃんとサラダも食べろよ」
「分かってるって」
ったく。一々指摘する奴だな。言われなくても食べるっての。何かさっきからコイツ生意気だから、少しばかり仕返しをするか。
「そう言えば賢、お前このごろ家に帰って来た時には何か考え事をしているな。悩んでるなら兄貴が相談に乗ってやるぞ」
「そんなの兄貴には関係ないだろ」
「冷たい事を言うなって。折角優しい兄が相談に乗るって言ってるのに邪険にすんなよ」
「兄貴に訊いたところで無駄なのは分かってるからな」
……こんにゃろう。
「ほう? じゃあ当ててやろうか、賢が何を考えているのかを。それは……お前、実は好きな子の事を考えているんだろ?」
「!!!」
お? いきなり顔を赤らめたって事はひょっとして図星か?
「そ、そんなわけ無いだろうが! 俺に好きな女なんかいない!」
「おいおい賢よ、そこまで強く否定するって事は逆に肯定してるようなもんだぞ?」
「んなっ!」
おうおう、顔が茹蛸みたいに真っ赤になっちゃってまぁ。コレは本当に好きな子が出来たみたいだな。
「いや~。まさか賢がいつの間にか春が訪れていたなんてなぁ」
「だ、だから違うって……!」
「別に隠す必要は無いだろ? 俺達は兄弟なんだし。ここは兄貴の俺が弟の為に一肌脱ぐからさ。ど~んと頼りなって。で、どんな子なんだ?」
「…………………」
俺の問いに賢が無言になると、
「俺に好きな女なんかいない! 先に言ってるぞバカ兄貴!」
急に怒鳴って朝飯を片付けた後、床に置いてあったランドセルを持って家から出た。
「何もあそこまで否定しなくてもなぁ~」
しかしまぁ~アイツも年頃と言うか何と言うか……ってか俺も早く彼女を作らないとな。弟の恋は応援するが、先を越されてしまったら逆に相談に乗られてしまう事になる。それだけはゴメンだ! 弟に恋の相談なんかされたら兄として一生の恥だ!
「何としても賢より早く彼女を作らねば……!」
俺はそう決意をしてカツ丼とサラダを食ってすぐに家を出た。
☆
「しかしまぁ……彼女を作るとは言っても、俺の事を理解してくれる女の子が全然いないんだよなぁ~」
学校に向かう為の通学路を歩いている最中、俺は朝飯を食ってた時の決意が薄れていた。
いや、理解してくれる女の子はいるよ。同じクラスの江藤愛奈ちゃんとかな。あの子はエロを理解してくれるだけじゃなく、ボディタッチも許してくれる何とも心の広い女の子だ。俺には女神様だよホント。
「でもそれを邪魔するんだよなぁ。沢井の奴が」
あのお堅い沢井真美がいる所為で、愛奈ちゃんのあの大きな胸を揉みしだく事が出来ないの何のって……。けどまぁ、沢井がいない時には愛奈ちゃんがコッソリと揉ませてくれた時もあったけどな。今でも時折あるけど。
「でもそれ以上の事は許してくれないんだよなぁ……」
愛奈ちゃん曰く『それ以上したい時はもっとお互いよく知らないとね』とか何とか言って中断されるし。あれじゃ生殺しも良いところだっての! 俺の性欲が頂点に達して中断されるのは何とも口惜し過ぎる事か! いつか愛奈ちゃんと本格的にベッドインしてぇ!
そんな事を考えながら学校の校門前に着くと、
『いくら以前からの剣道部仲間だと言っても、それだけでは納得出来ないからな。羽瀬川には何か理由がある筈だ』
『え、あ、そ、それは……」
『俺が言った条件を呑んでくれるなら勝負しよう。さぁどうする?』
『え、えっと……』
そこには俺の友達の修哉と2組の羽瀬川が妙な雰囲気になっていた。イケメンの佐伯もいるが無視だ。
「……な、なんだあの光景は?」
何だアレ? あの美少女の羽瀬川が修哉と話して顔を赤らめてる? それに何かモジモジしてる? 何アレ? 俺の知ってる羽瀬川は毅然とした態度を取っているのに、何で修哉の前では恋する乙女になってるの? まさか羽瀬川って修哉の事が好き? LikeじゃなくてLove?
「……ふ…ふ……ふふふふふふふふ……」
修哉のやつ……いつの間に羽瀬川を誑しこんだんだ? ひょっとしてアイツは俺が町でナンパに行くって言ってもいつも断ってる理由って……もう既に彼女持ちだとか?
「あの野郎……! 独り身の方が楽だと言っておきながら、内心で俺を嘲笑っていたとは……!」
許せん! いくら修哉が友達だからと言っても、こればっかりは許せん! 俺を裏切った報いは受けてもらうぞコラァ!
「修哉テメェ~~~~~! 朝から羽瀬川と何イチャ付いてやがんだコラァ~~~~!」
『『ん?』』
『へ?』
嫉妬全開になった俺は即座に修哉をぶっ飛ばそうと、猛ダッシュで向かって行った。
「テメェが友達でもモテない男を嘲笑った罪は重いぞコラァ~~! くたばりやがれぇ~~!」
「何故そんな訳の分からん事を言ってるのかは知らんが、取り敢えずは……」
スッパァァァァァァンッ!
「ごふっ!」
俺の攻撃を簡単に避けた修哉は持っていたハリセンで俺の頭をどつく。そして俺はそのまま気絶してしまうのであった。
次回は修哉の視点に戻ります。