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第28.5話

久々の更新で申し訳ありません。


今回は修哉視点の話を予定していましたが、綾のいじめについての話が必要だったので後にする事にしました。


言うまでもないと思いますが、シリアスとなっています。


それではどうぞ!!

 修哉がローズに愛美について相談している頃。


「そ、それは何かの間違いでは?」


「いいえ、宮本綾ちゃんの苛めは今も続いています。ですので、綾ちゃんを苛めている子達には然るべき対応をして頂くようお願いします」


「え、え~と……」


 栖鳳学園生徒会長である佐伯紫苑は綾が通ってる小学校に来て、職員室で教師に綾の苛めについて報告していた。


 綾を自分の妹のように溺愛している紫苑としては、本来であれば苛めっ子達をすぐにお仕置きをしたいところだった。しかし、紫苑はそんな後先考えない行動をするような幼稚な性格ではない。先ず担任に事のあらましを説明した後に抗議し、その後から教師や保護者を通じて苛めっ子達に相応の報いを受けさせると言う流れにしようと考えた。


 もしそれが無理であったら紫苑は独自に動こうと苛めっ子達をお仕置きをするが、それはあくまで最終手段。紫苑としてもなるべく綾の苛めを無くす為に、苛めっ子達が二度と同じ事を繰り返させないよう、教師や保護者に釘を差したい。そうすればまた苛めが発覚した場合、今度はもうどんな言い逃れが出来なくなってしまうから。


 そして今目の前にいる女性教師は綾の担任であり、突然紫苑が職員室に訪れた時は何事かと思って戸惑っていたが、彼女の報告を聞いてとても信じられないと言うような顔をしている。


「先生もご存知ですよね? どうしてあの子が苛められているのかを」


「確かに私は彼女が以前あの子たちに苛められていたのは知っていますが……てっきりもう解決していたと」


 紫苑に言うまでもなく担任は綾が苛めの対象となっている理由が、他の生徒と違って一際身長が高いことを知っている。以前担任は綾がクラスメイトに苛められているところを見てすぐに叱って、もう綾が苛められることは無いと思っていたが、紫苑の話しを聞いて完全に寝耳に水となっていた。


「ところが全く懲りていなかったみたいです。前に私の後輩が目撃して叱ったんですが、昨日もまた同じ事をしていましたし。それに今度は女の子も一緒だったそうで」


「そ、そんな!」


 綾を苛めていた子が男の子だけでなく、女の子も含まれていた事に驚きを隠せない様子を見せて顔を伏せる担任。


「先生、私は綾ちゃんの家族ではありませんが、あの子を実の妹のように見てます。私としてはこれ以上、あの子が苛められているのを考えるだけで我慢出来ません……!」


「………………」


「無論、綾ちゃんを苛めた子達を今直ぐどうにかしろだなんて無茶は言いません。そちらが何らかの手を打ってくだされば――」


「佐伯さん、貴女の仰りたい事は分かりました」


 紫苑が言ってる最中、担任が突然顔を上げてそう言った。


 それを見た紫苑は、すぐにやってくれるのかと思って少し顔を綻ばせたが、


「ですが、それはあくまで貴女が彼女から話しを聞いただけにすぎませんので、早々に解決出来ないのです」


「な……! どうしてです!? 私は苛められている本人の口から聞いたと言うのに……!」


 予想外な返答をする担任に、信じられないと言わんばかりに思わず声を荒げた。


 紫苑が声を荒げた事によって、職員室にいる教師が一斉に振り向いて見ている。


「確かに貴女の話しは事実でしょうが、それを裏付けする証拠が無いのです。もし何かあるのでしたら話は別ですが」


「証拠って……どうしてそんな物が必要なんです!? 綾ちゃんの証言その物が証拠じゃないんですか!?」


 馬鹿げているにも程があると内心かなり呆れている紫苑だったが、担任は本当に申し訳無さそうに言う。


「残念ながらその証言だけでは、決定的な証拠とはなりません。仮にその証言を頼りに告発しても、それだけで宮本さんを苛めている子達の保護者がそう簡単に納得しません。それにご家族でない貴女が訴えても、保護者からは虚偽の告発だと言われると思います」


「そんな……!」


 苛めと言う重要な問題があるから抗議しているにも拘らず、証拠が無ければ告発が無駄になってしまうと言う現実を知った紫苑は愕然としながら落胆した。


 確かに担任の言うとおり、今の時代は決定的な証拠が無ければ相手は納得しないし、それを逆手にとって訴えられる可能性もある。例えば保護者が告発した相手に、虚偽の告発をして子供の心を傷付けたから名誉毀損で訴えて損害賠償を求めるという事を。そんな事になれば学校の面目も丸潰れとなってしまうから、学校側も決定的な証拠が無ければすぐに動く事が出来ない。


 綾の担任としても紫苑の力になりたいのだが、さっきも言ったように決定的な証拠が無ければ協力は出来なかった。それに加えて、綾が通っている学校の生徒の保護者の中には理不尽な要求をする『モンスターペアレント』と言うクレーマーがいるから、もし告発で証拠不十分になれば、連中はこれ見よがしと言わんばかりに更なる無茶苦茶な要求をするだろう。故に担任はそう簡単に動く事が出来ないから、紫苑に裏付けとなる決定的な証拠を求めているのだ。


「ですから私たちとしても、状況証拠だけでは……本当に申し訳ありません」


「……では先生方は今の段階だと綾ちゃんを助けることが出来ないと?」


「……………残念ながら」


「!」


 声を低くして言う紫苑の台詞に担任は頭を下げながら苦しそうにそう答えると、紫苑は思わず怒鳴りたかったが必死に感情を押し殺した。今此処で綾の担任に何を言ったところで無駄なのは分かっているから。


「………はぁっ、分かりました。今度からはキチンとした証拠を持ってきますので、その時はお願いします」


「は、はい……」


 必死に感情を押し殺している紫苑だったが、それでも殺気が少し漏れていたので担任は怯えながらも何とか返事をする。


「では私はこれで失礼します。突然の訪問に、お忙しい時間の中、私の為に割いて頂きありがとうございました」


「い、いえ、御気になさらず……。何かありましたら、いつでもいらして下さい」


 座っている椅子から立ち上がって頭を下げてお礼を言う紫苑に、担任は大して気にしないように言う。


 そして紫苑は鞄をもって職員室から出ようとすると、


「苛められてる一人の女の子を助けるために証拠が無ければ動けないなんて、嫌な世の中になってしまいましたね」


「……………………」


 かなり皮肉を込めた台詞を言いながら去って行った事に、何も言い返すことが出来ない担任であった。


 余談ではあるが、話しを聞いていた他の教師達も紫苑の殺気を感じて少し怯え気味になっており、紫苑の皮肉にも綾の担任と同様に何も言い返せずに無言となっていた。

今の時代は訴えたところで証拠が無ければ成立しない時代なので、そう簡単にいじめ解決が出来ないと言う流れにしました。

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