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番外 和哉の試合後

「つ、筑波先輩!」


「おいおいウソだろ!? 筑波さんがマジで気絶してるぞ!」


「しっかりしてくれ筑波さん!」


 気絶してる筑波先輩に見物していた空手部員達が一斉に駆け寄る。部員の一人が揺さぶって起こそうとしているが、筑波先輩は呻き声を上げてるだけで一向に目覚めない。あの様子だと暫く起きなさそうだ。


 彼等の行動に大して気にしてない俺はジャージ姿のままで鞄を持って道場から出ようとする。制服に着替え直した後に道場に着いてすぐに、また着替えるのは面倒だからな。それに今の状況で更衣室で着替えに行ける雰囲気でも無いし。


「お疲れさん、神代」


「別にそんなに疲れてはいない。さてと、用は済んだから帰って修行だ」


「もう修行かよ。筑波先輩に勝ったからとは言え、一応それなりのダメージを受けた筈だろ。そんな状態で修行しても大丈夫なのか?」


「問題無い。あの程度の攻撃で修行の妨げになんかならん」


 竜爺の強烈な攻撃を受け続けた事によってかなり打たれ強くなったからな。だから大したダメージじゃない。と言うか、あの程度で音を上げてたら竜爺の弟子なんかやってられない。


 因みに竜爺とは、師匠である宮本竜三の愛称だ。師匠本人が『師匠と呼ばれるより、竜爺と呼ばれたほうが良いわい』と言われてるので、修行以外の時には竜爺と呼んでいる。


「行くぞ新山」


「ああ」


 新山を連れて道場から出ようとすると、


「待ちやがれテメェら!」


「マグレで筑波先輩に勝ったからって調子こいてんじゃねぇぞ!」


「だったら今度は俺たちが相手してやるぜ!」


「そう簡単に帰れると思ったら大間違いだ!」


 空手部員の殆どが俺を取り囲んでいた。


 因みに新山は連中の行動に気付いてか、既にこの場にいなかった。危険と感じたら即座に逃げる奴だからな。ま、俺としてもアイツがすぐに逃げてくれた方が好都合だし。


「何の真似です? 俺はもう試合が終わったので帰りたいんですが」


「そう言うなよ一年。テメェがこのまま帰ったら俺たち空手部のメンツが丸潰れなんだよ」


「だから暫く俺たちと付き合ってもらうぜ。二度と調子こかねぇようにな」


「俺たち相手にもうマグレは起きねぇぞ。覚悟するんだな」


 空手部員達は俺を取り囲んで余裕のつもりか完全に油断している。ざっと見て15人ほどいるから、全員でかかれば確実に俺に勝てると思っているんだろう。


「………要は筑波先輩の敵討ちとは名ばかりのリンチですか。武術をやっている者として最低な行為ですね」


「テメェ、この状況でなに余裕ぶってんだ?」


「自分が置かれてる立場が分かってねぇのか?」


「勿論分かってますよ。ですが俺からも訊かせて下さい。俺に挑むのは貴方達だけですか?」


『あ?』


 俺の問いに空手部員達が『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をしていたので、もう少し分かりやすく言おうと言い直す。


「今此処にいる貴方達全員が俺に挑むのかと訊いているんです」


「なんだと? その言い方だと俺たちが束になってもテメェに勝てねぇと言ってるように聞こえるぞ」


「そうとも言いますね。尤も、数に頼って人をリンチしようとするチンピラ同然の貴方達に負けるつもりは毛頭ありません」


 筑波先輩をマグレで勝ったと思い込んで完全に油断してるこの人達に言っても無駄だと思うけど。


『……………』


 そして俺の台詞でこの場にいる空手部員達が全身をブルブル震えながら無言になっていたが、


『テメェぶっ殺す!!』


 完全に頭に来て俺に一斉に襲い掛かって来た。







「おばちゃん、今日はメンチカツとグラタンコロッケを一つずつ」


「あいよ」


 襲い掛かって来た空手部員達を全員気絶させた俺は、ジャージ姿のままで空手武道場を去ってそのまま下校し、今は総菜屋に来て注文している。


 因みに襲ってきたあの連中は必要最低限の力で拳を一発当てただけで気絶し、筑波先輩と同様に打たれ弱くて話にならなく俺は凄く残念な気持ちだった。あの程度の攻撃で気絶しないで欲しいと思っていたが、新山曰く『お前の必要最低限の攻撃は、並みの相手にとっては強烈だ』だそうだ。故にもっと手加減をしろって事か。相手に合わせて戦うってのは面倒だ。けれど師匠は俺と組み手をする時に常時手加減してくれてるから、弟子の俺が面倒とは思っちゃいけないな。


 とまあ、そんな事を考えながら総菜屋に着いて、おばちゃんの約束を守る為に二つ以上の惣菜を注文している訳だ。


 もうついでに二つ頼んでいる理由だが、昨日おばちゃんがサービスとしてコロッケをタダにしてくれた為に、今日は必ず此処に来て二つ以上の惣菜を買わなければいけないと言う暗黙のルールの為である。けれどこの総菜屋の惣菜はどれも美味しいから自然と二つ以上買ってしまう。俺の場合は修行前の腹ごしらえとしてだ。


 何しろ昨日の修行で師匠が力を上げたから、余分に食べておかないとすぐに疲れてしまう。ある程度慣れるまでずっと神経を尖らせなければ、師匠から一方的に滅多打ちとなるから。故にエネルギー補給の為に食べておかねばならない。


「はい、メンチカツとグラタンコロッケだよ」


「どうも。はい二百円」


「毎度あり。にしても和君、そんな格好で帰るなんて珍しいね。何かあったのかい?」


 おばちゃんがお金を受け取りながらジャージ姿の俺を見て不思議そうな感じで見ている。確かに普段此処に来る時は学校の制服だから、この格好で来るのは珍しいだろう。


「ちょっと色々あってね」


「そうかい。誰かと試合でもしたのかと思うんだけど?」


 相変わらずどこかでコッソリ見ていたんじゃないかと思うくらいに鋭いなぁこの人。


「そんなところ。あ、そう言えばおばちゃんって空手やってたよね?」


「いきなりなんだい。まぁ確かにやってたけど、もう昔の事だよ」


 突然話題を変える俺に、おばちゃんは面食らったような顔になりながらも思い出しながら言う。


「じゃあさ、当時の有名な空手家とか知ってる? 例えば筑波って人とか」


「勿論知ってるよ。アタシはファンだったからね。強かったよぉ。空手界では知らぬ者はいないと言うくらいに有名だったんだから。確か今は日本空手協会の理事長をしてる筈だよ」


「へぇ~」


 おばちゃんがここまで言うって事は、かなりの有名人のようだな。


 頷く俺におばちゃんは、まぁ竜さんと比べれば大した事は無いけどねと付け加えながら続けるが、途中から残念そうな顔になる。


「だけど息子の方はちょっとねぇ……。父親を誇りに思って立派な空手家を目指そうとするのは良いんだけど、あんまり良くない噂ばかり聞くんだよ。父親の名前を利用して横暴な振る舞いをしてるらしいって。本人は否定してるみたいだけど」


「でも火の無い所に煙は立たないって言うし」


 どうやら新山の情報は全部正しかったようだ。学校では入学早々に親の権力使って部長になった以外にも、他にも色々な事をしているに違いない。有名人の子供ならではの特権とも言える行動だな。けどそれによって傲慢になるから性質が悪い。同時に全て自分の思い通りになると思い上がるし。


「ま、あくまで噂に過ぎないよ。仮にもし真実だったら、アタシは抗議するよ」


「ハハハ……」


 思わず苦笑する俺。


 このおばちゃんの性格を考えると絶対にやりそうだ。仲間を引き連れて筑波先輩の家に行って抗議活動するのが目に浮かぶ。


「ついでに和君と試合する展開にでもなれば、百パーセント和君の圧勝だね」


「それは大袈裟じゃないの? 竜爺から未熟者と言われてる俺なんかじゃ、有名空手家のご子息には到底無理だと……」


 まぁ実際は既に勝ったけど、もし此処で公表したら大袈裟な事になりそうだから敢えて言わないでおく。


「なに謙遜してるんだい。毎日竜さんの厳しい修行を受けてる和君なら、あんなの楽勝だよ。和君の本気パンチ一発でノックアウトになるさ。アタシが保証するよ」


「そうなれば良いんだけど」


 本気じゃなくて手加減した正拳突き一発で気絶しちゃったけど。


 まぁ取り敢えず、もう既に筑波先輩と試合して勝った俺にはもうどうでもいい事だ。ああ言う自意識過剰な人は一度負けてしまったら、暫く立ち直れないと思う。


「って、そんな事より。アタシの話し相手になってくれるのは嬉しいけど、此処でいつまでも長話してたら、竜さんが待ちくたびれてるんじゃないのかい?」


「あ、いけね。そんじゃおばちゃん、また来るよ」


 おばちゃんに言われて気付いた俺は、すぐに竜爺の家に向かう為に走ろうとする。


「今日も修行頑張りなよ~!」


 その声援を聞いた俺は急いで向かった。


 さ~てと、今日も竜爺の厳しい修行を頑張りますか!

取り敢えず、今回の番外はこれで終了です。


次回は天城修哉の話に戻ります。

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