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番外 和哉の実力

「神代、試合を始める前に一つか聞きたい。先ず貴様は一体誰から空手を学んだ? まだ未熟な半端者とは言え、あれ程の実力はとても我流で磨いたとは思えん」


「……俺を鍛えてくれたのは師匠の宮本竜三って言う人ですよ」


 見下しながらの問いにイラッとしながらも一応答える。


「宮本竜三? 知らん名だな」


「因みに嘗て最強と呼ばれるくらいに強かったそうです」


「下らん。貴様の師匠は自意識過剰にも程がある。それに空手界最強である筑波家に向かって、そのような事をほざくとは思い上がりも甚だしいぞ」


 いやいや自意識過剰はアンタだよと内心突っ込む俺。


 コイツは師匠に会った事ないから、こんな偉そうな事が言えるんだ。もしコイツが本気の師匠と立ち会って試合でもしたら速攻で瞬殺される。まぁそれは俺も含まれるが。


「どうやら貴様の師匠にも教えてやらねばならんようだ。最強は我が筑波家であると言うことを。覚悟するんだな神代。最初は手を抜く予定だったが気が変わった。最強である事を教える為に全力でやらせてもらうぞ」


「………どうぞご自由に」


 筑波先輩の台詞にもうウンザリした俺はどうでもいいように返した。


 まぁ本気でやってくれるんだったら、俺としても好都合だし。


 しかしこの人本当に強いんだろうか。さっきから俺や師匠を見下したり、自分の家族を自慢したりで完全に自意識過剰だ。新山の奴、もしかしたら間違った情報を教えたんじゃないかと思い始める。


 確かに見た目は強そうに見えるんだが、あそこまで傲慢な態度を取っては武術をやっている者としてどうかと思う。


 そう思いながら俺が構えていると、


「試合始めっ!」


「はあっ!!」


 審判が開始の合図をした瞬間に筑波先輩が近付いて俺の顔面目掛けて右の正拳突きを繰り出してきた。


「おっと!」


 当然俺は顔を守る為にすぐ左手で筑波先輩の正拳突きを受け止めるが、


「甘いわぁっ!」


「がっ!」


 何と筑波先輩は右だけでなく左の正拳突きもやっていて、それにより俺の腹部に命中していた。


 あれは確か空手の技の一つである“山突き”と言う上段と中段に同時攻撃を行う突きだ。余程の訓練をしない限り避ける事が出来ないと言われる技でもある。


「おらおらおらおらぁっ!」


「ぐっ!」


「どうしたぁ神代ぉ! まさかこの程度で終わりではなかろう!?」


 その後からは筑波先輩の猛攻撃により俺は只管(ひたすら)防御に徹する一方、別の事を考え始める。


 何だ。散々人を罵倒していたから実は大して強くないと思っていたんだが結構やるじゃないか。新山の情報も強ち間違ってはいないみたいだ。


 そう思いながら防御している俺に筑波先輩は猛攻撃を仕掛け続けている。


「はっはっはぁっ! 俺の攻撃をただ防御する事しか出来ん貴様は所詮この程度みたいだったなぁ!」


 そして筑波先輩は俺から若干距離を取って止めと言わんばかりに、


「これで終わりだぁっ!」


「がっ!」


 得意だと思われる後ろ回し蹴りを俺の腹部目掛けて繰り出し、モロに直撃した俺は軽く吹っ飛ばされて仰向けになって倒れた。


「出た~~! 筑波先輩の得意の後ろ回し蹴りだぁ~!!」


「すげぇ~! さすが筑波さん!」


「相手がザコでも一切容赦ねぇ~!」


 俺が倒れたのを見た空手部員の人たちが一斉に筑波先輩を賞賛している。そんな部員達に筑波先輩は大して気にせず、倒れてる俺を見ながら詰まらなそうな顔をしていた。


「ちっ、詰まらん。所詮この程度か。未熟とは言え、少しは楽しませてくれると思っていたが……どうやら俺はとんでもない思い違いをしていたようだな。おい、そこで見学してる一年!」


「んあ? 俺っすか?」


 筑波先輩は最早俺に用は無いと言った感じで俺の後方で見物している新山に声をかける。


「そうだ。そこで気絶してる奴を連れてとっとと出て行け。そしてそいつが起きたらこう伝えておけ。上には上がいるとな」


「…………だってさ神代。お前から見て筑波先輩をどう見る? 互角にやれそうな相手か?」


「何を訳の分からん事を言ってる? 気絶してるそいつに話しかけても――」


「確かに強い事には強いが、そこまでの相手じゃない」


『!!!』


 新山の問い掛けに筑波先輩が呆れたように言ってる最中、俺が答えながらバッと起き上がると空手部員全員が驚愕していた。俺は大して気にせずに体を解している。


「よっ、ほっ、はっ、っと」


「何だ、随分余裕そうじゃないか。あんま痛くなかったのか?」


「そうでもない。一応それなりに効いたぞ。まぁ師匠の攻撃に比べたら大した事はないがな」


「き、貴様……俺の攻撃をあそこまで喰らって何故……何故そこまで平然としている!?」


「ん?」


 ケロッとしている俺を見た所為か、筑波先輩は信じられないと言う表情をしている。当然筑波先輩だけじゃなく、他の空手部員も同様に。


 あの顔を見る限り、さっきまでの攻撃には絶対の自信を持って俺が完全に気絶していると思っていたんだろう。


 残念でしたね筑波先輩。俺はあの程度の攻撃で気絶するほど柔じゃないんで。


「別に平然とまではいきませんよ、筑波先輩。さっきも言いましたが、それなりに効いていましたよ。で、これだけですか?」


「何……?」


 首を傾げて問う俺に筑波先輩は理解出来ない様子だったので、俺は更に訊く事にする。


「これだけではないんでしょう? 筑波先輩は日本空手協会の理事長の息子で最強なんでしょう? まだ他にも何か強力な技があると思うんですが?」


「……………」


「何をそんな難しそうな顔をしてるんです? 筑波先輩は試合開始前に言ってたじゃないですか、全力でやるって。ですから見せて下さいよ。貴方の全力を。それともさっきまでの攻撃は冗談抜きでの全力だったんですか?」


「…………ふ、ふ、ふざけるな!!」


 さっきまで無言だった筑波先輩が急に怒鳴って来て、俺は少し目を見開く。


「いつまでも強がりを見せるな神代! 俺の後ろ回し蹴りを受けてタダですむ訳が無い! 今の貴様は立っているのがやっとの筈だぁ!」


 そう言って筑波先輩は構えながら俺に接近して右足を使った後ろ回し蹴りを繰り出して俺の顔面に当てようとするが、


「ほいっと」


「どわぁっ!」


 俺はヒョイッと避けてすぐに片足のみで立っている筑波先輩に足払いをして転ばせた。それによって見物している新山を除いた空手部員全員は無言となる。


 因みにさっきまでの攻撃は余りにも鈍くて避けようと思えば簡単に避けれたのだが、最強と自負しているこの人の攻撃力と技術を見る為に態と受けていた。


 しかし残念な事に、筑波先輩の攻撃は踏み込みが甘い上に不安定だったので俺は凄くガッカリしてしまい、ある程度実力が分かった俺は攻勢に出たのだ。


 そして俺の足払いで転んだ筑波先輩は受け身をちゃんとしていなかった所為か、痛みに悶えながら起き上がろうとしている。


「ば、馬鹿な……! 俺の得意の後ろ回し蹴りをこうも簡単にかわされただけでなく、あまつさえ反撃を……あり得ん、あり得ん! あれをかわせるのは誰もいないと言うのに!」


「ほほう。と言う事は、さっきのが筑波先輩の最高の技ですか。まぁ確かにアレは一般から見ればかなりの威力ですね。けど俺から言わせれば、まだまだ未熟にも程がありますよ」


「な、何だと!!」


 未熟と言われた事に筑波先輩は激昂するが、俺は構わず続ける。


「理由といたしましては、あの後ろ回し蹴りを繰り出す際に下半身がキチンと安定出来ずにブレが生じているから威力が欠けています。下半身の基礎が大して出来上がっていなく、基礎訓練を怠っている証拠です」


 下半身を鍛える事は極めて重要。攻撃や技を繰り出すにしても必ず下半身を安定させなければいけない。そうしなければどんなに威力があっても弱まってしまい決定打にならないからな。尤もそれは武術に限らずスポーツにも必要な事だけど。


 にも拘らず筑波先輩は全く下半身が安定してない。どうせこの人の事だから選らばれし者気取りで基礎訓練は大してやらずに、ずっと応用ばかりやっていたんだろう。そうでなければ、あそこまで下半身が不安定でない筈が無い。


「筑波先輩、どうせ貴方の事ですから『自分に基礎訓練は必要無い』とでも思って今まで大してやっていなかったでしょう? そのツケが回ってますよ」


「なっ!?」


 俺の指摘に筑波先輩は虚を衝かれたかのような顔になっていた。


 いくら自分が最強だからと言っても、基礎訓練をしなきゃダメだろうに。特に選民思想を持っている相手は尚更だ。


「大変おこがましいのですが筑波先輩。貴方は自身を最強と自負していますが、あの程度で最強とは言えませんよ。半端者も良いところです」


「なっ……なっ……!」


「多分俺の師匠もこう言うと思いますよ。基本を一からやり直した方が良い、とね」


 後輩である俺が筑波先輩のプライドを傷付けるようで悪いが、武術をやる者としてハッキリと言っておかなければダメだ。誰かが指摘しておかないと、この人はずっと自分の実力を過信し続けるだろうから。


 そんな俺の指摘に筑波先輩は、


「さ……さっきから黙って聞いてれば……貴様は一体誰に向かって言ってるんだ~~~~!!!???」


 怒髪天を衝くかの如く完全に頭に来ていた。


「未熟者の分際でこの筑波新次郎に向かって半端者だと!? ふざけるな!! この俺に足払いをしただけでいい気になるな!!」


「俺は事実を言ったまでです、と言ったところで今の貴方に指摘した所で無駄でしょうが」


「~~~~!! もう試合なんかどうでもいい!! 貴様をぶっ殺す!! 最早泣いて謝っても許さんぞ神代ぉ~~~!!」


「こりゃもう試合どころじゃないな」


 俺をリンチしないと気が済まないと言った感じで筑波先輩は俺に殴りかかろうとしてくる。


 当然そんな攻撃を受ける気が無い俺は、筑波先輩の攻撃よりも速く相手の腹を目掛けて左の正拳突きを繰り出す。


「あがぁっ!」


 物の見事に喰らった筑波先輩はかなり効いている様子だ。


「あっ……がっ……」


 両手で腹を押さえて苦しそうに痛みを堪えながら俺を見てる筑波先輩だったが


「ば、馬鹿な……こ、この、俺が……!」


 と言ってうつ伏せで倒れて気絶してしまった。それにより空手部員全員が驚愕している。新山は大変詰まらなそうな感じだが。


「あらら。立った一発でKOかい。意外と打たれ弱いんだな、この人。ってか弱すぎ」


「いやいや神代。お前の馬鹿力とも言える攻撃を喰らったら誰だって気絶するって」


「おいコラ新山、誰が馬鹿力だ」


 失礼にも程があるぞ。俺は必要最低限の力で攻撃したっての。まぁそれは手加減とも言えるけど。


 まぁ何はともあれ俺の勝ちって事で。


 あ~あ、いつになったら俺と互角にやりあえる相手と出会えるんだろうか。

次回で番外編が終わります。

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