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番外 和哉の悪友

「ん………よく知ってる天井だ」


「何を訳の分からん事を言っておる。とっとと起きんか」


「あ、師匠……イテテ……」


 目を開けた俺が某アニメキャラと似た台詞を言ってると、師匠が呆れた顔をしていた。


 言われたとおり起きようとすると、師匠から受けた攻撃で身体の所々が痛みの悲鳴を軽く上げていたが、妙に違和感がある事に俺は気付く。


「もう気付いておると思うが、お主が気絶しとる間にマッサージを施しておいたわい。かなり痛みは引いておる筈じゃが?」


「うん。気絶する前での痛みが全然違う」


 そう言って俺は起き上がって屈伸し、多少の痛みはあっても全然大した事は無かった。 


 師匠のマッサージは不思議な事に受けた痛みをかなり和らげる事が出来る。


 気絶してる時には全然分からないが、起きている時にやらされると物凄く痛い。しかしマッサージが終わった後は何故か痛みが引いている。いつもながら師匠のマッサージは摩訶不思議な物だ。


「それは何よりじゃ。では今日の修行はこれで終わりじゃから、そこの壁を直しておくように」


「へ~い」


 頷いた俺は壁を直す為に予め用意して道場の隅っこに置いてた修理道具を持つ。そして壊れた壁の所まで行って、慣れた手つきで修理を始めた。


 因みに何度も壁を壊した事があり、その度に壁を直しているから今はもう完全に慣れている。と言っても完全に修理する訳でなく、あくまで補強にしかすぎない。もうそれが無理な状態になっていたら、師匠が壁の一部を用意して完全に直す。


「和哉よ、今夜は此処で夕飯を食べるか? 」


「え? 良いの?」


「構わん。今日はトンカツじゃから、食べ盛りのお主には丁度いいと思ってな」


「そりゃありがたい。じゃあ親に飯はいらないって連絡しとく」


 俺は楽しみだと思いながら、せっせと壁の修理を終えた後に親に連絡し、師匠と一緒に夕飯を食べるのであった。




 そして翌日の放課後。


「さて、今日も道場に行くとするか」


 授業が終わった開放感を味わいながら、俺は鞄を持って教室から出た。同時にまた俺を部活勧誘してくる先輩たちを警戒して。


「やれやれ。相変わらずお前の頭の中は修行しかないな」


「ん?」


 廊下を歩いていると背後から呆れたように言ってくる男子生徒に俺が振り向く。


「何だお前か」


「何だとは何だ。相変わらず失礼な奴だな」


 宇宙人のような顔をした男子生徒を見た俺が嘆息をもらしながら見てると、ソイツは不快な表情をする。


「そんでグレイ。俺に一体何の用だ?」


「俺様は宇宙人か!?」


「じゃあ似非策士」


「似非じゃない! 俺は本物の策士であって……」


「その策士様が不良集団にリンチされる寸前に助けてやったのはどこの誰だったかな、新山(にいやま)秋男(あきお)君?」


「ぐっ……!」


 さっきまで言い返していたのが急転して痛いところを突かれたかのように苦い顔をした。


 この某宇宙人みたいな顔をしている小柄の男子生徒は新山秋男。中学の頃のクラスメイトであり、自分を天才策士と自称している自意識過剰な男。


 新山は一応確かに策士と呼ぶに相応しく、ハッタリやこけおどし、話術などを巧みに使って相手を上手く引き込ませている。だが残念な事に何度も成功してると調子に乗ってしまうと言う悪い癖があり、小物っぽい不良をお得意の策で成敗しようとしたが、実はソイツが不良集団のボスであった事に後から気付いて後悔していた。その時には俺が偶々近くを通りかかっていたから、リンチされるところをクラスメイトとして助けてやろうと思い、不良共に殺気を込めた睨みで追い払ってやった。それからと言うもの、新山は金魚のフンみたいに何かしら俺に声を掛けてくる。


「き、貴様……! またしても俺様の古傷に触れやがって……!」


「古傷も何も、新山が調子に乗り過ぎたからだろうが。まぁそれはどうでもいいとして、俺に何か用なのか?」


「この野郎……! 人が親切に情報を教えてやろうとしてるのに……」


「何が親切だ。以前そう言って俺を利用していただろうが」


 コイツは自分の存在をアピールする為に俺を利用しようとする事もあって便利屋扱いしていた。当然そんな事をする新山には言うまでも無く、俺からのキツイお仕置きで制裁済みだ。


「また同じ事をするんだったら、相応の報いを受けさせるって前にも言った筈だぞ?」


「ち、違う! 今回は別にお前を利用する為に教えるんじゃない! 俺はそんな命知らずじゃねぇ!」


 俺の睨みに新山は動揺し、首を横に振りながら必死に弁明する。


 この様子を見る限りだと嘘を吐いていないみたいだ。相手の目を見れば大抵は分かるからな。


「あ、そう。まぁどの道お前の情報を聞く気は無いから失礼するよ。じゃあな」


「ま、待て神代! これはお前にとって必要かもしれない情報なんだぞ!?」


 新山は説得するかのように言って来るが俺は無視して下駄箱まで行って靴を履き替える。


「しつこいぞ。俺はお前の情報なんか興味無い」


「まぁせめて聞くだけ聞けって! もしかしたらお前と互角に戦える相手かもしれないんだぜ!」


「はぁ?」


 気になる事を言った新山に俺は思わず移動していた足を止めた。


「それって生徒会長の佐伯紫苑先輩の事を言ってるのか? 確かにその人はかなりの実力者だと聞いてはいるが、俺は今戦う気無いぞ」


「いやいや違う違う! ってかお前がもし栖鳳学園の高嶺の花と呼ばれてる生徒会長と戦ったら、学園の男子生徒を全員敵に回す事になるって」


 ほほぅ、それだけ佐伯先輩は男子に人気があるのか。初めて知った。まぁ確かに入学式で在校生代表としてのスピーチで見た時には凄い美人だったから頷ける。他のクラスメイトの男子たちの殆どが見惚れていたし。ってかコイツ、入学してまだ三日目だってのによく知ってるな。


「じゃあその人じゃないなら誰なんだ?」


 聞くだけ聞いたら帰ろうと思った俺は、一先ず新山の情報に耳を傾ける事にした。それに気付いた新山は真剣な顔をして俺に説明しようとする。


「教える前に神代。お前、昨日の帰りに空手部に勧誘されてた時、空手部の部長の事も知らないって言ったろ?」


「言ったな。ってか、それがどうした? そんな訳の分からん前置きはいらんから、早く言え」


「いやいや、お前の返答によってその部長がかなり気を悪くしたみたいなんだよ」


「? どう言う事だ?」


 今一分からない俺は不可解になっていると、新山はポケットから写真らしき物を取り出して見せようとする。それには大きながたいをした角刈りの男が写っていた。


「コイツが空手部部長三年、筑波新次郎。日本空手協会の理事長の息子だ」


「ふ~ん、この人が部長ねぇ」


 顔を見る限り、いかにも自分は偉いって顔をしているな。ひょっとしたらこの人、親の権力を使ってるかもしれない。


「で、この男の父親が理事長になる前までは空手界では知らぬ者はいないって程の有名な空手家で、息子である筑波新次郎もそれを誇りに思って、父親と同じく空手家になろうとしている。だが同時に親の七光り野郎で、自分は理事長の息子だからって好き勝手に振舞ってる。例えば空手の強豪である将星(しょうせい)中学では入学して早々に親の権力使ってレギュラー入りして部長になったとか。まぁ当然、当時やっとの思いでなれた部長が納得行かないって抗議したが、結局は権力に屈されて逆らわなくなっちまった」


 うわぁ……。本当にいたんだな、親の権力使ってやりたい放題する奴って。


 確か将星中は空手の強豪で部長になるには相当の実力者じゃないと無理だって、中学の頃に聞いた事がある。それを知ったのは俺が大会の助っ人として団体戦に出場した時にだ。まぁ俺は言うまでも無く勝ったけど。


「まぁ今の話だけじゃ、筑波新次郎は権力を使って好き放題して大した実力はないと思うだろうが、実はそうでもない。奴は小さい頃から父親直々の空手英才教育を受けてるから、かなりの実力者でもある。現に奴は数々の大会で優勝してるしな。もしかしたらお前より強いかもしれない」


「あ、そう。んで、そんなサラブレッドさんを俺が知らないと一言で切り捨てたから、向こうは何かしてくると?」


「まぁそゆことだ」


 頷く新山に俺は内心面倒な相手に目を付けられたなぁと思ってると、


「ちょっと良いかな神代」


「ん?」


 誰かが俺に声を掛けてきたので、俺と一緒に新山も振り向くと昨日の放課後に空手部の部活勧誘をしてきた先輩だった。


「(おい神代、これはもしかしたら……)」


「(ちょっと静かにしてろ)」


 小声で言って来る新山に静かにするように言って、俺は目の前にいる先輩に目を向ける。


「何の用ですか? 昨日も言いましたが、俺は空手部に入る気はありませんよ」


「あ、いや、今日は勧誘しに来たんじゃなくて、空手部部長の筑波先輩が神代を連れて来いって言われてね……」


 どうやら新山の予想通り、向こうは随分と気を悪くしているようだった。

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