第26話
久しぶりの更新です。
それではどうぞ!
「ってな訳で、主に佐伯先輩が勝手に家に寝泊りしてるだけであって、決して羽瀬川が思ってるような破廉恥な展開は一切無い。これで分かったか?」
「…………未だに納得出来ない部分がありますが、取り敢えず貴方の言っていることが本当だと言うのが分かりました」
落ち着いた羽瀬川に紫苑さんが俺の家に寝泊りしてる事、そして俺が何もしていない事を説明し終えると、羽瀬川は一先ず分かってくれたようだ。
言っとくが説明中に一つも嘘は吐いていない。全て事実を話したからな。これで嘘なんて言われたら流石に怒るけど。ま、羽瀬川が聞いてる際に俺の目を見て嘘を吐いていないと分かっていたようだから、最後まで言える事が出来たし。
「そう言ってくれて何よりだ」
「…………逆に聞いてる内に佐伯先輩が少し不憫に思いましたが(ボソッ)」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもありません。どうかお気になさらず」
「そ、そうか……」
何でもないって言ってる割には妙に真剣な顔で呟いていたんだが……何て言っても、すぐにまたさっきと同じ台詞が返ってくるから無駄か。俺の知り合いって何故か人前で呟くのに、後から聞いても羽瀬川と同様な返答が来るんだよな。だったら始めから声を出さなきゃ良いのに。
「けど、わたくしとしても矢張り佐伯先輩の行動が気に入りませんので……」
「ちょ、ちょっと待て羽瀬川。まさかお前、佐伯先輩に――」
「誤解なさらないで下さい。別にわたくしはあの方と勝負をするつもりはありません」
「――なら良いが」
不穏な発言をする羽瀬川に俺がすぐに止めようとするが、そうではなかったようだ。
「ですから――」
安堵してる俺に羽瀬川が顔を近づけてくる。
「あの方に取られる前に先手を打たせて頂きます」
「は? 先手って………むぐっ!?」
いきなり羽瀬川にグイッと抱き寄せられただけでなく、そしてあろうことか――唇を奪われた。
「んん………」
「!!!!!」
余りの超展開に俺は何が起こっているのかが全然分からなく石みたいに固まってしまった。誰か俺に分かるように説明して欲しい。何でいきなり羽瀬川にキスされ、何でこんな流れになってしまったのかを。
そんな俺の心情を余所に、羽瀬川がゆっくり俺から離れた。それはもう顔がトマトのように真っ赤になっている。
「は、羽瀬川、お、お前……いきなり何を……!?」
「で、では天城! わ、わたくしはこれで失礼します!」
タタタッと屋上から去っていく羽瀬川に、俺は見送らずに戸惑う事しか出来なかった。
~錬視点~
「ったく、おっせぇ~なぁ修哉の奴。いつまで掛かってんだ? もう授業が始まっちまうぜ」
昼休み終了前の予鈴チャイムが既に鳴っても修哉が教室に戻って来ない事に、俺は修哉の席とドアを交互に見ていた。愛奈ちゃんも俺と同様の事をしていて、未だに修哉が戻ってきてない事にやきもきしてる様子だ。
「まだ愛美ちゃんと屋上で話してるのかな?」
「だとしても長過ぎだろ。それに授業が始まる数分前には必ず席に着いてる真面目な修哉がまだ来ないなんておかしい……ひょっとして修哉に何か遭ったか?」
アイツが余計な発言をした事によって羽瀬川がキレて修哉をボコボコにしている、とか。うわぁ……めっちゃあり得る!
「ま、まさか天城君、また余計な事を言って愛美ちゃんを怒らせたのかな……?」
「かもしれねぇな」
愛奈ちゃんも俺と同じ事を考えているようで、冷や汗を掻きながら不安そうに俺に訊いて来る。
やっぱ愛奈ちゃんもそう考えるよな。ってかソレしか考えられねぇし。
あの恋愛朴念仁の事だから、『これからも羽瀬川とはずっと友人だ』とか『俺じゃ不釣合い』などとふざけた事を言って羽瀬川を怒らせてボコボコにされたに違いねぇ。でなきゃ修哉が教室に戻って来ないからな。
よし、ここはいっそ俺が屋上へひとっ走りして、羽瀬川によってKOされた修哉を連れ戻しに行くとしよう。そして放課後は修哉の家で反省会だ。
今日のプランを瞬時に考えた俺は修哉を連れ戻そうと席を立つ。
「愛奈ちゃん、俺ちょっくら行くわ」
「ちょ、ちょっと錬君。どこに行くの?」
「決まってるだろ。屋上に行って修哉を連れ戻してくるんだよ。愛奈ちゃんだって今修哉がどうなってるか気になるだろ?」
「そ、それはそうだけど……。でも授業がもう始まっちゃうよ?」
不安そうに言う愛奈ちゃんに、俺は心配させないようにこう言う。
「はっ。つまんねぇ授業なんかより、今は修哉を連れ戻すのが先決だ。そんな訳で愛奈ちゃん、俺は今から――」
「つまらない授業で悪かったな、鬼灯」
「…………え?」
教壇の方から俺に声が掛かったと思いきや、そこには英語担当であり、俺達の担任である東山先生がいた。
因みにこの人は30代後半の中肉中背で、いつも笑顔を振りまいてて生徒に舐められそうな先生だと思われるだろうが、実はそうでもない。この人からは只ならぬ威圧感があるから、生徒が誰一人逆らうことはしないと言う一種の鬼教師並みに恐い。いや、普通の鬼教師の方がマシかもしれない。
「いや~まさかお前からそんな台詞を聞くことになるとはなぁ~。先生としては少しショックだよ。俺の授業を楽しく聞いているお前がなぁ~」
「あ、い、いや……べ、別に俺は英語とは一言も……」
弁明する俺に東山先生はニコニコと笑みを浮かべていた。あの笑顔は知っている。アレは……怒っているんだ!
「それじゃあ俺の授業が詰まらないと言った鬼灯には……楽しい授業が出来るように、放課後俺と二人っきりの補習をしようじゃないか♪」
「Noぉぉぉぉ~~~~~~~~~~!!!!!!!」
さ、最悪だ! この人の補習は地獄と言っても過言じゃない! 威圧感たっぷりでニコニコと補習されたら俺はマジ死ぬ!
チクショ~~~!! ちょっと調子に乗っただけでこれかよ~~! 何で俺はこんなにツイてねぇんだ~~~!!!
ガラッ
「………遅れてしまってすいません、東山先生」
「ん? 天城か。いつも授業前に必ず席に着いてるお前が珍しいな」
俺が東山先生からの死の宣告に慟哭してる最中、いつのまにか修哉が戻ってきていた。
「修哉! テメェのせいで俺はぁ! 後で覚えてやがれぇ!」
この恨みは絶対に忘れねぇからな修哉!
「………お前はいきなり何を訳の分からん事を言ってるんだ?」
「ああ、天城は気にしなくて良いから早く席に着け。ソイツの自業自得だからな」
「?」




