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第1話

PiPiPiPi!! ガシャンッ!



「う…う~ん……(ムクッ)……ふわぁ」


 錬の自業自得による制裁が下された翌日の朝の六時半。


「ん?」


 俺はいつも通りにベッドから離れようとしたが、布団の中に何やら妙な物がいた。


「………(パラッ)…………やっぱり貴方でしたか」


「すぅ……すぅ……う~ん……」


 布団を捲ると気持ち良さそうに眠っている女子生徒がいた。何故女子生徒であるかと言うと、上はYシャツで下はスカートを来ている。極め付けは俺の椅子に栖鳳せいほう学園のブレザーがかけられている。


「ちょっと。いつまでも寝てないで早く起きて下さい」


「う…う~ん……後5分は一緒に寝て~」


「戯けた事を言ってる暇があるなら落とすとしましょう。では……」



グイッ……バタンッ!



「あたっ!」


 未だに寝ている女子生徒を床に落とすと、ぶつけた音がした瞬間に声を上げた。


「いたたたた……ちょっと修哉君! いきなり何するの!?」


「どうやら起きたみたいですね」


 ぶつけた頭を擦りながら涙目で俺を睨んでくる女子生徒に俺は問題無いように言う。その事に女子生徒は頭に青筋を浮かべる。


「き、君ねぇ……! 先輩を床に落としておいて謝る気は無いのかしら?」


「それ以前に何故貴方が俺のベッドで寝ていたのかをお聞きしたいんですが、生徒会長?」


「ちょっとぉ~。そんな他人行儀な呼び方はしないでって言った筈よ」


 生徒会長は俺の呼び方に怒る方向を変えて訂正を求めてくる。


 因みに、この妙に甘えた声で話してくる人は和人の姉である三年の佐伯さえき紫苑しおん先輩。そして栖鳳学園の生徒の代表である現生徒会長。外見は和人と同じ髪の色で少し長めのショートカットで美人系。


 何故俺がこんな凄い美人と仲が良い理由は、言うまでもなくこの人とは弟の和人と同じく幼馴染だ。それに良く分からんが、この人は俺と二人で話す時には妙に子供っぽい仕草をしながら困らせる事もしばしばある。


「紫苑って呼びなさいって何度も言ってるでしょ?」


「すいません。どうして貴方がいきなり人のベッドに潜り込んだだけ出なく、勝手に寝ているのかを先に知りたくてつい他人行儀になってしまいまして」


「………修哉君、私と一緒に寝るのがそんなに嫌だった?」


「そんな哀しそうな顔をしたところで無駄ですよ。どうせ貴方の事ですから、朝早くから俺の家に来て父さんに許可を貰った直後に、俺の部屋へ忍び込んでそのままベッドに寝たんでしょうね」


「……分かってるなら訊かなくても良いじゃない。それに私、修哉君と一緒に寝たいんだもん」


 拗ねたような感じで言う紫苑さんに俺は溜息を付きながら呆れる。ホントにこの人は俺の前では子供だな。いつもの生徒会長はキリッとして真面目なんだが。


「本人の口から聞きたかったんですけどね。ほら紫苑さん、申し訳ありませんが部屋から出てもらえませんか? 着替えますので」


「私は別に気にしてないよ。だから……」


「男の着替えを堂々と見る貴方はちょっとどうかしていますね。早く出てリビングで待ってて下さい」



グイッ!



「ちょっ! そんな押さなくたって……!」



バタンッ!



 抗議する紫苑さんを無視して、俺はすぐ椅子に掛かっているブレザーを渡してすぐに部屋から追い出した直後にドアを閉める。紫苑さんがリビングに行ったのを分かるとすぐ制服に着替え、部屋を出てすぐにトイレで用を足した後、洗面所に向かって顔を洗ってすぐにうがいをする。食べる前に歯を磨くと朝ご飯の味が分からないから、軽くうがいだけをして食後に磨けば良いって父さんに言われたからな。


 洗面所で一通りの作業を終えた俺はリビングに行くと、そこには我が家の大黒柱の父さんと紫苑さんが椅子に座っており、テーブルには朝ご飯が置かれていた。今日は和食か。


「おはよう修哉。今日は紫苑ちゃんの可愛い寝顔を見てスッキリしたかい?」


「朝っぱらから性質の悪い悪戯は止めてくれ、父さん」


「ちょっと修哉君。性質の悪い悪戯って何よ~?」


 父さんと俺の会話に紫苑さんが睨むかのようにコッチを見てくる。貴方だって父さんの悪戯に悪乗りしたんでしょうが。


「悪戯とは酷いなぁ~。修哉は紫苑ちゃんと一緒に寝て何とも思わないのかい? 例えばだね……そう、思わずキスしたくなっちゃうとか」


「私としては小父様が考えてるような展開を期待してたんですけど……」


「……さて、飯でも食うか。頂きます」


 二人の戯言を無視する俺は椅子に座って朝飯を食べ始める。


「父さんを無視しないで欲しいんだけど……」


「ゴメン。変な想像をしてる父さんの戯言は無視するって決めてるんで」


「………紫苑ちゃん、息子が反抗期になっちゃってるよ。どうすれば良いかな?」


「修哉君。お義父様に向かって何て事を言うの」


 父さんがいじける様に言うと、紫苑さんが注意するが無視だ。ってかこの人は俺の父さんに向かって『お義父様』なんて言ってるし。いつ貴方は義理の親子になったんですか?


 因みに父さんについてだが、俺の父である天城あまぎ聖也せいやは喫茶店『AMAGI』を経営している店長だ。見た目は……童顔故に凄く若々しく見える。ハッキリ言わせてもらうが、俺の兄貴ではないかと思うくらいに若い。俺と父さんが実は兄弟でしたなんて言ったら十人中十人は何の疑いも無く頷くだろう。


 あと本来だったら母さんがいる筈なんだが、既に他界していない。という事で俺の家は父子家庭である訳だ。


「すいません、義姉さん。ちょっとばかり父さんに反撃したくて」


「……何でそこで義姉さんなのかしらねぇ~?」


「やれやれ。これはお互い苦労してるね、紫苑ちゃん」


「全くです」


「…………………………」


 共感している父さんと紫苑さんに俺は無視して朝飯を食べ続ける。突っ込んだらまた変な方向に話しを持って行かれるからな。


「ところで紫苑さん。そろそろ時間じゃないですか?」


「え? ……あっ、やばっ! もうこんな時間! 小父様、朝錬が始まりますので失礼します! 朝ご飯とコーヒーありがとうございました!」


「何だ、もう行っちゃうのか。気を付けてね」


 コーヒーを飲み終えた紫苑さんはすぐに立ち上がり、近くに置いてあった鞄を持ってリビングを出ようとする。


「それじゃ修哉君! 先に行ってるからね! 遅刻しちゃダメよ!」


「分かってますよ」


 念を押してくる紫苑さんに俺が頷く。そして紫苑さんはすぐに家を出て学校へと向かった。


「ったく。朝練があるなら俺の家に寄らずにそのまま学校に行けば良いのに」


「良いじゃないか。紫苑ちゃんと朝御飯を食べれるのは、父さんとしては嬉しいし」


 あの子は父さんからすれば娘も同然だからね、と付け加える父さん。


「しかしまぁ紫苑さんって何で時折家で朝飯を食べるんだ? 自分の家で食べれば良いのに」


「まぁそう言わずに……。ところで修哉、話は変わるんだけどさ」


「ん?」


 話題を変えてくる父さんに俺は最後に残った焼き鮭を食べながら聞く。


「今年も剣道部に入らないのかい?」


「前にも言ったけど、入部しないよ。剣道はあくまで俺が個人的にやってる事だし。部に入ってまでやろうっ気は無いしな」


「そっか……だとしたらまた剣道部の子達が執拗に修哉を入部させようとするだろうね」


「向こうにいい加減に諦めて欲しいんだけどな」


 特に『アイツ』はしつこいにも程がある。勝負に負けたら剣道部に入部するようにってムチャクチャな理論を吹っかけてくるし。


「もしかしたら『あの子』が、朝の校門前で待ち受けているかもしれないね」


「止めてくれ。父さんの予想は当たるから」


 冗談を言う父さんだが、アイツの性格を考えると絶対にいそうな気がする。もしいたら速攻で無視して学校に入らなきゃな。


「とにかくアイツに会わない様にしないと……。ごちそうさま」


「はい。お粗末さまでした」


 朝飯を食べ終えた俺は食器を台所へ持って行き、すぐに洗面所に向かって歯を磨く。


 その後部屋に戻って少しゆったりしていると……。



ピンポーンッ!



「お、何か今回はいつもよりちょっと早めだな」


 呼び鈴がなった事に、俺はすぐに鞄を持って部屋から出る。この呼び鈴は紫苑さんの弟である和人が来たって意味だ。和人とは時折一緒に学校に行く事も日課の一つになっている。


「そんじゃ父さん、行って来ます」


「行ってらっしゃい。ちゃんと弁当は持ったかい?」


「あるよ。ってか相変わらず量が多いけど」


「育ち盛りには丁度良いと思ってね」


「………まぁ良いけど」


 いくら育ち盛りとは言ってもあそこまで量の多い弁当を作るのはどうかと思いながらも、俺は玄関のドアを開けた。


「おはよう修哉。朝起きた時に姉さんの寝顔はどうだった?」


「朝からいきなりソレを聞くのか、お前は」


 爽やかな笑みを浮かべながら訊いてくる和人に俺が少々顔を顰める。


 まぁ何はともあれ、一先ず今日も一日頑張るとしますか。

先ずは修哉の朝の日常でした。

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