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第22話

「美人な先輩は誰かって……何でそんな事を訊きたがるんだ?」


 羽瀬川の問いに俺は念の為に尋ねる。


「別に深い意味はありませんので気にしないで下さい」


「……………」


 そうは言うがな羽瀬川。じゃあ何故そんな真剣な顔して詰問するかのように俺に近付いているんだ? まるで返答次第では許さんみたいな感じだぞ。


 別に羽瀬川には紫苑さんの事を教えても良いんだが、何故か剣呑な雰囲気を醸し出してるから、本能的に躊躇ってしまう。


 躊躇う理由としては、もしかしたら羽瀬川が紫苑さんの事を聞いたら何かやらかさないかと懸念している。別に紫苑さんの心配はしてない。寧ろ羽瀬川の方だ。


 羽瀬川は剣道をしてる事もあって、相手が強いと知ったら試合を挑むと言う武人的な一面がある。もし紫苑さんの事を教えたら、絶対コイツは試合を挑むと思う。そして確信に近い予想で、羽瀬川は紫苑さんに負けるという場面を思い浮かべる。


 武道全般を特技とし、俺を鍛えてくれた紫苑さんは剣道の腕も立つ。今の俺では紫苑さんに一本を取るのには至難のわざだから、いくら剣道部のエースと呼ばれる羽瀬川でも簡単には勝てない。昨日の試合では俺と互角だったから、先ず間違いなく勝てない。それだけ紫苑さんとの力の差があるから。


 オマケに紫苑さんは栖鳳学園の生徒会長で高嶺の花と謳われているから、色々と面倒な事になる。もしそうなって俺が絡んでいると自称“紫苑さんの親衛隊”連中が知ったら何かしらの非難をするに違いない。あの連中は自分達以外の男が紫苑さんに迷惑をかけるような事をしたら即座に動き出すからな。自分達のやってる事を棚に上げる傍迷惑な連中だが、それだけ紫苑さんは人気があると言う証拠だ。


 っと、話が脱線してしまったな。ともかく羽瀬川には紫苑さんの事を教えたら色々と面倒な事になるから、ここはどうにか誤魔化すしかない。


「さあ、早く教えて下さい天城。言っておきますが、誤魔化そうしないで下さいね。先程わたくしに嘘偽り無く答えるようにと念を押したのですから」


 って、そうだった。もし嘘だとバレたら、俺は確実に羽瀬川の近くに置かれている竹刀でシバかれるかもしれない。


「えっと……答える前にコッチから一つ訊きたいんだが、もし教えたら羽瀬川はその後どうするつもりだ?」


「先程も言ったとおり、深い意味はありません」


「深い意味が無いなら別に教えても――」


「天城、同じ事を何度も言わせないで下さい。さあ、一体誰なのですか?」


 答える気は無しかよ。少しくらいは教えてくれよ。


 けど今のコイツにそんな事を言っても教えてくれないだろうし、紫苑さんの事がバレないように誤魔化しても嘘だと見抜かれてしまう。


 くそっ。本当だったらこの場は何とかしたかったが、やっぱり無理みたいだな。下手に長引かせたら、それはそれで羽瀬川が怒りそうだ。


 仕方ない。ここは正直に言った後、内密にしてもらうよう頼むしかない。今の俺に出来るのはそれしか無いのだから。


「………分かった、教える。あと出来れば周囲に知られたら騒ぎになると思うから、決して他言しないで欲しい」


「失礼ですね。わたくしが誰かに言い触らすとでも思っているのですか?」


 心外そうに言う羽瀬川。まぁ確かに羽瀬川はそんな事をする奴じゃないのは分かってる。


 けど万が一にも、あの親衛隊の耳に入ったら確実に面倒な事になるから、それを避ける為に念を押しておかないと不味い。


「別にそうは思っちゃいない。けど今回は教える相手が相手だから、ちょっと念を押しただけだ」


「貴方がそこまで言うって事は……そんなに有名な人なんですか?」


「まぁ、有名と言えば有名だな」


 学校だけじゃなく、家柄としても。


「羽瀬川、さっきも言ったが決して――」


「分かってます。ですから早く言って下さい」


「よ、よし。じゃあ言うぞ」


 早く教えろと催促する羽瀬川に俺は意を決する。


「えっと、俺を鍛えてもらった人はな……」


「………………」


「この栖鳳学園にいる……」


 俺が途切れ途切れに言っても聞き漏らすまいと集中して聞いている羽瀬川。そうしてると言い辛いんだが、最後まで言おうとする俺。


「……三年の現生徒会長、佐伯(さえき)紫苑(しおん)先輩だ」


「………………はい?」


 紫苑さんの名前を出した俺に羽瀬川は目が点になった。


 そりゃそうだろう。一介の生徒である俺が、栖鳳学園のアイドルとしても名高い生徒会長と接点がある事自体有り得ない。羽瀬川の驚きは至極当然だ。


「あ、天城が……あの生徒会長に……?」


「あともうついでに、和人と一緒にいる事もあって佐伯先輩とは幼馴染でもある」


「お、幼馴染!?」


 何だ? さっきまでの反応とは全然違うんだが。俺何か変な事を言ったか?


「そ、それはつまり、天城は幼い頃から生徒会長と親しいと言う事ですか!?」


「一応そうだが……」


 ってか、そんなデカイ声を出して言わないで欲しいんだが。今は屋上に誰もいないが、もし聞かれでもしたら洒落にならない。


 それにしても、何でコイツはこんなに焦っている? ちゃんと教えたってのに。


「ま、まさか天城……! あ、あ、貴方ひょっとして……まさかその生徒会長とつ、つ、つ、付き合っていらっしゃるとか……?」


「まさか。んな訳無いだろうが。あの人とはあくまで幼馴染だけの関係だ。それ以上の関係は無い」


 仮にそうなっていたら俺は確実にあの親衛隊連中だけじゃなく、和人を除く栖鳳学園の男子生徒全員にリンチされてるっての。


 だから羽瀬川、それはある意味俺に死ねと言ってるも同然だから発言には気をつけような。


「そ、それは本当ですか!?」


「本当だって。だからそんな真剣な顔して言うな。あと近いんだが」


「え………あ……ゴホンッ。す、すいません」


 顔を近づけながら言って来る羽瀬川に指摘すると、それに気付いて顔を赤らめ、咳払いしながら距離を取ってすぐ俺に謝る。


「まぁとにかく、佐伯先輩とは幼馴染の事もあって、剣道も強かったから俺を鍛えてくれたんだ。それで剣道三段も取得出来たって訳。これで分かったか?」


「…………い、一応は」


 おい、一応って何だよ。まだ何か納得出来ない所でもあるのか?


「そ、それにしてもまさか天城があの有名な生徒会長と接点があったとは……正直言って意外です」


「そうだな。俺自身もどうしてあの人と幼馴染なのかと時々疑問に思う事がある」


 紫苑さんだけじゃなく、和人にも言える事なんだけど。


 平凡な庶民の俺が御曹司の和人やご令嬢の紫苑さんと幼馴染と言うのは、余りにも意外過ぎる。普通、幼馴染と言うのは家が隣同士とか言うのがセオリーなんだがな。まぁそんな事を以前に二人の前で言ったら怒られたけど。


 けど和人はともかく、紫苑さんはちょっとなぁ。あの人は俺と二人っきりの時には子供っぽく甘えるように抱き付いてくるし、家に泊まる時には隙あらば俺と一緒に寝ようとするし……はぁっ。思い出すだけで溜息を吐いてしまう。


「天城、さっきから何をブツブツ言ってるのです?」


「……あの人には恥じらいや警戒ってもんが全く無いんだよな。今でも俺と一緒に寝ようとするから……(ブツブツブツ)」


「!!!」


 ここはいっそ、紫苑さんの父親に頼んで説教してもらうように頼んだ方が良いかも知れないな。いくら俺が言っても全然聞かないから、別な人に言ってもらわねば。うん、そうしよう。


 おっといかん。まだ羽瀬川と話してる最中だったな。もう羽瀬川の用件は済んだから、早く教室に戻るとしよう。


「ってな訳で羽瀬川。さっきも言ったが、佐伯先輩との事については他言無用で頼むな。あんまり公にしたくないから。それじゃ俺はこれで――」


「ちょっと待ちなさい。貴方にまだ聞きたい事があります」


「え?」


 俺が屋上から去ろうとすると、羽瀬川がいきなり引き止めた。すぐに振り返ると羽瀬川の様子が何やらおかしい。


「何が聞きたいんだ?」


「天城、貴方は……今でも生徒会長と寝泊りしてると言うのは本当ですか?」


「んなっ!?」


 な、何でそれを知ってる!? い、いかん! こ、此処は何事も無かったかのように振舞わねば……!


「な、何言ってるんだ? 俺が佐伯先輩と寝泊りしてる訳が無いだろう。何を根拠にそんな……」


「さっき声に出ていましたよ。『恥じらいや警戒が無い』とかブツブツと」


 う、うそっ……! こ、声に出していたのか俺!


「ふ、ふふふふふふ………全く貴方と言う人は。生徒会長と幼馴染と言っておきながら、今でも寝泊りしているとは完全に予想外でした。貴方は“男女七歳にして席を同じうせず”と言う常識が無いのですか?」


 男女七歳って……いつの時代の常識なんだよ。ってか俺や紫苑さんは十六~七歳で……って違う。まぁ確かにソレは問題あるのは認めるが……だからと言って何故お前がそこまで怒ってるんだ?


「と、取り敢えず落ち着け羽瀬川。お前が何を勘違いしてるかは知らんが、別に佐伯先輩とはそこまで深い関係じゃないぞ」


「では何故一緒に寝泊りしてるんですか? 普通はそう考えるものでしょう」


「い、いや……それはあの人が勝手に俺の部屋に忍び込んで寝ているだけで……」


「ほう……貴方の部屋に忍び込んで、ですか」


 あっ。何か俺ヤバイ事言ったかもしれない。その証拠に羽瀬川が竹刀を持って構えてるし。


「どうやら貴方を本格的に……いや、徹底的に叩き直さないといけませんね。この………無自覚な女誑しが!!」



 ブオンッ!



「おわっ! ちょ、ちょっと待て羽瀬川! お前絶対に勘違いしてるだろ!?」


 いきなり上段攻撃を仕掛ける羽瀬川に俺は咄嗟に避けるが、空かさず攻撃を続けてきた。

結局、愛美にボコられそうになる修哉でした。


どうなるかは次回お楽しみに!

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