第21話
午前の授業が終わった昼休み。
(う~ん……どうやって謝ろうかと色々考えてみたけど、どれも上辺だけの台詞にしかならないな)
教室で弁当を食べながら、俺はこの後の事を考えている。羽瀬川からのメールでは昼食後に屋上へ行く事になっているので、今はこうしているのだ。
(やっぱりここは和人の言うとおり、自分が思ったままを言うしかないか……。よし、そうしよう)
「修哉、その鳥の照り焼き一つ貰うぜ」
結論してる俺に、いつのまにか錬が持ってる箸でヒョイッと俺の弁当のオカズの一つを取って食べていた。
って、ソレ今俺が食おうとしてたのに。
「うんめぇ~♪」
「お前なぁ……勝手に人の弁当のオカズを食うなよ」
「良いじゃねぇか。修哉一人じゃ食いきれねぇから、俺も手伝ってるんだからよ~」
「そう言う問題じゃないんだが……」
「ちょっと錬く~ん。それはちょっとマナー違反じゃないかな~?」
「貴女には遠慮と言う単語がないのかしら?」
錬の台詞に呆れている俺に、昨日と同じく江藤と沢井が弁当を持ってコッチに来た。
ってかお二人さん、錬に注意しながら言ってるけどさ。揃って片手に持ってるその箸は一体何だ? まるでいつでもオカズを取れるように準備してるようにしか見えないんだが……?
「んだよ、愛奈ちゃん達だって修哉の弁当のオカズを狙ってんじゃねぇか。人のこと言えねぇだろ」
「失礼ね。私達は天城君から許可を貰った後にオカズ交換するのよ」
「そうそう。錬君とは違ってボク達は交換するんだから」
さいですか。どっち道は俺の弁当を食う事に変わりないんだな。まぁ別に良いけどね。
それにしても今回もこの三人がまた俺の弁当のオカズを食べるとはな。てっきり他の連中が来ると思っていたんだが。
『ちっ! 今日も行き損ねた!』
『タイミングが悪かったか……』
『ったく、あの三人は良いなぁ~。席が天城の近くだからすぐ食えるし……』
あ、そう言う事。じゃあ今度俺が移動して弁当のオカズをやるよ。但し、ちゃんとしたオカズを交換してもらうと言う条件付きでな。
「天城君、タコさんウィンナー2本あげるから、小さめのハンバーグ頂戴」
「私は卵焼きを貰うから、このクリームコロッケをあげるわ」
「どうぞお好きなように」
二人のオカズ交換に俺は了承しながら弁当を食べ続ける。
そして錬、江藤、沢井と一緒に弁当を食べて15分後、俺は屋上にいる羽瀬川に会いに行く為に教室を出る。
「そんじゃ、ちょっくら行ってくる」
「おう」
「ちゃんと愛美ちゃんに謝るんだよ、天城君」
「? 一体何の話?」
教室から出ようとする俺に錬と江藤は見送り、沢井は状況が飲み込めずに分からない顔をしていた。
あ、そう言えば沢井は知らなかったんだな。俺が羽瀬川を怒らせた事を。まぁそれは江藤が今から説明するだろう……多分俺が戻ってきたら呆れ顔になると思うが。
って、今はそんな事より早く屋上に行かないと。いくら昼食後とは言え、羽瀬川の事だから早めに昼食を済ませて屋上にいるかもしれない。
「あれ? 修哉じゃないか。そんなに急いでどうしたんだい?」
急いで屋上に向かおうとしていると、二組の教室から狙ったかのように和人が出てきた。
「悪いが和人、今急いでいるから」
「急いでるって……ああ。羽瀬川さんの件かい? 彼女なら既に昼食を食べ終えてもう教室には――」
「アイツがいる所は知ってる。そんじゃ」
「ちょ、ちょっと修哉!」
引き止めようとする和人を振り切った俺はそのまま屋上へと直行する。
今度は誰にも会う事無く屋上に着くと、そこにはメールの申告通りに羽瀬川がいた。それと何故か知らんが、アイツの近くに竹刀が置かれているけど敢えて無視しておこう。
「え、えっと……。昼食後とは言え、待たせてしまったか?」
「いいえ、お気になさらず。わたくしもつい先ほど此処に来たばかりですので」
つい先ほど? おかしいな。さっき和人に会った時、もう既に教室から出たと言ってたが……まぁ良いや。あんま気にしないでおこう。
しかし羽瀬川の奴、何か妙だな。昨日の江藤の話だと、『愛美ちゃんは泣きながら帰ったから、明日はそう簡単に許してもらえないほど怒ってるよ』って言ってたから凄く怒っていると思ってたんだが。だけど今は違う。まるで今は必死に心を落ち着かせて、いざ判明したらぶっ飛ばす……みたいな感じだ。
まぁ今は取り敢えず早く羽瀬川に謝ろう。怒らせた元凶が俺だから、こっちが先に言わないといけないからな。
「それより天城、わたくしは貴方に訊きたい事が――」
不味い。向こうが言い切る前に早く切り出さないと。
「あ、あの、羽瀬川。昨日は、その……すまなかった。お前の想いを踏み躙る事を言ってしまって」
「………………」
謝りながら頭を下げる俺に羽瀬川は黙って聞いていたので、俺はそのまま続ける。
「えっと……自分で言うのも何だが、俺って恋愛とか全くと言っていいほど良く分からない上に縁が無い物だったから、俺を異性として好きになってくれる相手はいないと勝手に決め付けて……」
「………………」
「だから、お前が俺を好きと言ったその時には、まだ友人としか思ってなくて……その、本当に悪かった」
「……そうだろうと思ってました(ボソッ)」
「えっ?」
更に深く頭を下げると羽瀬川が何か呟いたので、思わず頭を上げて聞き返した。
「何でもありません。とにかく、わたくしは昨日の事についてはもう気にしていませんから」
「な、何故だ……?」
余りの展開に訳が分からず俺は頭の上に“?”ばかり浮かべる。
昨日は竹刀で俺の頭を殴るほど怒っていたと言うのに、何故こんなアッサリとした返答なんだ? てっきりまた激怒して、殴られるのを覚悟していたんだが。
「お前はあの件で俺を此処に呼んだんじゃないのか?」
「いいえ。わたくしは別の用件で貴方を呼んだのです」
「別の用件?」
何だそれ? 昨日の告白の件よりも重大な物なのか? え~っと、アレ以外で俺何かした? 今必死に昨日以外の事を思い出しているんだが全然無い。アレ以上に俺が羽瀬川に大変失礼な事をした憶えは全く無いんだが。
「あ、あのぅ、羽瀬川? 別の用件とは一体……?」
「昨日、ご自分で言った事をもう忘れたんですか?」
え!? 忘れてる!? 俺は一体何を忘れたんだ!?
頭の中をフル回転して必死に思い出そうと………してもやっぱり全然無かった。
そんな俺の様子に羽瀬川が呆れたような顔をしている。
「はぁっ……。どうやら本当に忘れているようですね」
「………すいません」
本当に何を言ったのか忘れている俺は再び謝るしかなかった。ってか、もうソレしかない。
「え、えっとぉ……本当に本当に申し訳無いんだけど、差し支えなければ教えて貰えないでしょうか? 俺は羽瀬川に一体何を言ったのかを……」
「…………………」
俺のお願いに目を細めて睨んでくる羽瀬川だったが、溜息を吐きながら言う。
「でしたらその代わり、わたくしの問いには嘘偽り無く答えること。良いですね?」
「は、はい……」
念を押してくると羽瀬川に俺が迷わず答えると話し始めた。
「貴方はわたくしとの試合中にこう言ってましたよ。『とある美人な先輩が鍛えてくれたお蔭で3段を取得できた』と」
え? ……………………あ~~、そう言えば試合中にそんな事を言ったような気が。確かアレを言った事によって、羽瀬川の動きが急に速くなって一本を取られたんだったな。その時の羽瀬川は凄く強かったな。
けどソレと今回呼び出した事と一体何の関係があるんだ? さっぱり分からんぞ。
「わたくしが訊きたいのは……。天城、貴方が言った美人な先輩とは一体誰なのですか?」




