第17話
「今日の夕ご飯はデミグラスハンバーグとフライドポテトとほうれん草のソテー、そしてワカメと豆腐の味噌汁とライスです。どうぞ召し上がって下さい」
「修哉君、小父さま、残したら承知しませんからね」
食卓のテーブルには凄く美味しそうな料理が並んでおり、お腹が空いてる俺にとっては腹の虫が鳴りっ放しだった。
「へぇ~凄いね~。これ全部綾ちゃんと紫苑ちゃんが作ったの?」
父さんは二人が作った料理を見て驚きながらも感心していた。言うまでも無いが俺も驚いている。
「メインの料理は綾ちゃんが作って、私は殆どはサポート程度です」
「そんな事無いよ紫苑お姉ちゃん。お姉ちゃんのアドバイスが無かったらハンバーグが上手く作れなかったんだから」
「あらあら、嬉しい事を言ってくれてありがとう綾ちゃん♪」
本心から言っている綾ちゃんに笑みを浮かべて礼を言う紫苑さん。内心かなり喜んでいるだろう。
「ハッハッハッハ。二人を見てると本当に仲の良い姉妹に見えるよ」
「何言ってるんですか、小父さま。私と綾ちゃんは血は繋がっていませんけど、姉妹同然なんですから」
「わぷっ! し、紫苑お姉ちゃん、急に抱き付かないでよ~」
心外だと言わんばかりに紫苑さんは父さんに姉妹だとアピールする為に綾ちゃんに抱きつくと、綾ちゃんが若干苦しそうな表情をしていた。
「だってこうでもしないと小父さまに私と綾ちゃんが姉妹だって事が証明されないんだから」
「だ、だからってこんな事してなくても~」
「悪かったよ紫苑ちゃん。だから綾ちゃんを――」
「あのさぁ。話の途中で割り込んで申し訳ないけど、そろそろ食べても良いかな?」
何やら夕飯を食べる前に話が弾みそうな気がしたので、俺が割り込んで話しを区切らせると、父さん達は思い出したかのようにコッチを見てくる。
「おっといけない、早くご飯を食べないと折角綾ちゃんが作った料理が冷めちゃうところだったよ」
「ゴメンなさい修哉君。さ、食べましょうか」
「どうでもいいけど紫苑お姉ちゃ~ん、早く離して~」
「いつまで綾ちゃんに抱きついてるつもりなんですか、紫苑さん?」
紫苑さんの行動に呆れて指摘しながら、俺は綾ちゃんが作ったハンバーグを食べようとする。
「それじゃあ頂きます……(モグモグ)……」
「………………」
ハンバーグを食べた俺に綾ちゃんだけでなく、紫苑さんや父さんがジッと俺を見ていた。特に紫苑さんは真剣な顔をして。
「うん、美味い。口に入れた途端に肉汁がジュワっと広がって、デミグラスソースもハンバーグの味を引き立ててるよ」
「やったぁ! ありがとう、修哉お兄ちゃん!」
「当然よ。綾ちゃんの作る料理は美味しいんだから……(モグモグ)……美味し~♪」
俺の評価に綾ちゃんは凄く喜んでおり、紫苑さんは頷きながらハンバーグを食べて幸せそうな顔をしている。
「とても美味しいよ綾ちゃん。私の作るハンバーグとは大違いだ。今度作り方を教えてくれないかな?」
「せ、聖也おじちゃんに比べたらアタシの料理はそんなに……」
父さんの発言に綾ちゃんが少し戸惑ってる。料理を教えてもらっている父さんにそんな事を言われるとは思ってもいなかったんだろう。
余談になるが、綾ちゃんが料理を作る事に興味を持ち始めたのは、二年位前に家で夕飯を食べたのが始まりだった。その後から家に遊びに来て父さんが料理を作ってる時、綾ちゃんは台所に入ってはジッと見ている事があった。そんな綾ちゃんの行動に父さんは手伝いをさせ、いつのまにか料理の先生役になって指導し今に至る。
それ以降、綾ちゃんは父さんを凄く尊敬しており、仕事と家事を両立出来るように目標を立てている。父さんと綾ちゃんって一種の師弟関係みたいに思えるのは俺の気のせいではないと思う。
「小父さまにそこまで言わせるなんて流石ね。姉として鼻が高いわ」
「もう姉を強調しなくても良いですよ。紫苑さんが綾ちゃんと姉妹だって事はもう分かりましたから」
ハンバーグを食べながら呆れて指摘する俺に紫苑さんがこっちを見る。
「あ、そうそう修哉君。ご飯を食べたら後で――」
「お断りします」
「……まだ何も言って無いよ?」
「どうせ俺と一緒にお風呂に入ろうって言うつもりだったんでしょう? 考えはお見通しですよ」
先に釘を刺しておかないと人が入浴中に勝手に入って来るからな。以前なんかバスタオルを巻かないで俺の背中に胸を当ててきて……って俺は何を思い出してんだよ。今は飯を食うことに集中しないと。ともかく紫苑さんに釘を刺しておかないと色々面倒な事になる。
「もう。修哉君ったらノリが悪いんだから」
「ノリ以前に男と風呂に入ろうとする紫苑さんがどうかと思いますが……」
「じゃあ子供のアタシが修哉お兄ちゃんと一緒に――」
「綾ちゃん、君が子供だろうと大人だろうと異性と一緒に風呂に入ること自体問題だと言う事を覚えておくように」
増してや綾ちゃんの見た目が女子高生並みのスタイルだから尚更だ。ってか綾ちゃんも年頃の女の子なんだから、そろそろ恥じらいと言う物を持って欲しいんだが。
「ハッハッハッハ。良いじゃないか修哉。可愛い女の子とお風呂に入れるなんて凄くラッキーなんだから」
「父さんだったら喜んで入るのか?」
「いやいや、父さんは妻の香奈枝を裏切る事はしないよ」
相変わらず母さんの事を未だに愛しているんだな。もし母さんが生きてて、この会話に加わってるとしたら絶対にラブラブな展開になっていそうな気がする。
何だかんだと話している内に夕食が終わり、
「あ、修哉君。私達は修哉君の部屋で寝ようと思ってるんだけど」
「………お好きなように」
紫苑さんの突然な発言に俺は何も言い返すことなく淡白な返事をした。
「あれ? てっきり何か言い返すかと思ってたんだけど」
「もう慣れましたから」
そりゃもう以前から人を困らせるような行動ばかりしていたから自然と耐性が付く。例えば背後から俺を抱き締めたり、俺が風呂で入浴中に無断で風呂に入ったり、家に帰りたくないからと言って俺の部屋に寝泊りしたり等々……本当に困らせるような事ばかりしてくれたからな。
「ゴメンね修哉お兄ちゃん。アタシは別の部屋で良いって言ったんだけど」
「構わないよ。寧ろ綾ちゃんが一緒なら好都合だ」
「?」
紫苑さんが変な行動をしない為の抑止になるからな。
「ま、まさか修哉君、私が寝てる間に綾ちゃんに手を出す気じゃ……!」
「ああ、香奈枝……ついに修哉が犯罪に走ろうとしてるよ……」
アホなこと言ってる二人は無視してさっさと風呂入ろう。その後は……綾ちゃんが今日嫌な目に遭った事を忘れさせる為にゲームでもするか。




