第12話
~修哉視点~
「やあああ~~~!!! 面ッ!」
「くっ!」
バンッ! ダダンッ!
(今の面は少し危なかったな。防がなかったら確実に一本取られるところだった。羽瀬川の奴、一年見てないだけでこんなに強くなっているとは……!)
試合開始して五分以上経つが、俺と羽瀬川はまだお互いに一本を取っておらず打ち合いを続けていた。攻撃をしては防いだ後に鍔迫り合いをするのをもう何回も繰り返している。
それを何度も繰り返した事によって、剣道部員達は驚きながらも固唾を呑んでいる。和人達も同様に。
にしても羽瀬川は本当に強くなったな。中学の頃とは桁違いに実力が上がっている。紫苑さんに鍛えられていなかったら速攻で負けていたかもしれない。
確か和人から聞いた話だと羽瀬川は剣道部のエースだと言っていた。去年の新人戦では惜しくも準優勝だったらしい。
(だが準優勝であろうと関係無い! 俺はただ羽瀬川に勝つだけだ!)
経歴がどうあれ、今は試合に勝つ事に集中しなければ!
「はああああ~~~!!」
「やああああ~~~!!」
ダダダンッ! パンッ! ダンッ! ググググッ!
再びはお互いに打ち合いをして鍔迫り合いをする俺と羽瀬川だったが、
「小手ッ!」
バシッ!
「うっ!」
俺は咄嗟に身を引くと同時に小手をした。これは引き小手と言う。
「小手ありっ!」
俺が小手を決めたことによって、審判の部長さんがそう宣言して旗を揚げる。俺が一本取った証拠だ。
「ふうっ。先ずは一本か」
「……剣道部に入らなかったのにも拘らず以前より強くなっていますわね、天城」
少し安堵している俺に羽瀬川が嬉しそうに言って来る。
「これでも一応剣道三段を持ってるからな」
「そうでしたわね。けど三段を取得するのは高校生ではかなり難しい筈ですが?」
「とある美人な先輩が俺を鍛えてくれたお蔭で取得できたんだよ」
栖鳳学園生徒会長の高嶺の花である紫苑さんに鍛えられたなんて言ったら、絶対に騒ぎになりそうだと思ったので敢えて伏せている。
「………へぇ。美人な先輩、ですか。それはとても興味深いですわね」
な、何だ? 急に羽瀬川が殺気立ったような気がするんだが……?
「ふ……ふふふふ。どうやら天城は少し見ない内にその美人な先輩に現を抜かしているようですね。これは是非とも剣道部に入部させないと……」
「え、えっと、羽瀬川?」
「はいはいお二人さん。話は後にして早く始めてね」
俺と羽瀬川の会話に部長さんが二本目の試合をするように促してきたので、一先ず羽瀬川と再び対峙する事にした。
だが対峙しているのにも拘らずに羽瀬川から物凄い殺気染みたオーラを出しており、
「始め!」
「胴ォ~~~!」
パアンッ!
「くっ! は、速いっ!」
部長さんの宣言と同時にいきなり胴を打ってきた。かなり速かったが俺は何とか防ぐ。
「やああああ~~~! はああああ~~!」
バンッ! ババンッ! ダダンッ!
(な、何だ!? 何でいきなりこんなに動きが速くなったんだ!? ってか面越しからでも妙に怒ってるのが分かるし!)
羽瀬川の早く鋭い上に的確で強烈な攻撃を仕掛けてくる。そんな羽瀬川に今俺は防戦一方だ。
まさか羽瀬川の奴はさっきまで手加減していたのか? いや、俺が一本取る前でもアイツは充分に本気でやっていたからソレは無いだろう。
じゃあ一体この強烈な攻撃は一体何なんだよ。俺何か羽瀬川を怒らせる発言でもしたか?
ってやばっ!
「め~~~~んっ!!!」
バシイッ!!
「うぐっ!」
羽瀬川の強烈な面を喰らってしまい滅茶苦茶痛かった。防具着けてもこんなに痛いなんてどんだけ力を込めてるんだよ。
~和人視点~
何だ? 羽瀬川さんの動きが急に速くなったね。それによって修哉はあっと言う間に取られちゃったし。
そう言えばさっき修哉が一本取った後に羽瀬川さんと話していたけど何か遭ったのかな?
「す、凄いね愛美ちゃん。さっき天城君に一本取られたのに、二本目を始めて早々もう一本取っちゃったよ」
「さっきまでとは別人と思うくらいに羽瀬川の動きが速かったな」
俺だけでなく江藤さんや鬼灯も驚いている。
「つーかさ。羽瀬川の奴は何か修哉と話した直後、妙に殺気立ってねぇか?」
「そうなの? 天城君に何か気に障ることでも言われたのかな?」
あの修哉がそんな事を言うとは思えないんだけどねぇ。けど羽瀬川さんが殺気立っているのは確かだし。
修哉、君は彼女に一体何を言ったんだい?
「ま、羽瀬川が何でああなっているのかは知らねぇが、取り敢えずは次で決まるな」
「錬君は今でも天城君が勝つと思ってるの?」
「当然。ダチの勝利は疑ってねぇからな。それに修哉はどんな不利な状況でも絶対に勝つ」
「………………」
鬼灯は修哉の事が良く分かっているかのような言い方をしているね。
「んあ? どうした佐伯。何か面食らったかのような顔してるが」
「君がそこまで修哉の勝利を疑ってない事に対して少し驚いているんだよ」
「んなもん大した事はねえ。お前だって修哉が勝つのを疑ってはいないんだろ?」
「当然だよ」
君に言われるまでもないよ。と言うか鬼灯、あたかも自分が修哉の事を良く分かってるかのような言い方をすると、本当にイラッと来るから止めてくれないかな?
「じゃあやる事は一つだな……こおおおお……」
「「?」」
鬼灯が突然息を吸い込んでいる事に俺と江藤さんは不可解に思ってると……。
「修哉~~~! お前が負けるとは微塵も思ってねえが、もし負けたら承知しねえぞ~~~!」
いきなりデカイ声を出す鬼灯に俺達だけでなく、剣道部員達や修哉と羽瀬川さんもコッチを見ていた。
「ここで男の意地を見せやがれ~~!」
「言われなくてもそのつもりだ! はあああああ~~~!!」
そして修哉は鬼灯の応援に呼応するかのように先程まで防戦一方から一気に攻勢に出た。
う~ん、本当は静かに見ているつもりだったけど、鬼灯が応援してしまったら俺もやらざるを得ないね。
「頑張れ修哉~~~!」
「ファイトだよ天城く~~ん!!」
俺だけでなく江藤さんも一緒に応援するのであった。




