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第9話

「ふうっ。さてと、早く学校に戻らないとな」


 家に着いてすぐに剣道具一式を所持し、すぐにそのまま学校に戻る。


 帰ってすぐに学校に戻るなんて初めてだな。


「修哉、制服のまま剣道具を持って何処に行くんだい?」


「ん? 父さんか」


 玄関で靴を履いてる最中、いつの間にか家にいる父さんが俺を見て不思議そうに見ていた。


 そりゃ父さんも俺が家に帰ってきて早々着替えないでまた出かけるなんて珍しい光景だから、そんな事を言うのは当然だ。


「ちょっと羽瀬川と剣道勝負しなきゃいけない事態になってな。で、今からまた学校に戻るんだ」


「あの子と勝負? へぇ~。やっと彼女と勝負する気になったのか」


 理由を教えると父さんは感心そうに言って来る。


「となると修哉は剣道部に入部する事になるのかな? う~ん、店を手伝って欲しい時にいないのは少し痛いけど、まあ仕方ないね」


「それは俺が負けたらの話だっての。と言うか俺が負ける前提の話しをしないで欲しいんだけど」


「いや、愛美ちゃんって結構強いのは知ってるもんでつい、ね」


 父さんが羽瀬川の事を下の名前で呼ぶのは、羽瀬川が“AMAGI”に来てる常連客で仲が良い為に下の名前で呼ばれている。


「けど修哉。愛美ちゃんに勝てるのかい? いくら修哉が剣道三段でも、あの子もかなりの腕前だそうだよ」


「知ってるからコレを持って行くんだよ。それに羽瀬川が強くても、俺はそれを全力で立ち向かって挑む。ただそれだけだよ」


「ふ~ん。何か武人みたいな台詞だね」


 俺の台詞に父さんは笑みを浮かべてきた。別にそんなつもりで言ったんじゃないんだが。


「じゃあまた行って来るよ。それと父さん、帰って来る時は錬と江藤を店に連れて来るから」


「分かった。ケーキを用意して待ってるってあの子達に言っておいて」


「了解。それじゃ」


 そう言った俺は靴を履いてすぐに玄関のドアを開けて再び学校へと向かった。


「コレ持って学校に行くのは初めて……ん?」


 学校へ向かってる最中に俺は足を止めて、公園で動物達に囲まれている俺と同い年と思われる女子を見た。


 そこには犬や猫、鳩やスズメやカラスが一人の女の子を囲っている。



『ワンッ! ワンッ!』


『ニャ~ニャ~』


『ポッポ~』


『チチチチ……』


『カァ~カァ~』


『うん。ありがとう皆。アタシ大丈夫だから』


 

「…………………」


 動物達が女子を励ましていると思われる異様な光景と言うべきだろうが、俺には凄く見覚えがある。


「………ちょっと声をかけるか」


 そう思った俺は近づき、


「此処で何をしているのかな?」


「え?」


『!!!』


 声をかけると同時に動物達が蜘蛛の子を散らすよう一斉にいなくなり、女子の方はキョトンとしながら俺を見る。


「あ、修哉お兄ちゃん」


「やあ綾ちゃん。奇遇だね」


 俺と女子は互いに名前で呼び合う。それは即ち、俺達は知り合いなのだ。


 彼女は宮本(みやもと)(あや)。俺の父さんの友人である彼女の母親を通じて知り合った友人の一人。


 因みにこの女子は身長160cm以上あるが、それとは裏腹に実は小学六年生の女の子だ。その証拠に彼女の近くには赤色のランドセルがある。


「動物達と遊んでいたみたいだけど、何か遭ったのかい?」


「え、別に何も……」


 俺は近くのベンチに座り、一緒に座っている綾ちゃんにある事を聞こうとするが本人が話そうとしない。


「隠さなくても分かるよ、綾ちゃん。君がああしてたって事は……また苛められたんだろ?」


「……………………」


「………はあっ、やはりな」


 無言で顔を俯く綾ちゃんを見て俺は確信した。綾ちゃんの同級生である悪ガキ共の仕業だと。


「ったく。アイツ等は懲りずにまた同じ事を繰り返すとは。アレだけ説教したってのに……。今回は何をされたんだ?」


「………………………」


「綾ちゃん、此処には俺だけしかいないから」


「…………またいつものように、悪口言われたり物を隠された。それに……」


「それに?」


「………何故か女の子からも」


「………………」


 男だけじゃなく女からもかよ。何故そこまでして綾ちゃんを苛めようとする、あの悪ガキ共の考えは分からんな。


 いくら綾ちゃんが他の子達より違うから言って、苛める理由にはならない。


「あ、でも今回は賢君が何故かアタシを庇ってくれたから、そんなに酷くは無いよ」


 賢君が誰なのかは気になるが、今はそれ所じゃない。


「そう言う問題じゃないよ、綾ちゃん。酷くないとかそんなの関係ない。君が苛められた事に変わり無いんだから」


 あの悪ガキ共は綾ちゃんが反撃しないのを分かってるからな。


「とにかく今回の事はちゃんとお母さんと先生に言うんだ。それが無理なら、俺が代わりに言うが」


「で、でもそうしたらまた皆に迷惑を……」


「これは綾ちゃんの為でもあるんだ。いくら君がずっと我慢しても、あの悪ガキ共はいつまでも同じ事を繰り返すからな。今は動物達と遊んで気を紛らわしても、その内取り返しの付かない事になる」


「………………」


 再び顔を俯かせる綾ちゃんに俺は肩に手を置きながら更に言う。


「綾ちゃん、いつまでも一人で抱え込まないで誰かを頼るんだ。君のお母さんだけじゃなく、俺や父さん、和人や紫苑さんはいつだって君の味方だ」


 特に紫苑さんは綾ちゃんを実の妹のように可愛がってるからな。もし綾ちゃんが誰かに苛められてるのを知ったら、凄い事になるのが確定となる程に。


「…………………」


「困った事があったらいつでも言ってくれ。すぐに駆けつけるから」


「………ありがとう、修哉お兄ちゃん」


 綾ちゃんはそう言いながら可愛らしい笑みを浮かべる。


「けどいきなりお母さんに話すのは……それにお母さんは今仕事で家にいないから」


「なら俺の父さんに話すといいよ。父さんでも構わないだろ?」


「聖也おじちゃんに?」


「ああ」


 母親に話す事に決心が付かない綾ちゃんに俺は懐から携帯を出して父さんに連絡する。


「もしもし父さん。今から綾ちゃんを喫茶店に…………そう。またこの前の事が起きたから、父さんに綾ちゃんを……分かった。綾ちゃんにそう言っとく」


「おじちゃんは何て言ってたの?」


 父さんと話しを終えて携帯を終う俺に綾ちゃんが尋ねる。


「ジュースとケーキを用意して待ってるってさ。本当なら一緒に行きたいけど、俺は学校に戻らないといけないからな。一人で大丈夫かい?」


「大丈夫だよ。一人で何回も行ってるから」


「そうか」


 俺は剣道具一式を、綾ちゃんはランドセルを持って公園を出て別れた。

学校に戻る前のちょっとした出来事でした。

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