8年前 2
クラス替えから一ヶ月が過ぎた。
桜の花は散り、すでに新しい葉を我先にと伸ばしている。
初夏がもうすぐそこまで近づいてはいるものの教室のカーテンを
なびかせる風はまだ春の風だった。
教室には、クラス替え当時のよそよそしさはなく各自気の合う仲間を
見つけ始めていた。
こちらも例外ではなく新しい友人を作る事もでき、一通りクラスの面子
は顔は覚えていた。
席替えはまだ先のようで、相変わらずクラス替え初日に叩かれた女生徒は
私の後ろの席だった。
その頃には、お互いどうでもよい世間話をする中になっていた。
ショートカットの女性とは名前を「谷口 香」といいどちらかというと
活発な印象を与える雰囲気をもっていた。
相変わらず「ダイエット」には敏感らしいが、すこしぽっちゃりしている程度
でさほどダイエットが必要とは感じなかった。
大抵は、「谷口 香」とチャイムがなった後のわずかな時間にしゃべるのが日常だった。
そんなある日
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室の雰囲気が活気を帯びる。
45分間眠気と戦いわずかな休み時間に寝ようとした心に決める。
いつもなら、大抵は缶ジュースを買い行き、休み時間をそこで費やすのだが
眠気に負けた私は、机に倒れこむ。
あっという間に眠りにつく私の耳元に聞きなれない声が入ってきた。
活発な谷口の声とともに少しおとなしいような声が滑り込んでくる。
うつらうつらしながらそのまま眠りについた。
「先生きたよ!」
このまま眠っていたかったが、4時間目はやっかいな英語教師である事を思い出し
それと同時に、当てられたときの予習をしていない事が眠気を覚ました。
慌てて起き上がると、そこには英語教師の姿はなく休み時間はあと予鈴まであと5分もあった。
愕然とするこちらをよそに「谷口」の笑い声と寝付く前に聞こえた声が後ろから響いた。
憮然として振り返ると「谷口」とともに笑いを堪えてるセミロングの女生徒がいた。
たしか・・・・
セミロングのすこしさっぱりした顔つきのこの生徒は、「松川」っていった気がする。
苗字は覚えても名前までは覚えていない。
顔は「谷口」と正反対な印象だ。
活発な「谷口」と逆に大人しそうな「松川」目立つ存在ではないが、クラスの男子の間での評判はいいほうだったと思う。
「松川」とは話したことは2,3度あるかないか程度だった。
この二人が仲がよいとは知らなかった。
「松川」は顔の前で手を合わせ、ごめんと口をうごかしていた。
一方、「谷口」はあいかわらず笑っている。
それが「松川 礼子」との話すきっかけになった。
休み時間の度に「谷口 香」と話す「松川 礼子」
お陰で休み時間中 私の席は占領されることになった。
まぁほとんど自販機の所にいっているので実害はなかった。
チャイムより早く戻ってくるときは3人でしゃべる機会が増えていた。
偶然にも「松川」とは帰る方向が途中まで一緒である事が分かり、新しくできた
ファーストフードの会話も弾んだ。
「谷口」は帰る方向が逆でゆるい坂を上るだけで学校につくが、こちら二人は自転車で
逆の急な坂を上らなければならない事も盛り上がる要因になった。
チャイムと同時に、「松川」は席にもどり「谷口」との会話になった。
「谷口」はあの筆箱で頭を叩いた時の満面の笑顔で他のクラスメイトに聞こえないように
問いかけてきた。
「あんたぁ・・・礼子の事気にいってんじゃない?」
この笑顔の時にはろくな事がない。
ここで否定しても肯定しても「谷口」に格好の餌をあたえてしまう。
丁度、他校の彼女と別れた事もあって素直に答える事にした。
「まぁ・・・いい子だとは思うよ。」
すると満面の笑顔を浮かべたまま
「あっそう。 いい子でしょ?」
今回はなにかを企んではいないようだった。
自分の心の中でも確実に「松川 礼子」の存在は大きくなっていたのは事実だった。