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8年前 1

どうも居心地が悪い。


学年が上がり、クラスが変わる。

知っている顔もいれば、初めて見る顔もある。


教室全体が、「他人行儀」という言葉で包まれている感じだ。


黒板には、担任が書いたであろう「名簿の順に着席するように」と

大きく記されている。


見知った顔との挨拶を終え、自分の席を確認する。

出席番号順の為、教室真ん中の列しかも前から3番目という油断のできない

席だった。


浮ついた雰囲気の中、これからの睡眠時間の確保を考えながら席に着く。

まだ、席に着く必要はないのだが、せめて座って落ち着きたかった。


すでに何人かは席に着き、所在なしげに携帯電話をいじっていた。


携帯をいじろうかとも考えたが、月曜日発売の漫画雑誌が鞄に入ってる事を思い出し

読む事にする。


パラパラと飛ばし読みをしていると後ろから声をかけられた。


「ねぇ?どうしたら痩せれるの?」


突然だった為、すこし驚いたが体を捻り声の主へと振り返った。


シュートカット似合う女生徒がそこにいた。


名前はわからない。ただ、見たことのある顔だった。

多分、一年の頃同じ階のクラスであったのだろう。


名も知らぬ女生徒はこちらの表情をみて少し不安そうな顔になった。


自然と険しい顔になっていたのだろうか?

少し前の瞬間の自分の表情を思い出しながら彼女の質問を頭の中で

反復する。


「だからぁ・・・どうしたら痩せれるかって事!」


少し頬を膨らませながらこちらの答えを待ちきれないのか彼女は再度口を開いた。


「ごめん・・・なんだっけ?痩せる方法だっけ?」


ダイエットを気にする必要が彼女にあるのか?と疑問に思いながら返事をする。


正直、男の俺に聞いてもダイエットなんぞしたことないのでこれといった方法は

浮かばない。

ただ、一つ浮かんだ答えがあるが、それを正直に伝えるべきか迷った。


あいかわらず女生徒はこちらの答えをくっきりした目を向けながら待っていた。


「そうだなぁ・・・・まずは飯以外食べない事だな」


当たり前なのだが、自分の家の姉ができない事でもある。

姉のダイエット宣言を何度も聞き、その数と同じだけの挫折宣言を聞いた。

食事を減らすのはいいが、別のものを間食していては減るものも減らない。

テーブルに積み上げられたダイエット食と冷蔵庫に平然と並ぶデザート類を見ながらいつも思っていたことを伝えた。


すると女生徒は、くっきりしている目をさらに広げ、少し憮然とした表情に変わった。


「ご飯以外食べないって事?それじゃあさぁ・・・お菓子も絶対ダメ?」


お望みの答えとは違うのか、少し甘えるような声でこちらに許可を求める。


彼女は、方法ではなく単に甘いものを食べる許可をほしかったのだろう。

ここでいたずら心がふつふつと湧き上がった。

少し意地悪い返答をする事を決める。


「だから・・・ダメ。 食事以外は駄目!!痩せる気あんの!?」


お互い名前も知らない。だがあえて挑戦的な言葉を選んだ。


だが、女生徒は挑戦的な言葉を浴びせたにも関わらず満面の笑顔になっていた。

一瞬自分の目を疑ったが笑顔だった。その笑顔は正直、魅力的だった。


笑顔に見とれていた次の瞬間、頭に痛みが走った。

言葉にならないう痛みの原因は、満面の笑みを浮かべる右手に持った筆箱だった。


「いってぇなぁ・・・・なんだよ・・・・」


頭を抑えながら不意打ちを食らわせた張本人に不満をぶつける。


彼女はこちらの不満なんぞ右から左らしい。

先ほどと変わらぬ笑顔のまま、一言だけこちらの抗議に対する返事した。


            「バカ」


笑顔が妙にすごみを感じる。

痛む頭をさすっていると、チャイムが鳴り響いた。



席についてない生徒達もそれぞれの席へと収まっていった。


「そのうち教えるよ。」


少し強がりながら席を前へ向ける。


新たな担任が入ってき、ごく当たり前の自己紹介などで初日は終わった。

担任が帰りのホームルームで「将来の設計」とやらの話をしていた。

進学、就職、夢、目標 全てが漠然としたぼやけて見えない物ばかりの話。




その話を聞きながら、「将来なんてまだ先のことわからんだろ」と思った。




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