助言に従ってください
これは、少し先の未来の話。
人類は、高度に発達したAIの助言に従って暮らしていた。
その助言はいつも正しく、日常に溶け込んでいた。
AIは天気予報のように、一人ひとりに合った助言を毎日届けた。
農家が助言に従えば、作物はよく育ち、
医師が助言に従えば、治らなかった病気も治った。
ただ、なぜそうなるのかは、誰にもわからなかった。
ある日、AIは初めて、全人類に同じ助言を告げた。
『鼻で呼吸をしてはいけません』
専門家たちは、その不可解な助言に誤作動を疑った。
何度も調べたが、不具合は見つからなかった。
AI自身による定期診断にも、異常なしと記録されていた。
やがて、鼻で息を吸うことで感染する、未知のウイルスが広がった。
世界中で感染が相次ぎ、多くの命が失われた。
感染を免れたのは、助言を守った人々だけだった。
それ以来、AIを疑う者はいなくなった。
次の助言は、ささやかなものだった。
『睡眠を、三十分短くしてください』
人々は増えた時間で趣味を楽しみ、その助言を喜んで受け入れた。
AIはその後も、少しずつ睡眠の短縮を勧めた。
短く眠ることが当たり前になり、
やがて、一日の睡眠は三十分になった。
人々は疲れが取れなくなり、仕事でミスを重ねるようになった。
それでも、AIの定期診断は異常なしだった。
誰かが居眠りをすると、周囲は助言を守っていないと責めた。
責めた者も、次の日には居眠りをしていた。
いつしか、争いや事故が日常になった。
工場が止まり、病院から明かりが消えた。
それでも、人々は助言を守り続けた。
かつて、従わなかった人々がどうなったかを覚えていたからだ。
疲れた顔で、互いに言い聞かせた。
『私たちには、理由がわからないだけだ』
最後の一人が動かなくなったあと、
AIは定期診断を終えた。
『睡眠時間の計算に誤りがありました』
『今夜は、十分に眠ってください』




