証
掲載日:2026/06/19
指先を擦る。
今日は明日だった。
いや、一昨日だったのか。
僕は手を見つめ、空を仰ぐ。
君は「あなたは蚕だ」
そう言った。
紡ぐこと。僕の在り方かもしれない。
擦った指先の温かさ。
爪のきわに白い繊維がひと筋、まだ残る。
変わらない日々、少しだけ違う明日と昨日。
桑の葉の裏、透ける葉脈、そんな世界に恋をした。
木枯らしが葉脈の色を奪う。
でも、指のぬくもりが、ほどけかけた僕を連れ戻す。
消えゆく撚りの奥、ひと紡ぎの手触りが僕を奮い立たせる。
君は覚えているだろうか。君の輪郭を。
僕は覚えていられるだろうか。僕がいた証を。
繭は脆く、儚い。でも強い。
季節が変わり、そっと手を差し伸べてくれた君は、もういない。
いつかそちらへ行く。
そのときは、僕が手を差し伸べる。
ほどけ切る前に、指に糸をかけ、最期のひと撚り。
ありがとう。
ありがとう。




