第18話 本当に何もない日
第18話です。
昼下がりの森の中、焚き火の香りがほのかに漂う。
リュシアン・アストリアと、フィアナ・カルディアは、川のほとりに腰を下ろし、水面に反射する光を見つめていた。
鳥のさえずり、葉のざわめき、遠くで流れる小川の音――すべてが静かで穏やかだ。
「王子さま、昨日の夜、よく眠れた?」
フィアナが無邪気に尋ねる。
リュシアンは少し考えてから答える。
「ああ、ぐっすりだ。君もよく眠れたか?」
「うん、気持ちよく眠れたよ」
フィアナの笑顔は、元彼との再会などまったく影響を受けていないことを示している。
王子はその自然さに安堵を覚える。
胸のもやもやは、すでに影を潜め、心の中で静かに収まっている。
「今日も川沿いを少し歩くか?」
「うん、いいね」
二人は歩き出す。
会話は穏やかで、互いに気遣いながらも自然体だ。
元彼の影は、もう頭の中に浮かばない。
王子は、心の中で「責める資格はない」と繰り返す必要すらないことに気づく。
嫉妬心は消えて、ただ安心感と親近感だけが残る。
川沿いの道を歩きながら、リュシアンは心の奥で小さくつぶやく。
「本当に何もない……安心だ」
その実感が、胸をすっと軽くする。
戦いや、感情のざわつきに比べると、こうした日常の穏やかさは、王子にとって何よりも大切な時間だった。
フィアナが笑いながら水面に手を伸ばし、光を映す。
リュシアンはそれを静かに見つめ、心の中で確かめる――この瞬間、何も邪魔はない。
過去も、嫉妬も、戦いの緊張も、今の二人には関係ない。本当に、何もないのだと。
森の風が吹き、川のせせらぎが響く。
王子は初めて、心から穏やかさを感じ、自然体のフィアナとともに歩くことの幸福を噛みしめる。
胸のもやもやはもう存在せず、ただ静かに心を満たす穏やかさだけが、リュシアンの胸に残るのだった。
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