第15話 感情を飲み込む夜
第15話です。
森を抜ける小川のほとり、焚き火の光が水面に反射して揺れる。
リュシアンは、少し離れて腰を下ろし、静かに焚き火を見つめていた。
フィアナは、近くで水を汲みながら、無邪気に笑う。
昨日の、元彼との遭遇のことを、思い返す。
元彼は誠実で、笑顔も穏やかで、何の悪意も持っていなかった。
フィアナも自然体で、過去は過去として受け止めている。
なのに、自分だけが胸の奥でざわつく。
初めて自覚する嫉妬心、そして独占欲。
「……俺は、何も言えない……責める資格は、ない」
リュシアンは、小さく呟く。
感情は、自分だけのもの、相手には関係ない。フィアナの幸せや、安心を最優先するなら、この胸のざわつきは、飲み込むしかない。
だが、理性で押さえ込むほど、感情は内側で膨れ上がり、熱を帯びる。
フィアナが振り返り、笑顔で手を振る。
「王子さま、大丈夫?」
その瞬間、胸の奥がざわつき、心臓が少し速くなる。
理性で冷静に応えようとするが、感情は抑えきれない。
「……ああ、大丈夫だ」
小声で答え、視線を少しそらす。
心の中では、嫉妬と独占欲を抑え込みながら、理性でそれを光に変えようとする。
祈りの力で戦いを導いた経験が、こうした感情にも応用できると、王子は感じていた。
夜が深まり、森が静寂に包まれる。
焚き火の炎が揺れるたび、二人の影もゆらゆら揺れる。
リュシアンは手を組み、祈りに集中する。
民や仲間を守る祈り、戦いのための祈り、そして、自分の胸のもやもやを鎮める祈り。
「責める資格はない」
その言葉を心で繰り返しながら、王子は感情を押し込める。嫉妬や独占欲は、消えないかもしれないが、それをフィアナにぶつけず、自分の胸の奥にそっとしまう。
静かな森の夜、焚き火の光の中で、リュシアンは初めて、自分の感情と向き合いながら、理性で制御する方法を学んだのだった。
胸のもやもやは残る。
しかし、それを抑え込む強さと決意が、王子の心に新たな光を灯す。
フィアナと共に歩む道を守るため、感情を飲み込みながらも、前に進む――それが、第四王子としての、リュシアン・アストリアの選んだ答えだった。
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