第14話 胸の奥の独占欲
第14話です。
旅路の森は静かだが、リュシアン・アストリアの胸の中は、嵐のようにざわついていた。
数日前に遭遇したフィアナの元彼の影が、ふとした瞬間に思い出される。
戦いの緊張感や、黒霧との戦闘で鍛えた冷静さはあるのに、この胸のざわつきだけは、抑えられない。
フィアナはいつも通り、無邪気に森の花を拾い、枝に咲いた、小さな実を見つけては嬉しそうに笑う。
笑顔は純粋で、過去の恋愛を、全く気にしていないことを示している。
元彼と遭遇したのも、彼女にとっては単なる過去の出来事。
だが、リュシアンの心は違った。
「……俺は、何を感じているんだ」
心の奥で呟く。
嫉妬心や、独占欲が、芽生えていることは理解できる。
だが、相手は元彼で、しかも結婚が決まっている。
フィアナに未練がないことは、確かだ。
責める理由もない。
なのに、胸のざわつきが止まらない。
二人が歩く細い山道で、フィアナがふと振り返り、王子に微笑む。
無邪気なその笑顔に、リュシアンは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
自分の感情が、理性を越え、自然に反応していることを痛感する。
「……こんなことで、怒る資格なんてないのに」
王子は、心の中でそう繰り返す。
嫉妬は心の一部に過ぎず、フィアナの幸せを、尊重すべきだという理性がある。
だからこそ、感情を抑え込み、胸のざわつきを静めようとする。
だが、理性で押さえ込むたびに、感情はさらに内側で膨れ上がる。
フィアナが笑いながら話すたび、元彼の姿や、あの穏やかなやり取りの光景が脳裏に浮かぶ。王子は、無意識に眉をひそめるが、すぐに深呼吸して自分を落ち着ける。
責める資格はない、と、心の中で何度も呟きながら。
夜、野営の焚き火の前で王子は一人、手を組んで祈る。
民を守る祈り、戦いに勝つ祈り、そして自分の感情を整理する祈り。
胸の奥のもやもやと独占欲を、まだ形にはできないが、光として祈りに変えようとする。
心のざわつきと戦うのも、戦場で剣と祈りを合わせる戦いと同じだと、リュシアンは悟った。
森の静けさに包まれながら、王子は決意する。嫉妬や、独占欲は、消えないかもしれない。
しかし、それをフィアナにぶつけず、理性で飲み込む――それが、自分の選ぶ道だと。
胸の奥に芽生えた感情は、まだ、静かに眠らせるしかないのだった。
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