第七章 蒼太「ダメージ3って……ワロス」からの、神々「避けろ!」
ボス部屋は、想像を絶する広さだった。
天井は見えないほど高く、直径50メートルはあろうかという円形の闘技場。床は黒い石で敷き詰められ、壁には無数の骸骨が埋め込まれている。
そして——
部屋の中央に、それはいた。
ゴゴゴゴゴ……
地響きのような呼吸音。
体長15メートルを超える、漆黒の魔獣。
六本の湾曲した角、四本の腕、全身を覆う鋼鉄のような鱗。口からは溶岩のような炎が漏れ、目は血のように赤い。
【魔獣王ベヒーモス Lv.100】
【HP:50,000/50,000】
「……でかい」
蒼太は思わず呟いた。
ゴォォォォアアアアッ!!
咆哮。
空気が震え、蒼太の全身が痺れる。
【HP 100/100 → 70/100】
「うぇええ!? 咆哮だけで30ダメージ……!」
『@知恵の女神アテナ:冷静に! まずは動きを観察して!』
『@戦神アレス:隙を見つけろ!』
蒼太は横に跳び、ベヒーモスとの距離を取った。
ベヒーモスがゆっくりと身体を起こし、四本の腕のうち右上の腕が振り下ろされた。
ドゴォォォン!!
床が砕け、破片が飛び散る。
「速い……!」
蒼太は転がって回避し、すぐに反撃に転じた。ベヒーモスの足の関節部分に剣を突き立てる。
ズブリ!
【ベヒーモスにダメージ:3】
【HP:50,000 → 49,997】
「入った! でも……3ダメージって……。これじゃ本当に丸二日かかりそうだ」
『お前ら、蒼太を応援すっぞ!』
『そうだな! よなよなの神々に頼れるかっつーの!』
『フレーフレー! 蒼太!』
『なけなしの小遣いだ! 受け取れ蒼太!』
チャリーン♬ チャリーン♬ チャリーン♬
【ユーザー6458840さんからのスーパーチャットです。1,000円】
【ユーザー6461335さんからのスーパーチャットです。500円】
【ユーザー6337559さんからのスーパーチャットです。1,500円】
♢ ♢ ♢
それから——
地獄のような時間が過ぎた。
1時間。
2時間。
12時間。
24時間。
48時間。
蒼太は戦い続けた。
神々のスパチャで回復薬とバフが途切れることなく供給され、HPが削られてもハデスの防具でなんとか凌ぎ切った。
しかし、疲労は確実に蓄積している。
視界が霞む。身体が重い。反応が鈍くなる。
「まだ……諦めない……!」
蒼太は剣を振るい続けた。
そして——
戦闘開始から50時間53分後——
ベヒーモス
【HP:3/50,000】
蒼太
【HP:1/100】
「はぁ……はぁ……あと……少し……」
コメント欄が応援で埋まる。
『頑張れ!!』
『あと少し!!』
『@戦神アレス:最後まで諦めるな!』
視聴者数が30,000人を超えていた。
蒼太は最後の力を振り絞り、ベヒーモスの心臓部に剣を突き立てた。
ズバッ!
ズドォォォォン!!
ギャアアアアアアアアッ!!
【ベヒーモスHP:50,000 → 0】
ベヒーモスが断末魔の叫びを上げた。
巨体が崩れ落ち、地面が激しく揺れる。
静寂。
【魔獣王ベヒーモス討伐完了】
蒼太は、その場に膝をついた。
「……やった……」
力が抜ける。
剣が手から落ちる。
「やった……やったぞ……!」
『うおおおおお!!!』
『勝った!!!!』
『@戦神アレス:見事だ!!』
『@太陽神アポロン:素晴らしい!!』
『風の精霊王シルフ:よくやった!!』
『@知恵の女神アテナ:お風呂は守られました!』
蒼太は涙を流しながら笑った。
「みんな……ありがとう……」
『@冥界の神ハデス:蒼太! 避けろ!』
「……え?」
ズシャア!!
蒼太の心臓は射抜かれた。
血しぶき。鼓動の停止。視界が黒く染まる。倒れる。動けない。動かない。ああ……あ。
倒れ行くベヒーモスが、即死攻撃を放った。




