第六章 蒼太「テメーらはそれで恥ずかしくないのかよ!」神々「んなっ!?」
エルドリア大迷宮・第9層。
蒼太は壁に背中を預け、荒い息を整えていた。全身が痛い。HPは辛うじて30残っているが、MPは底を尽きかけている。
「はぁ……はぁ……9層、クリア……」
目の前には螺旋階段が続いており、その先に10層への入口が見える。
スマートウォッチの画面を確認する。視聴者数は10,200人を超えていた。
『おつかれ!』
『@豊穣の女神デメテル:よく頑張りましたわ』
『もう限界じゃない?』
『@太陽神アポロン:一度休憩を入れるべきだ』
蒼太は女神デメテルからもらった回復薬を飲んだ。温かい液体が喉を通り、傷が癒えていく。
【HP 30/150 → 80/150】
「ふぅ……助かります、デメテルさん」
『@豊穣の女神デメテル:どういたしまして。でも、薬はあと2個しかありませんわ』
蒼太は腰のポーチを確認した。確かに、残りは2個。
「……節約しないとな」
ここまでの道のりを思い返す。
5層で一度死んだ。シャドウウルフの群れに囲まれ、逃げ場を失って喉を食い破られた。
7層では床のトラップにかかり、毒針で全身を貫かれて死亡。
そして9層。Lv.18の中ボス「デスナイト」との戦闘中、一瞬の隙を突かれて首を刎ねられた。三度目の死。三度目の蘇生。
「ハデスさん、三回も助けてくれて……本当にありがとうございます」
蒼太が感謝を述べると、コメント欄にハデスの返信が流れた。
『@冥界の神ハデス:礼には及ばん。だが、これで終わりだ』
「……はい」
次死んだら終わりか……。
蒼太は深呼吸した。
『@雷神トール:これまで以上に慎重にいけ』
『@戦神アレス:臆病になる必要はないが、無謀は避けろ』
蒼太は立ち上がり、10層への階段を上り始めた。
♢ ♢ ♢
階段を上りきると、広大な石造りの回廊が広がっていた。天井は高く、松明の炎が揺らめいている。
奥に扉。
【エルドリア大迷宮・最深部】
【魔獣王ベヒーモス】
【推奨レベル:???】
「推奨レベル、???……って」
蒼太は首を傾げた。表示されないということは、もしや……。
『@冥界の神ハデス:……蒼太』
「はい?」
『@冥界の神ハデス:言いにくいが……どうやらこの階層はバグっているらしい』
『@知恵の女神アテナ:何かの都合で数値がおかしくなっているのですね』
「つまり……?」
『@戦神アレス:パラメーターにマックス値のコンスタントバリューが適応されるという意味です』
『@冥界の神ハデス:簡単に言うと、レベル100ってことだ』
「うぇぇえええええ!? よりにもよってレベル100!?」
『無理ゲーすぎる』
『つまり開発ミス?』
『運営仕事しろ』
『運営って誰だよww』
『@戦神アレス:理由はどうあれ、現実は変わらん。Lv.100のボスがいる』
「……じゃあ、どうすれば」
『@冥界の神ハデス:答えは一つだ』
ハデスの言葉に、全員が注目する。
『@冥界の神ハデス:諦めろ』
「え……?」
『@冥界の神ハデス:お前には無理だ。Lv.1でLv.100に勝てるわけがない。我々がいくらスパチャを投げようと、基礎能力の差は埋められん。
今からでも引き返せ。別の村を紹介する。病気の娘のことは忘れて、新しい旅を始めろ。格好悪いとか恥ずかしいとか、そんなこと言ってる場合じゃないだろ』
『ハデスさんの言う通りだ』
『無理すんな』
『でも村の子が……』
『@豊穣の女神デメテル:私もハデス様に賛成ですわ。命より大切なものはありません』
蒼太は黙って画面を見つめた。
「……そうですよね」
蒼太は力なく笑った。
「やっぱり俺なんかじゃ無理ですよね……。オタクの引きこもりの俺じゃ……、どんなに頑張ったって、神様から優遇されたって、何も成し遂げられない……」
蒼太はますます落ち込んだ。
「あの……ハデスさん」
『@冥界の神ハデス:なんだ』
「一つ、聞いてもいいですか? スパチャで……追加のライフって、本当にもらえないんですか?」
『@冥界の神ハデス:馬鹿を言うな!!
最初に言っただろう! 三回が限界だと! 生き返らせすぎると、神々からクレームが来るんだ!
我々にとってお前は娯楽だ。お前はそれを受け入れた。戦い、苦しみ、成長する姿を見るのが我々の楽しみ。
何度も何度も死んで蘇生してたら興ざめする。違うか。だから三回が限度なんだ』
——んだよ。
神々からのクレーム? 俺と何の関係があるんだ。
結局神様も人命よりプライドが大切なのか……。
「ふ、ふざけんな!!」
叫んだ。大声。蒼太の渾身。
「テメーら神々の娯楽なんて知るわけねーだろ!! 俺は勝手に連れてこられて、ここにいるんだ! テメーらの勝手なルールを押し付けられて! 駒扱いされてヘラヘラ笑ってられっかよ!」
『@冥界の神ハデス:蒼太……』
「命が失われるという状況で! 人が死ぬかもしれないという状況で! テメーら神々はただ画面の向こうでぼうっと眺めて、笑っているだけなのか! それで恥ずかしくないのかよ!」
怒りが言葉となって溢れ出す。
「俺は行く! レベル100の相手に!」
『@太陽神アポロン:蒼太……やめるんだ!』
『@冥界の神ハデス:引き返せ! 今なら間に合う!』
「アテナさん」
『@知恵の女神アテナ:は、はい?』
「俺が死んだら、もう風呂で俺を拝めなくなりますよ? 楽しみがなくなっちゃいますよ? それでもいいんですか?」
『@知恵の女神アテナ:なっ……!? そ、そ、それは……』
「ハデスさん」
『@冥界の神ハデス:……なんだ』
「俺が死んで天国に行ったら、言いふらしてあげますね。『冥界の神ハデスは三回しか人を蘇生させられない無能です』って」
『@冥界の神ハデス:貴様ッ……!!』
『やべえwww煽ってるwww』
『ハデス様の威厳がwww』
・・・・・・・・
・・・・
・・
・
『@冥界の神ハデス:……言ってくれるじゃないか。
確かに蘇生はできん。その事実だけは変えられない。
だが、
ちょっとしたミスで、HP0になった時、HP全快にする防具をたまたま落としてしまうこともある』
チャリーン♬
【@冥界の神ハデスからスーパーチャット:1,000,000円】
【冥界の護符】
【効果:HP0時に何度でも全快する。ただし、即死は復活不可】
『@冥界の神ハデス:冥界の加護だ。受け取れ』
「ハデスさん……!」
『@冥界の神ハデス:ただし!』
ハデスの言葉が続く。
『@冥界の神ハデス:甘くはないぞ。ボスにだって自動ライフ回復がついている。お前だけが有利になったわけじゃない。
お前のレベルじゃ、飲まず食わずで戦っても、丸二日かかるほどの強敵だ』
『@冥界の神ハデス:最後の質問だ』
ハデスの言葉に、蒼太は画面を見つめた。
『@冥界の神ハデス:それでも行くか!』
「はい!」




