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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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刺傷しましたが今後の発展と家族崩壊を思えば微々たるものです。ははは何を言ってるんですか映画の見過ぎですよ〜ここは映画の世界のワンシーンだった〜

作者: リーシャ
掲載日:2026/03/20

 グサ。効果音にするのならばこうだろう。

 刺された。効果音にしないのならばドッ、という衝撃。


 人の顔が目の前にあっても、なにかがあっても、なにがあったかを直ぐにわかることなどなかった。

 それはただのクラスメイトだったらしい。しかし、ナイフで刺されたわけじゃない。なにか別の鋭利なもので刺されたわけでも、怪我をしたわけでも無い。


「きゃー!」


 ふと。


「──さんがっ」


(私……え、ここ、映画の、中?)


 同じ情景が浮かぶ。教室。叫ぶクラスメイト。意味が分からないけれど、既視感。多分、これは今まで見た映画のことなんかじゃない。

 ここは、前に見た映画の世界のシーンが切り取られた世界。つまりは別世界だ。転生するにせよ、違う人生を歩むにしても、もうちょっとこう、違う世界観が欲しかった。


 これでは前の人生の焼き直しではあるまいか。続きを説明するのなら、まずは映画の概要について思い出さねば。確か、そう。


(学校が舞台なんだけど、学校の美人と有名な女の子が好きな男の子に告白したけど、好きな人が居ると判明。その子は。アリスを)


 告白したクラスメイトが恨みと妬みを溜めに溜めて、学校の学年で一番かは分からないけど、可愛いと評判でもある黒髪清楚系の同級生にその後、定規を突き立てる。


 クライムっていうより、一種のヒューマンドラマのドロドロ系。映画じゃ、美人で可愛いその子が被害に遭う筈だった。しかし、話し込んでいたその子は咄嗟にミカコ──己を盾にした。


 何が起こったのか本気で不明だったから、ただただ、呆然としていた。怪我はしてない。制服は意外と頑丈なのである。三年間お世話になるから、厚め。


 で、その盾にした子はアリスという。名前までモデルのようだ。今の自分の心境的に生意気にフルチェンジかつ、名前すら憎たらしい。

 ぶん殴りたい。ひっ倒したい。罵って良いかな?


(クラスもクラスでうるさい)


 キャーキャー、キャーキャー言わなくても普通ではあり得ないことが起こっていることくらいわかっとるわ!


 一番キャーキャー言いたいミカコに、キャーと言わせろ。寧ろ生まれてから一番甲高く。いや、可愛く「きゃあっ」て言えたら良いのに。


「きゃあ」


 小さく言うけど、当然クラスの人達の叫び声でかき消されたし、耳にこだまする声は酷く棒読み。聞かれなくてよかった。これ、静かな教室で目立っていたら後の黒歴史になるところだった。


 そして、自身の予測だが、定規で制服を刺されるという類を見ない出来事に。今の自分のストレス値は跳ね上がり、急遽大人としての精神力を兼ね揃えた前の人格が現出。ということでは。

 確かに今の状況は酷くて怖くて、恐ろしくて、耐え難い。普通の中学生には耐えられない。衣替えが最近行われて、冬服になっていて良かった。夏服なら、濃い青あざは免れなかったに違いない。


「ひっ、ち、違う。私違う、違うの」


 何故か、加害者が震えて怯えていた。それは。


(私のポジションじゃん)


 困る。どうしようかなと悩んでいると、騒ぎに隣の担任の先生が入って来て、顔をこれでもかと青ざめさせている。恐らく、生徒から生徒が生徒を刺したと聞いたのだ。


 事実だが、被害は目に見えない形で終わりかけているという角度。青痣は出来てないが、目撃した者たちの心の病は確実に、このクラス内で生まれてしまった。

 まあ大丈夫だろう。大人になれば甘いも、不味いも劇薬も飲み込めていける!(白目)


「な、何してるっ」


 ヨタヨタ、と駆け寄る先生は体育会系じゃないので腰が引いている。


 大人は大変だな。


(私には真似出来ない)


 なんたって、今やっているのはほぼほぼ、刑事とか警察、警備員などがやるべきこと。一般人の範囲である学校の先生には過ぎたる現場。


 あまりに、不憫。これは学校云々はあまり関係ない男女の話。どうやっても、先生の責任を追求されてしまうんじゃないか。担任は今、休み時間なので職員室に戻って生徒のためにせっせとプリントでも擦っている筈だ。

 出て行く前に「先生は必要なプリントをコピーしてくる」といつもの日常の一歩を向けていた。可哀想。ミカコがやるべきはどちらかといえば被害者その2であるアリスのこと。

 盾にしやがってと、声を大にして大事にしてやるぞ。


 決意を胸にミカコは担任を全力で擁護すると共にアリスへとヘイトをコツコツ貯めていく。向ける相手が違うだろうという人も居るだろう。


 8割は思う。2割はこのアリス。しかし、考えてみて欲しい。近くにいた、友達でも何でもないミカコの制服を全力で引っ張ったのはその子。つまり、アリスもその瞬間誰かの加害者になったわけさ。バカバカしいという人もいるだろう。

 事実を知るミカコにとっては、真実は確定している。どうしようもなくね。


「わた、ワタシ、そんなつもりじゃなかった」


 加害者その1がまだ呻いている。先生が無力化などという事が出来るわけもなく、オロオロして触れもしない。


(アリス、アリスは……遠っ!)


 やっぱり逃げていた。どこにも見当たらない。こんのお。許すまじ、本当に。

 黒板では分かりにくいが、黒い影が扉を潜る。何人か教室に残るのは恐怖で足が動かないか、爪先に残った怖いもの見たさか。


(このまま立ってなきゃダメなのかな。座っても良い、よね?被害者私なんだし)


 ゆっくり動いて、加害者を刺激しないように座った。なぜか先生も見ている。皆、教室に残ってる四人くらいの人数の人がカナコを見て、注目していた。まさかとは思うが反撃するかと思われたのだろうか。それは映画の見過ぎだ。


「け、警察、警察に電話っ」


(あ、バカ!)


 警察、という単語が耳にざらりと入ったのだろう、加害者女子生徒がパニックを起こす。


「警察!? い、いやぁ!捕まりたくないっ。なにも悪い事してない!」


 そりゃあ、狙った子は無傷で、おまけに負傷したのは自分カナコなので、なにもしてないっていうか、目的を達成してない。目的のアリスにはなにも出来てない。


「やだやだやだやだぁ!」


 気迫と狂気に呑まれて隣のクラス担任は動かない。怖すぎる。ホラーで発狂するキャラクターであった。

 本人的には無実で、殺意はなく、たまたま当たった認識だ。きっと盾に使った角度ではないから、誤って殴打、というか突き刺してしまったのだと思っているかも。カナコだけ真相を知る。


 サスペンスにはとんと縁がなかったけど、これはカナコがお仕舞いにするには、起きた事がデカすぎるのだが?

 文化祭の痴話喧嘩と一線を画す行いの事件現場。現役中学生が纏める場面じゃない。

 ……うん。


(放置しよう)


 顔を両手で支えて、窓を見る。外から少人数の叫び声が聞こえるのを聞く。


(私より騒いで、後からキャストの一員になれたことに興奮して、こぞってゾクゾクなりながらあれ、凄かったよなってファースト店で好きに盛り上がることになるな)


 カナコとてキャストモブにでもなって、外に走って、そこで井戸端会議をしているどこかの奥さんに駆け寄りたい。

 駆け寄りながら顔を青ざめさせる制服を着た女子生徒にどうしたのって聞いて、うちの学校で生徒が定規で刺されましたと拡散したい。


(さて、起こった事が小さくて、大きくて、今後の人生に影響を与えるかもしれないこの事態……どうしよう?)


「〇〇、〇〇、おい、平気か?」


 カナコよりも顔色が悪くて、すがるように見てくる隣の先生に愛想よく笑う。


「先生、定規を持ったまま倒れ込んじゃった生徒にたまたま当たっただけですけど、腕を見てもらいに保健室に行きましょう」


 定規は床に落ちている。可愛らしい模様の入っているそれは先の部分が欠けていた。あの定規を防いだ冬服、すげえや。


「え?あ、え?」


 先生は何を言われているのかわからない。そもそも先生は現場を見てない。


「定規を持ったまま背伸びして筋肉を伸ばしてる状態で歩いたらつんのめってしまっただけだと思います。凄い襲われてるシチュエーションに見えたので、他の子達も、そう見てちゃったんです」


 あくまで、嘘をつかないように。なんたって、カナコにはそう見えた。事情、恨み、そんなことを情報通でもない己が知る由もない。普通に考えて中学生が同級生を襲わないという常識。


「ただ、問題なのがその定規に当たりそうになった〇〇アリスさんです。襲われると思ったのか、私の服を凄い力で引っ張って、こう、盾にしてしまったんです!ちょっと、酷くありませんか?」


 こっちの方が余程カナコにとっての事実であり、加害者と断定した点。定規ザムライになったござる生徒は別にこちらに恨みはなく、なんの関係もない。振った腕に当たった。

 アリスは明確に襲われると反射的に近くにあった肉体を相手に投げつけるよう、ガードさせた。

 それに対するカナコはあの時、逃げたくても2つの手が場所を固定したせいで全く避けられず、手を交差させることも叶わなかったのだ。


 それは殺人と同等。言い方がきついが仮に相手がナイフだったらと考えてみれば、避けられない動けない。

 的の出来上がり。そして、ぐさり。あの角度は心臓の範囲。片腕に突き刺さったけど、庇わなかったら胸の真ん中だ。下からではなく上から。確実に胸に入ってた位置だった。


 今先生に説明口調で訴えているのはこの、可哀想な隣人だった担当の教師が目的ではない。残っている生徒。面白いからと、一人でも愉悦の感性を持つ生徒が居たら、恐るべき速度で事実を流布しに行く。

 アリスは悪いけど、逃さない。大丈夫、何が起こっても責任は取らないから。


 逃げなきゃ、まだマシな言い方をしたよ。どうせのうのうと転校して、何食わぬ顔で無関係とばかりに社会人になるんだろう。きっと、検察側もアリスは被害者でカナコは巻き込まれた不安な被害者という見解になる。実際、映画でもそうなっていた。


 映画じゃ刺されるのは中盤で、終盤はクラスメイトや学校の赤裸々なシナリオだったと思う。今更、たった一本の映画の話など覚えてないしなあ。ああいうタイプの映画は一度ヒットすると類似作が乱立したし。


 無事3人は残ったメイト達を残して、保健室に直行。目立たないように裏から回った。たどり着いた後、説明してちょろっと青くなった部分にくるりと包帯を巻いて貰った。病院に行きなさいという言葉と共に。


「私……本当のこという」


 ボロボロ泣き出す彼女はパニックを過ぎたのか後悔をしていた。生憎慰めるための言葉が見つからない。とりあえず優しく頷く。これは同情じゃなくて逆恨み防止の天使の微笑み!

 恨みというのは舐めたらいけない。


「ごめん、ごめんね」


 何度も謝るその子にカナコは「うん、うん」と同じ回数相槌した。


 夕方、帰宅した後に親にあったことを話してカナコ視点での事故を説明。大慌てしたが、夜に警察が家に来て戸惑っていた。

 これは更に後日になるがブッ刺してきた女子は、どちらかというと自首したらしい。母親達に付き添われて。

 なので、家にきた。謝罪にね。


 なにがアレかっていうとカナコに対して憔悴するほど反省しているのに、アリスに対しては憎しみを持ち続けているところ。


(鎮火させろ!燃やすな!)


 やはり好きな男を取られたという気持ちと、誤って刺したことへのベルクトは枝分かれしているみたい。それとこれとは、話が別、ということが良く分かる結末。


 アリスは学校を10日間休み、内心点諸々の関係で保健室には通ったらしい。警察の人はボクシングの練習用クッションみたいな扱いをされたと言ったが、問題が複雑になるのを嫌ったから響かなかった。まあ、響かなくても良かったからいいケド……。


 ちょろーりとだけモヤァとした。アリスは友達間のSNSであれは襲われたんだと言っていたが、言ったもん勝ちの先手必勝がジワジワと功を成した。

 カナコ本体を幽霊退治の前に悪霊退散の札を掲げるように、手を前に押し出す現場を近くにいた生徒が見ていた事もあり。


「本当にそうだとしてもあれは酷い」


 と、アリスを非難する生徒もちまちま居た。アリスがあの時、咄嗟の行動に出られたのは真正面にて定規を振り上げた姿をバッチリ眼に写したからだろう。


 あの時の覚悟のあった、いかつい顔、時代劇の御命頂戴台詞を言う女性っぽかった。アリスは定規の女中の顔を見たから、嘘じゃないと分かっているのだろう。

 自白もされているので、後々本当にあれは事件だったとわかるのだが、正式に発表されるまでは白い目で見られる。

 被害者として扱われる事もあればカナコを巻き込む、被道徳な咄嗟の行動に一部の友人は、同じ目に遭うかもしれないと離れたっぽい。


 一時は生徒が休み、ごっそり居なくなることもあったが内申点、出席日数の都合でちょっとずつ人は戻る。事件の初日に割と居たのは犯行の事を語るため、知りたいから、本当にあったのか確かめる為、色々あったんだと思う。


 日常的に家族と話し合ったり、ごめんねと可愛いメモ用紙の手紙を加害者からもらったり。返事は気にするな、と一言。

 気にしてはたった五分の出来事で人生が崩壊する危険性を孕んでいる、危うくて綱渡りな真実しか残らない。


 お母さん達ものちに事件だったことを警察やテレビ、学校で聞いて娘が事件の渦中にいた事を知る。転校を勧められたが、カナコは家族崩壊をさせないためにあの場を穏便に終わらせた。


 転校はしないことに決めた。ただ、クラス替えはした。学級崩壊が軽く起こっていたし。アリスも配慮で同じクラスになることはなかった。

 可愛い清楚系黒髪女子は何度も話しをしたそうにしていたが、彼女にかける言葉としても、クラスメイトや世間に向けるセリフは決めてある。


(高校は、離れたところを受けよう)


 そうやって荒波立てず、無難に過ごす。荒波を立てるのはいつも関係のない第三者だ。まるで新聞記者気取りのように、事件の概要をSNSなどで呟いたと話しているのが外から聞こえる。


 今やこの学校は一種のホットスポット扱い。年齢的に名前や個人情報を晒されることはないが、ご近所では皆知っている。

 カナコの親は心配だと言うし、ケアをしてくれているが、事実に基づいた言葉を自分は永遠に周りに言うだろう。




「ははは、映画の見過ぎ」

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