殺し屋とボクっ娘剣士
「こんばんは、僕のこと覚えてるかな?」
夜の街を出歩いていると、腰に刀を下げた一人の女に出会った。
「・・・知らねぇなぁ、お前みたいながきんちょ覚えてねぇよ」
女の顔に見覚えがあったが、俺はあえてこう答えた。
すると女の表情はみるみるうちに暗く、どす黒いものへと変わっていった。
「・・・そうだよね、僕のことなんかいちいち覚えてないよね」
・・・遠目から見ても殺気立っているのがわかる、いつかの依頼のターゲットの知り合いか?
仕事柄恨まれることには慣れているが、こんなにもわかりやすくターゲット以外に殺意を向き出しにされたのは初めてだ。
「・・・もういいか?俺はお前と違って忙しいんだよ」
別にこの業界じゃよくあることだ、今さら気にかけることなんて――――
「なら思い出させてあげるよっ!!」
次の瞬間、俺はその女に蹴り飛ばされていた。
「っ!?」
吹っ飛ぶ、とまではいかなかったがそれでも2M弱は飛ばされた。
この女、相当なやり手か。
インパクトの瞬間にバッグでガードしていたから良かったが、もろに喰らっていれば恐らく重症では済まなかっただろう。
「・・・おめぇ、女にしちゃやるじゃねぇか」
「女だからってなめてもらっちゃ困るなぁ!」
女は叫ぶと、腰に下げていた刀を抜きこちらに走ってきた。
俺は背負っていたバッグを下ろし、中の銃やら何やらを取り出して臨戦態勢に
「ふんっ!」
入るより速く、女は俺との間合いをほぼゼロ距離にしてきた。
「はやっ」
「せりゃああ!」
がきいぃぃぃぃん!!!
「今の防ぐの!?」
「舐めんなガキ」
咄嗟に出したナイフで初撃を防いだ、だが鍔迫り合いでは得物の長さでこちらが不利・・・なら。
「ほいっ」
「えっ?わぁ!?」
刀の物打ちを力任せにすり上げ、無理やり大きな隙を作る。
・・・もらった。
すり上げられてがら空きになった胴体に、ナイフを思い切り突き立てた。
「んぐぅ!」
初撃を皮切りに、腹、足、胸と順にめった刺しにしていく。
「がはっ・・・」
とどめに思い切り蹴り飛ばす。
女は3m近く吹っ飛んでいき、そのままピクリとも動かなくなった。
死んで・・・ないよな。
めった刺しにしたときも、蹴り飛ばした時も、手ごたえはあったが致命傷になりえる一撃になったとは感じられなかった。
あの女、強力な身体強化の魔術を体に付与しているな。
それに間合いを一気に詰めてきたあの技。
恐らくは妖術の「縮地」・・・いや、魔術の残滓を感じたからあれはテレポートの一種だろう。
「・・・立てよ、どうせ生きてんだろ?」
バッグの中の装備を身に着けながら、女に話しかける。
すると女はむくりと立ち上がり、刺された部位をパンパンとはらった。
「この程度で死ぬわけないじゃん!!見ての通りピンピンだよ!」
女の顔をよく見ると、さっきまでなかった青い筋のようなものが入っていた。
自己強化系のアンプルか、それも恐らく並みの人間なら致死量レベルのやばいやつ。
「お前、死ぬぞ」
「それくらいの覚悟ができてるってことさ!」
「そうかそうか・・・まぁ、お前がここで死のうが関係ないがな」
「へん!なんとでも言ってろい!」
俺は切り札の拳銃に一発の弾丸を装填して、女に向けて撃った。
バァン!
乾いた銃声とともに、銃弾が放たれる。
女は瞬時に回避行動をとった。
が、しかし
ぎゅん!
「がっ!?」
回避したはずの女を、弾丸は貫いた。
「お前みたいな活きのいい奴ほど、俺の弾丸は当たるぜ」
「うぐぅ・・・」
「ほら、どうした頑張れ頑張れ」
ま、どうせ苦しんでるのもすぐに回復するだろうがな。
「う・・・おらぁ!!」
倒れた体を無理やり起こし、女は俺に飛びかかってきた。
すぐに持っていたM4A1を構え、発砲を開始する。
「ふん!はっ!とりゃ!」
まじか、セミオートならともかくフルオートで撃ったやつ切るのかよ。
「おりゃぁぁぁぁぁ!!!」
「やばっ」
驚いている間に一気に距離を詰められてしまった。
「せりゃぁぁぁぁ!」
すかぁぁぁぁん!!!
「っぶねぇ・・・」
とっさにM4A1を前につきだしておいてよかった。
まんまとストックをぶった切ってくれた、だがこれで中距離の射撃はほぼ狙えないも同然か。
「うそぉ!?」
驚いている女の顔面に、切られて尖ったM4のストックチューブを突き立てる。
「危なっ!」
すんでのところで回避され、その後繰り出した追撃も回避され距離を取られてしまった。
すぐにM4を構えるが、こいつはけん制にもならないだろう。
流石にアサルトライフルの反動を片手で受けられるほど筋肉バカではない。
俺はM4を投げ捨て、代わりに腰の装具に提げていたベレッタM92Fを構える。
さっきの動きを見るに動体視力も底上げされている、こいつもけん制にはならない。
だが・・・
さっき見せた拳銃のブラフとしては使える。
「!?さっきの奴!」
ほらやっぱり。
これならずっと俺の間合いで戦え
「うらぁ!」
は?
吹っ飛ばされた・・・?
こいつ、必中なら撃たれる前に接近して本体を叩いた方が早いことに気づいたか。
吹っ飛ばされたがすぐに立ち上がり体制を立て直す---
「ふん!」
より前に俺が殴られていた。
「これは、僕の恋人の分!」
どかっ!
・・・
「これは、僕の恋人の家族の分!」
がすっ!
・・・
「そしてこれは、僕の悲しみの一撃だぁ!!!!!」
どがぁぁぁぁん!
猛烈なラッシュを受け、俺は壁際まで吹っ飛ばされた。
「っ~~~~~~!!!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
畜生、頭が割れそなほど痛い、ノーガードであいつの打撃受けたからか。
左腕もさっきの衝撃で折れてるな、もう使い物にならん。
右腕と両脚はぎりいけるか・・・?どちらにしても、ここで決めないと死ぬのは俺だ。
「・・・流石に死んだでしょ」
「ばぁーか、生きてるに決まってんだろうが」
「えぇ・・・それはもうゾンビじゃん」
「うるせぇクソガキ」
実際虚勢は張っているが、この程度なんてことはない。
多少よろめきながらも立ち上がり、すぐに臨戦態勢をとる。
「ふーん、さっきので近接じゃ僕にかなわないの分からなかったのかなぁ?」
このガキ・・・言わせておけば。
いや待て、冷静になれよ。
この状況、相手との距離は離れていないが切り札の射程距離ギリギリ。
早撃ちなんかしたことないが、一か八かの逆転のチャンス。
「ほらほらどうしたのぉ?」
女が少しずつこちらとの距離を縮めてゆく。
そうだ、そのまま近づいてこい!
じゃり・・・
刹那、俺は手に持っていたベレッタを女に向けて、そのまま発砲した。
かぁぁん!
しかし、その一発は女の刀に弾かれてしまう。
だが、本命はこっち。
俺はレッグホルスターに提げていた切り札を抜き、発砲した。
バァン!
「うそ!?」
これでチェックメイトだ。
がすっ!!
「うぎっ!」
弾丸は女の胴体を貫いた。
「うぐぅ・・・」
・・・しぶといやつだったが、これでようやくしまいだ。
「・・・終わりだ」
俺は女に近づき、とどめを刺すためベレッタを構える。
「・・・」
死を覚悟したのか、それともアンプルの副作用で動けないのか、女の体はピクリとも動かなかった。
「じゃあなクソガキ、まぁまぁ楽しかったぜ」
俺は女の脳天に銃口を向け、そのまま発砲―――
ガチャ!
「・・・?」
撃てない、なぜだ?
チャンバーの方を見ると、9mm弾がスライドに挟まっていた。
ジャムかよ!こんな時に!
俺は急いでスライドを引こう-----
「おらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ずがあぁぁぁぁん!!!!
引こうとしたときにはもう蹴り飛ばされていた。
「ンぐあ!?」
「っへへ!」
なんで倒れこんだ所から蹴りができるんだくそ!
威力がなかったからそこまで飛ばされなかったが、顔面に喰らったからか頭がグラグラする。
「まだまだいけるよぉ!」
「・・・なめやがって」
俺は頭を振り、女の方に向き直る。
「来なよ、これが正真正銘最後のラウンドだよ!」
女はすでに臨戦態勢、俺もすぐに構えないと・・・
・・・いや
「・・・この勝負、俺の勝ちだな」
「はぁ?今さら何い・・・って」
言い終わる前に、女はその場に倒れこんだ。
「な・・・ん・・で」
「アンプルの反動が今来たんだろ、お前はアンプルを使った段階で負けてたんだよ」
「そん・・・な」
偶然だったがこれで無力化はできた、あとは殺すだけ。
「今度こそ、チェックメイトだ」
「・・・」
もう喋れないか。
「じゃあな女、お前はあいつと同じでいい戦士だったよ」
ぱぁん!
俺ははぁ、とため息をつく。
「・・・本当、まじでクソだなこの仕事」
人を殺してなんとも思わない、そんな奴はフィクションの世界の人間だけだと思っていた。
「まさかそんなクソ野郎に、俺自身がなっているなんてな」
俺は放り投げていたバッグを拾い上げ歩き出す。
帰る場所も、戻るべき場所も、もう俺には無いというのに。