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わたしのウワサをして

作者: シグマ君

 日本語は「願望実現」のための強力な言霊を持つ言語。

 そして言霊が込められた器物は、それが文字として書かれていなくとも、その器物は結界としての役割を持つという。

 界を結ぶことで内と外に分かれる。それは聖域と俗域。ただし邪悪なモノの侵入を拒むためにも界を結ぶ。言葉は強力な武器になる。



【第1章 桜井麻美】


「佐々木はただいま席を外しております。戻りしだい折り返しお電話するよう伝えますが、T社の来栖様ですね………ふふふふ………A高校の来栖君だよね。ワタシ、桜井麻美。同級生の………わかんない?」


 大学を留年しながらも無事卒業した俺は、地元には戻らずに札幌で就職した。今年で社会人2年目になる。

 取引のある企業ーー札幌とは距離のあるE市ーー俺が生まれ育ったA町から30キロくらいの地方都市ーーE市にあるH物産に電話をしたところだった。


「え……そうだけど………どうして……」


 桜井麻美という女。名前も顔も思い出せない。それよりどうして俺だと解った?


「ふふふ……ウワサよ、ウワサ。来栖君がT社に入社したってウワサ聞いたの」



 俺は生まれ育ったA町にあるA高校に入学して卒業後は札幌の大学へと進学した。そして大学卒業後はT社に就職したのだが、T社は全国に支店ががあり、札幌勤務となったのも偶然にすぎない。


「だって~クルスなんて苗字、北海道じゃ珍しいし、声がね……」


 確かにありふれた苗字ではないが、それにしても声で俺だと解った? それくらい親しかったというのか。


「ねぇ、携帯教えて、アドレスも」

「ぇ………うん……」


 会社の電話で携帯番号とアドレスを交換後、じゃ~メールするからね、と言い残した桜井麻美。


 俺は今つきあっている彼女がいる。大学が同じで3年の時からの付き合いだ。付き合い始めた当時は俺が1つ先輩だったのが、俺が留年したせいで卒業時は同学年で、アリサも札幌の商社に就職した。

 アリサとは結婚を約束した間柄ではない。だが俺は彼女を嫁にするのだろうと何となくだが思っていて、毎週のように逢っては晩飯を一緒に食い、そしてその都度身体を合わせていた。そんな俺に高校の同級生だという桜井麻美がいきなり携帯とアドレスを教えてと言ってきた。突然過ぎて断る理由が見つからなかった。電話を切ってからも桜井麻美の声が蘇る。


 ーーーワタシ、桜井麻美。同級生の………わかんない? ねぇ、携帯教えて、アドレスも……


 凄く強引だ。高校の女の同級生ってみんなこんな感じなんだろうか……

 高校の3年間はメグミと付き合っていた。そのせいなのか同級生であっても名前と顔が一致しない女の子が大勢いた。俺が知る女子は結局はメグミと仲が良かった女子ばかりだ。

 高校1年の一学期に隣に座る菊池という女子から言われた。


「来栖君ってメグミのことどう思ってる? 好き……だよね?」


 どうして菊池さんは、俺がメグミを好きだと思っていたのか今となってはまるで思い出せないが、そう聞かれた時に自分がどう答えたのかはハッキリと覚えている。


「ぇ………可愛い……と………」


 もっと何かを言いたかったはずだ。だが立ち上がった菊池さんは教室の窓際に向かって、オーケーだって!! と叫んでいた。何が何だかか分からなかったが凄く恥ずかしかった。


「ちょっ……ちょっと待って……」


 そう言って俺は立ち上がったはずだ。だけど菊池さんは逃げ、それを追いかけたのだが凄くすばしっこくて捕まえられなかった。それから3年間、メグミは俺の彼女だった。そしてメグミは凄いヤキモチ焼きでいっつも俺にくっついていた。桜井麻美って誰だろう?


「ーーー昼飯行こうや」


 背後から急に話し掛けられ我に返った。経理に配属となった同期の熊田だ。こいつも大学時代に1年食ってるから俺とは同い年だ。


 ーーーそうか、もう昼か。


 結局、H物産の佐々木氏からの電話は午前中にはこなかった。



「H物産って……E市のH物産か? ふ~ん……高校の同級生ね~………美人? ちょっと紹介しろや、お前にはアリサちゃんがいるだろ」


 札幌とE市は200キロ以上離れてる。熊田は本州出身で就職で初めて北海道に来たせいか、いまだに北海道内の距離感がピンときていない。


「あ、マジ? そんなに遠いの? 日帰りはムリか?」


 往復で500キロ以上も走ることになるのだ。高速を通ったってウンザリする距離だし、冬ならしょっちゅう通行止めになる。上も下も。


 昼休みは終わったが、H物産の佐々木氏から電話がこないまま3時を過ぎた。



「ーーーはい、営業の佐々木ですね。少々おまちください……」


 え、居るんだ。



「はい、お電話代わりました、佐々木です。………ああああ、来栖さん、どうもどうも、いつもお世話になってます」



 H物産とはこちらが客の立場のせいで、まだ20代の俺に対しても佐々木氏は丁寧な言葉を使い、それは妙にくすぐったく、返って恐縮する。だから、どうして電話をくれないのかを聞くのが躊躇われたが、用件が済んだ後に、あの~~午前中に電話したのですがと、恐る恐るといった具合に言った。


「え? いましたよ、ずっと。………トイレにでも行ってた時かな? それともタバコかな~? アハハハハ、ゴメンね~、報連相がちゃんと出来てなくって」


 それ以上その話はしなかった。ましてや桜井麻美という女性事務員が折り返しの電話をさせると言ったことなど。


 定時になっても仕事は終わらず、会社を出たのは8時を過ぎていた。地下鉄に乗り、まっすぐアパートに帰り、シャワーを浴びて簡単な夕飯を作る。その間ずっと携帯電話が気になっていたが一度も鳴らない。食べ終えると10時を過ぎた。


 帰った時から大して興味はないがテレビは点けっぱなしだった。小泉首相が終戦記念日に靖国神社を参拝したことを盛んに報道している。首相が終戦記念日に靖国参拝をしたのは21年ぶりだそうだ。今日は8月17日でお盆明けだ。一昨日の出来事がまだニュースになるのかと不思議でもあった。マスコミはあえて大事件にしたいのか。だったら毎月、いや、毎週参拝すればきっとニュースにならない。俺が首相ならそうする。

 そんなことを考えながら食器を洗っていると、テーブルの上に置いてある携帯電話が鳴った。桜井麻美か? そう独り言を呟いている自分に気づき、思わず笑った。だがシンクで洗い物をしている体勢から動けない。どういう訳かそのままで鳴り続ける携帯電話を見てた。



 鳴り止まない。



 どれくらい鳴り続ければ、只今出ることができません、などという音声が流れるのだろう。



 切れた。



 まだ食器を洗い終えていなかったから、だから出なかった。そんな言い訳じみた思いとは裏腹に、不思議と頭から離れない女の声。粘りつくような喋り方だった。いやそんなことない。普通の喋り方だった。

 携帯を教えてしまったことが後悔された。だがどうして? 履歴が残ってそれをアリサに見られたら誤解される? それともアリサが傍にいる時に掛かってきたらと気にしてるのか?



 携帯電話が普及し、今では誰もが当たり前に携帯している携帯電話。俺は寝る時には枕元に置いているが、それって普通なんだろうか? そして鳴ったら出なければならないという強迫観念みたいなものもあって、自分が紐付きになっているような感覚。ーーー縛られてる。そんな感じを社会人になってから強く覚えるようになった。便利だけど窮屈。



 濡れた手をタオルで拭い、携帯が置いてあるテーブルまで行くと、また鳴った。身体の動きが止まるほどドキっとした。

 携帯は絶えずマナーモードにしている。仕事中もそうなのだが、地下鉄に乗っている時に鳴ると、それがどんな呼び出し音であろうと妙に恥ずかしいし、放置することが憚られる。だがマナーモードであってもテーブルに置いている時はギョっとするくらいの振動音で、いったいどんなマナーなのかとその都度思う。


 テーブルまでもを震わせ、振動音を響かせる携帯電話。だが今度は直ぐに止まった。ハエみたいだ。スプレーを掛けられ床に落ちたハエが羽をバタつかせ、必死に飛ぼうとするが唐突に動きを止めた。そんなおかしなことが頭に浮かんだが、3回で鳴り止んだからきっとメールだ。


 ーーー文字が送られてきたのか……


 それがアノ女からかもしれないと思い嫌な気分に襲われた。どうしてこんなにも嫌な気持ちになるのか分からない。

 同期の熊田に強引に誘われ合コンに参加した時、最初は真向いに座っていた女の子がいつのまにか隣に居て、盛んに話し掛けてきたから相槌を打っていたら二次会のカラオケに行く羽目となり、その後一週間くらいはその女の子から毎日メールが着た。面倒だったがこれほど嫌な気分にはならなかったような気がする。




 ーーーまだ仕事? このメール見たら電話ちょうだい。待ってるよ~ん。



 待ってるよ~んの後にハートマークが3つ並んでいた。アリサからのメールだ。そして電話の方もアリサからだった。

 アリサの用件は、今週の土日に泊りがけのドライブに行こうというものだった。今日は木曜だ。今週の土日はというと19日と20日で、二人ともが休日出勤など仕事の予定も入っていなかった。

 8月14日から16日までの3日間も二人ともお盆休みだったのだが、アリサは実家がある道北の田舎町に帰って墓参りやらで忙しかった。かたや俺はというと、お盆のラッシュが嫌で実家には帰らず、同期の中でも実家に帰らなかった本州出身の熊田と二人で札幌近郊の観光にいそしんでいた。だが何処に行っても人だかりでウンザリだった。



「ねぇ、お墓参り行ってないんでしょ。行こうよ、一緒に。ご両親にも会ってみたいし……」


 電話の向こうのアリサがそう言った。




 朝、出勤して今日の予定と来週の予定を確認していた。今日は8月18日の金曜。

 来週の月曜日にH物産からの納品予定があった。これは今日中に出荷してもらわないと間に合わない。最悪、明日の土曜日の出荷だが、H物産も完全週休二日だ。くっそ~昨日言っておくべきだった。うっかりしてた。お盆明けで弛んでたか。

 先ずは佐々木氏にパソコンで電子メールを送った。そして念を押す為にはやっぱり電話だ。



「ありがとうございます、H物産です」



 妙な感じがした。音か? 相手の喋る声がくぐもって聞こえる。



「ーーー佐々木はただいま席を外しております」


 俺は、なら掛けなおします、といって電話を切ろうとした。



「失礼ですけど、どちら様でしょうか?」

「あっ……ああ………T社です。いつもお世話になってます」

「ふふふふ………来栖君だよね? ………やっぱりだ。声で直ぐにわかった。けど違ってたらマズイし、どちら様ですか~な~んて聞いちゃった~。ところでさ~~昨日待ってたんだよ、デンワぁ。忙しかったの~?」

「えっ………うっ、うん………お盆明けだったし……」

「そっか~残業か~~大変そうだね~」


 いったいどういうつもりだ。俺から電話をするのが当然のような口ぶりだ。


「高2の学際の時のこと……覚えてるよね。来栖君……ふふふ……強引なんだもん……わたし……」


 コイツ、ナニを言ってる。


「わっ、わるい………別の電話かかってきたみたいだから切るけど、佐々木さん戻って来たら電話欲しいって伝えて」


 俺はそう言って電話を一方的に切った。アイツが何と言ったかなど聞きもしなかった。受話器を握る手が汗ばんでいて、背中に冷たい汗が流れた。



「ーーー来栖君、おい来栖君! ………どうした?」



 向えに座る立花主任が俺を呼んでいた。


「え………?」

「大丈夫か? すっげー怖い顔して宙睨んでるけど……今の電話どこ?」

「……あ……あははは………大丈夫です、すいません、なんでもないです」

「そうか~? トラブルなら早い段階で言ってくれよ。自分一人で抱えるのはダメだぞ」

「了解です」



 午前中は仕事にならなかった。気が付くとさっきの電話のことに思考が持っていかれた。そして佐々木氏からの電話が来ない。電子メールの返信もない。アイツはきっと伝えてない。ハラがたった。ともすれば再びH物産に電話を掛けようとする自分がいた。だが躊躇われた。



「ーーーなんだソレ? お前マジで覚えてないの? その桜井って女のこと」



 昼休み、社員食堂で熊田と飯を食いながら俺は午前中のことを話していた。


「高2の学際でお前が強引だった………いったいナニをやったんだ? まさか強引に手ぇ繋いだってことじゃないわな、幼稚園児じゃあるまいし。………キスか? それとも、もっとヤバイことか?」

「ヤバイってナニよ?」

「そりゃ~~……チチ揉んだとか、指を入れたとか……まさか……別のモン入れた?」

「ふざけんな」

「あ~悪い悪い、それにしても変だな。H物産っていったらE市じゃ大手だぞ。同族経営だけど従業員だってそこそこいる会社のはずだ。同級生なら………お前、俺と同じで一年食ってるから24か25だよな。高卒で就職したとすると入社して……7年ってとこか。仕事中に会社の電話でどうでもいい話を堂々とするって……お局さんかよ」



 確かに熊田の言う通りだ。俺が担当するようになってからH物産の担当は佐々木氏で2人目だが、電話を掛ける度に色んな人が出てーーー男だったり女だったりするが、どの人も教育された受け答えだ。


 2時を過ぎても佐々木氏からの電話が来ない。ダメだ。もう待ってられない。こっちからもう一度掛けよう。アイツが出て、もし佐々木氏が居なかったとしても会話に付き合わなければいい。忙しいからと言って切れば……



 ーーー来栖君……ふふふ……強引なんだもん……わたし……



 アイツの声がどうしても頭から離れない。



 ーーーまさか……別のモン入れた?



 あり得ない。俺は今年の誕生日がくれば25だ。セックスをした相手を忘れることなど絶対にない。それに、アリサを入れて4人しか女を知らない。俺は仕事上では初対面の人であっても臆したりはしないが、プライベートとなると不思議と人見知りで、決して社交的とはいえない。そんな性格もあって女遊びはしない、というより苦手だ。だから同期の熊田から誘われ2度ばかり合コンというものに参加したことはあるものの、酷く疲れてしまい、よほど人数が足りないとかの理由でもない限りは行かない。面倒なのだ。



「ーーーどうした?」


 その声で我に返った。立花主任だ。受話器に手を伸ばしたままで固まってる俺を怪訝そうな表情で見ていた。


「え……あっ、あの………今日の朝一番でH物産の佐々木氏に電子メールを送って、その後メール見てくれましたかって確認の電話をしたんですが留守で、折り返しの電話頼んだんですが……こなくて」

「ああ、それでか。確かに折り返しの電話頼んだのに、こっちからまた電話するのって、なんだか相手を信用してないみたいでヤダよな。返信メールも来ないのか?」

「え……見てみます。…………あっ……着てた」


 佐々木氏からの返信メールは届いていた。



 ーーー了解です。本日(8月18日)に出荷致します。今後とも宜しくお願い致します。


 そのメールには、2006、08、18、fri 、12:58とあった。

 そうか、昼休みが終わる間際に受信メールに気づいたのだろう。だが俺は電話もしている。佐々木氏は俺からの電話が、先に送ったメールの確認だと解ったから、あえて電話をしてこなかったのか? そんなのいくらなんでも失礼だ。仮にそう思ったとしても普通は、何かありましたか? ぐらいの電話を掛けてくるもんじゃないのか? それに送られて来た返信メールにも電話のことなど書かれていない。変だ。それとも俺が神経質なのか? この程度の行き違いなどみんな流してしまうものなのだろうか?




【第2章 神楽アリサ】


「ええええええ……全然神経質なんかじゃないよ。だって大事なメールだったんでしょ? 今日中に出荷してくださいって。それにリョーの方がお客さんなんだよね?」



 土曜日、レンタカーを借りてアリサと二人で俺の実家に向かう途中のことだ。一つ年下のアリサはいつのまにか俺の事をリョーと下の名前で呼ぶようになっていた。そのアリサにH物産とのヤリトリを話したのだ。


「しっかしさ~、その桜井って女、高校の同級生かもしれないけどどうかしてる。………まさか何かあった訳じゃないよね? ほんと覚えてないの?」


 俺は桜井麻美という同級生をどうしても思い出すことが出来なかった。だからヤマシイことなど何もない訳で、アリサに喋ったのだが、流石に携帯番号やらアドレスを交換したことや、来栖君強引なんだもんと言われた事は、アリサには言えない。



「え? 私? ヤキモチ焼くよ、うん、ガッツリ焼く。知らなかったの? あの時だって……リョーが熊田君に誘われて合コン行って………ハラ立つ………その後も……なんていったっけ? 名前忘れちゃったけど、なんだかって女から毎日メール着てたでしょ。言わなかったっけ? 私ね、めっちゃムカついたからその女に電話した。リョーは私の男だから二度とメールも電話もしてくるな、って怒鳴りつけてやった」


 合コンに誘った熊田は俺と一緒にアリサにビンタされ、よほど恐れたのかそれからは合コンに誘ってこない。だけどあの女ーーー俺も名前を忘れてしまった女からメールが来なくなった理由は今初めて知った。

 アリサは背が高く、脚が長くてスタイルが良い。そして美人というか可愛い顔をしているが気が強い。それにしても気の強さは想像以上だった。まぁいい。



「実家に行ったら卒業アルバ見てみようよ」


 そうだ、卒業アルバムを見れば桜井麻美が解る。


「メグミって人も見てみたいしね。3年間もつきあったんだもんね。どんな人なのか楽しみ~」


 ギョっとして助手席に座るアリサを見ると目が合った。ギラついた目で俺を見ていた。俺はどんな顔をしてるのだろう……



「初めまして、神楽アリサです。リョー君とは大学の頃からお付き合いしてます。あの……これ……お口にあうか……」

「あらあらあら、そんな気を使わなくても………そう、あなたがアリサさんなのね、どうぞ上がって………おとーーーさん! なにやってるの、リョウが彼女を連れてきましたよ!」

「おおおおおおおお! そうかそうか、うんうん、上がって上がって………え? なに? アリサちゃん? 可愛い名前だ。うん、名は体を表すんだ。それより昼飯まだだろ? 先ずは食おうや、腹減ったろ?」



 俺が彼女を連れて帰ってきたのが、こっちが驚くくらいに嬉しかったのかーーーそう言えば付き合ってる彼女を紹介したのはアリサが初めてだーーーすき焼きが用意されていた。サシが入って見るからに高そうで美味そうな牛肉。だけど8月だぞ。夏にすき焼きって初めてかもしれない。


 随分と豪勢な昼飯を食い、4人で墓参りに行くと、あっという間に夜になり、アリサがかいがいしく手伝う晩飯も終わり、それから風呂に入り、テレビを斜めに観ながらアリサと母さんがずーーっとお喋りをしていた。

 実家は2階建てで、2階は俺の部屋と姉ちゃんの部屋の二部屋なのだが、今では姉弟の二人ともが住んでいない実家の2階は空き部屋だ。

 11時近くになると両親は寝て、俺とアリサは2階に上がったが、母さんはアリサの布団を姉ちゃんの部屋に敷いていた。当たり前と言えば当たり前か。

 だがアリサは1人で寝るつもりなどないらいく、姉ちゃんの部屋から枕を持って来ると、俺の布団の上で枕に顎を乗せ寝転がっている。


「卒アル見てみよう」


 だか高校の卒業アルバムが見当たらない。札幌に持って行ったのだったか?


「えええええ……マジ~? だったら中学のは?」


 小学校と中学校のは直ぐに見つかった。


「リョーって何組? ……A組?! …………あっ、いた! アハハハハハハハハ……なんか可愛い~。メグミって人も同じ中学だったんだよね? 何組?」


 確かにメグミもA町出身だから小学校も中学校も同じだが、中3の時に彼女が何組なのかは知らない。興味が無かった。


「クラスは分かんないけど、沢田恵美」

「ふ~ん………サワダメグミ、サワダメグミ、サワダメグミ………」


 暫く経って、あった! というアリサの声に俺も隣に寝そべると、


「きかなそうな顔」


 そう言うアリサも十分キカナそうな顔をしてると思ったが、俺は黙ってメグミの写真を見ていた。懐かしい。





【第3章 美人のお姉さん】


 8月21日、月曜日だ。休み明けで忙しい。だがポケットの携帯電話が絶えず気になった。


「来栖君! 電話だ、2番、H物産から」

「え?! ……あっ、はい!」


 俺が勤めるT社の札幌支店には、経理や業務、それに営業など幾つもセクションがあり、それぞれの課が代表電話番号を持っているのだが交換手がいる訳でない。だから自課所に掛かってきた電話はそこに所属する課員全員の電話が鳴る。普段なら女性事務員か俺のような若手が取るのだが、今日は休み明け、それもお盆が終わっての週明けってこともあってか、俺の課の電話は朝から鳴り通しで、4人いる女性事務員全員が受話器を取っては回すを繰り返し、笑顔の女性など一人もいない。だから俺が取るべきだったのがボーーっとしていて、係長が取って俺に回してくれた。


「はい、お電話代わりました来栖です」


 まさか、あの女か?


「おはようございます、H物産の佐々木です」


 その声を聞いて心底ホッとする自分がいた。

 佐々木氏からの電話は、更なる納品をなんとか頼めないだろうか、というもので、受け入れ倉庫の空き状況次第で何とかなると思うと答えると、佐々木氏は安堵したような声で、お願いしますと言っていた。


 異様に忙しい月曜日がようやっと終わった。それでも携帯電話が気になっていた。時計を見ると9時を回っていて、アパートに帰ってから夕飯を作る気になれない。


 帰る途中にある古くて小さなラーメン屋に入り、ビールと味噌ラーメンを注文した。

 このラーメン屋には味噌と醤油の二種類のラーメンしかなく、メニュー表なんて洒落た物もなく、既に黄ばんでしまった紙に書かれた値段表が壁に貼られているだけだ。


 カウンターの中から愛想のないオヤジが腕を伸ばし、瓶ビールとグラス1つを無言で俺の前に置いた。栓すら開けてくれない。笑ってしまうくらいに不愛想なオヤジ。


 そう言えば実家の近所に恐ろしいほど不愛想なジジィがやってる個人商店が昔あったのを思い出した。俺は高校生で、不愛想なジジィもそれを知っていたはずだ。学生服で買いに行ったから、ダバコを。それでも普通にタバコを売ってくれた。しかし何を買っても「ありがとうございます」とは言わないジジィで「〇〇円です」としか言わなかった。そんな商店なのだが、ある年の夏休みにタバコを買いに行くと、凄まじく綺麗なお姉さんが店番をやっていて、俺は何故だかタバコを買うのが躊躇われアイスキャンディーをレジに持って行った。


「……100円」


 その凄まじく綺麗なお姉さんは「です」すら言わない。喋るのが勿体ないのか必要最小限ギリギリしか口にしないお姉さん。まちがいなくジジィの孫娘だ。いや実の娘かもしれないがあのジジィのDNAだ。だが見惚れた。超絶美人だった。あれ……? 何かを思い出しそう……なんだ?



 ーーー来栖君だったらマジで愛想悪いよね、チョー不愛想。



 すきっ腹にビールを流し込んだせいか、瓶ビールが空になった頃には妙に酔いが回り、ラーメン屋のオヤジの愛想の無さが、記憶の奥で埃を被っていたナニかを掘り起こした。



 ーーーサクライ〇〇のことだって、ウワサになってるよ……



 誰だ? 誰かに確かに言われた。高校の時だ。サクライという女の事を言われた。誰だった? メグミではない誰かだ。

 高校の時の俺は確かに愛想のないヤツで、いつもイラつき、誰彼かまわず睨みつけていた。そのせいで俺に話し掛ける女子は限られていた。付き合ってるメグミが酷いヤキモチ焼きだったせいもあるが、人を寄せ付けないような俺に平気で話し掛けてきた女子は……大町さん、それと高根さん……そうだ高根さんだ。教室を出て廊下を歩く俺に高根さんが話し掛けてきたのだ。サクライという女のことで俺に関するおかしなウワサが広まっていると言って。

 だが俺はサクライなんて名前の女は知らなかったし、ウワサになっていようがどうでも良かった。面倒だった。だから「……知らん」と、返事にもならないような返事をしたと思う。定かではないが……


 アパートに帰った俺は携帯電話の電話帳、「タ」の欄を見ると高根という苗字が一人登録されていた。下の名前はない。これって高校の同級生でメグミと仲が良かった高根さんだろうか?

 何年もの間、一度も掛けた記憶の無い、高根という人の携帯電話の番号。だが他に高根という人に心当たりがない。掛けるか? だが、もし仕事上で知り合った高根さんだったら……

 時計を見るとそろそろ11時になろうとしていた。掛けるなら今だ。これ以上遅い時間になったら流石にムリだ。掛けちゃえ! 違ったら胡麻化せ!


 呼び出し音が鳴った。使われてる番号だ。ちょっとばかり酔ってはいるがドキドキする。呼び出し音が3回。まだ出ない、切ろうか………



「ええええええええええええええええええええええええええ!! 来栖君?! だよね!!」



 高根さんってこんな声だったか?





【第4章 高根さん】


「何年ぶり? 卒業以来……だよね!! どうしてる? 今どこ? 札幌? こっちに戻ってんの?」


 間違いない、高根さんだ。ポンポンポンポンと早口で喋る人だったのを思い出した。彼女は相変わらずで、矢継ぎ早に色んな質問を浴びせては、その答えを待つこともしないで別の質問をぶつけてくる賑やかな人だった。全然かわってない。


「ーーーーっでどうした? それもこんな時間に……アタシを口説く気? ……ギャハハハハハハハハ……でもエエよ、彼氏おるけどバンバン口説いて、ギャハハハハハハハ」

「今度そっちに戻った時に口説くわ。そんなことよりチョっと思い出して欲しいことあって電話したんだよな」

「へぇぇぇぇ……来栖君変わった。ノリのいいこと言うようになってビックリ。でも約束だからね。ちゃんと口説いてよ。っで思い出すってナニ?」


 そこで俺は言った。いつだったか全然思い出せないし、もしかしたら高根さんじゃないのかもしれないが、高校の廊下で俺に言ったか? サクライという女のことで俺がウワサになっていると。


「え………それ……なんで今頃? ………マジで聞いてんの? ………うん、言った。アタシ覚えてる。来栖君がウワサになってて…………ねぇ、D組の桜井麻美って知ってたの?」


 高根さんはフルネームで言った。桜井麻美と。やっぱり居たんだ。同級生に桜井麻美という女が。


「いや、全然思い出せないんだけど……」

「それがどうして今頃?」

「うん、ちょっとな。ところでウワサってどんな?」

「桜井麻美の家にね、何度も何度も同じ男から電話があって、桜井麻美に俺と付き合えとかなんとか……凄くしつこかったらしくて……その男が来栖だって名乗ったって…………あれ? ええええ? ちょっとーーーー!! 嫌だーーーーーーーーー!!」


 電話の向こうの高根さんがなにやらおかしい。


「ねぇ、なんで桜井麻美のこと聞いてきたの? ………卒業してから来栖君から電話もメールも着た事なかったのに、なんで今頃? それもどうして桜井麻美のことなの? それって変だ、どういうこと?」


 確かにそうだよな。何年振りかで電話が掛かってきたら、或る同級生のことを聞きたいというのだから、その理由を話さないといけないだろうな。

 俺は高根さんに、仕事の関係でE市にあるH物産と付き合いがあり、そこに電話を掛けたら桜井麻美が出て、俺の事を覚えていたのだが、俺は彼女をまるで思い出せず、妙に気になって、という説明をした。


「え……それって最近のこと……だよね。ああああああああ良かった~~やっぱデマだったんだ。あはははははは、マジびびった。だってさ~、桜井麻美が自殺したってウワサあったの。ちゃんと生きてんじゃん。あはははは……あのウワサ聞いたのっていつだろう? 高校卒業して何年も経ってない頃だったような………だからそんなウワサなんか忘れててさ~、今、来栖君と喋ってたら急に思い出しちゃって、マジあせった。でもあの女……あんま知らないけど……変だったって聞いたことある。アイツってO町だったじゃん。うちらの学年でO町から通ってたの桜井麻美だけだったはず。だってO町にも高校あるし、こっちの高校と偏差値だって変わんないのに、わざわざ汽車通までして来る人って、自分のこと誰も知らないとこに来たかったって理由だよね。向こうの中学でなんかあったんだと思うな。アタシさ~O高校出身の男と付き合ったことあってさ~……もう別れたけど。そしたら桜井麻美の話になったことあって、その元彼も誰かから聞いたっていってたような気がするんだけど………うん……鬱で首吊ったってウワサ」


 高根さんは、生きてんじゃん、と笑いながら明るい声で言った。だが俺は自殺したと聞いた途端にブルッと妙な寒気を覚え、腕には鳥肌がたった。


 高根さんは俺が喋らなくなったのに気づいていないのか一人でずっと喋っている。


「ーーーアタシ、もうメグミとは友達でもなんでもないから。来栖君知ってるかな? 高3の頃アタシが田沼浩と付き合ってたの。…………うん、そうそう、中学は同じだったけどK高校に行った田沼浩。アタシと浩ってさ~、くっついたり別れたりを繰り返してたんだよね。20歳過ぎまで。その別れてた時期にね、メグミが浩と寝た。あり得ないでしょ! だってアタシとメグミって親友だったんだよ。それなのにその親友の彼氏と……ちょっと別れてる時期だったけど……だからってセックスする?」



 電話の途中から上の空だった俺にはどうしてメグミの話になったのかが解らなかったが、高校の3年間俺と付き合っていたメグミは卒業後ーーー俺と別れた以降は、特に女子からの評判が極めて悪いらしい。というのも彼女がいる男と、それも何人もの男と寝たというウワサが広まってるからだという。


 噂……

 人の噂は倍になるという。事実だけを取り出すのは難しいし、全部がフェイクの場合もある。

 だが、火のない所に煙は立たぬともいう。

 そして、人の噂も75日というが、人と人との距離が近い田舎では、いったん絡みついてしまった、特に性的な噂はその真意に関わらず取り除くのは困難だ。いつまでも、いつまでも、付いてまわる。


 高根さんが言うには、田沼浩は高根さんに土下座をする勢いで謝り、また付き合って欲しいと頼み込んだそうだが、それでも絶対に許さず、メグミに直接会って言い放ったという。あんな男はいらない。のし付けてくれてやるからありがたく貰ってヤりまくれ、疼いて疼いて困ってんだろう、と。女同士の友情って……



「なぁ、高校の時の俺のウワサ……その桜井麻美にしつこく言い寄ったってウワサだけど、それって広まってたのか?」

「え………うん、そのウワサ知らない人っていなかったんじゃないかな~。だって来栖君って目立ってたし、チョー不愛想だったけどモテてたから。それにメグミと付き合ってるのだって知らん人いなかったから、マジ?! って感じで広まったはず。だから廊下でアタシが言ったじゃん、桜井麻美とのウワサ広がっがってるって。あの時だって周りにいっぱい人いたよ。そしたら来栖君がチョー不機嫌な顔でアタシば睨んで………怒鳴られるかと思ってめっちゃビビったんだからね!! だから覚えてんだけど、誰ソレ、知らんわ、って言って、そのまま歩いて行っちゃって、まるで興味なしって感じだった。だからやっぱデマだったんだってみんな思ったみたい。でも学際が終わった頃に来栖君が桜井麻美とヤったってウワサが広まって……」

「はぁぁあああああああ??」



 どうしてそうなる? そもそもそんなウワサがあったこと自体が今初めて知ったぞ。ほんとにそれって俺のウワサ? だって桜井麻美なんて女………ぇぇえええええ?? 知ってたっけ?



「なぁ、ちょっと聞くけど……桜井麻美って………可愛いの?」

「えええええええええええええ? なにそれ~~……もし可愛かったらナニ? まぁいいけど………ブスじゃないから可愛い部類にはギリギリ入るか入らないか……ボーダーラインに引っかかってるってタイプかな~~でも全然目立ってないし、誰かにコクられたってウワサも知らないから、モテたりはしてなかった。ねぇ、マジで知らないの? 桜井麻美のこと」

「ああ、知らん。っでその………俺がヤっちまったってウワサ……俺は今知ったんだけど……あははは……そのウワサってどうなった?」


 電話でのアイツの声が蘇った。


 ーーー高2の学際の時のこと……覚えてるよね。来栖君……ふふふ……強引なんだもん……わたし……


 まだ何かを言いたげだった。「わたし」の次になにを言い出すつもりだったんだ?



「え? ……えええええええええええ?? ちょっと~~今更だけど来栖君とメグミってどういう付き合いだった訳? メグミは来栖君とセックスしたって言ってたけど………あの時のこと聞いてないの? メグミから……」


 げっ……普通いうか? 女ってそうなの? 俺は誰々とヤッたなんて話を誰かにしたことなど一度もない。


「うん、メグミから詳しく聞いたからアタシ………ひっひっひ……来栖君の身体のいろんなこと知ってんだ」



 とんでもねぇぇ……マジかよ、勘弁してくれ。



「来栖君、なにかあったんでしょ? 絶対おかしい。なんでそんなに高校の頃のウワサ知りたいの? 仕事でたまたま桜井麻美と喋っただけじゃないんでしょ? あの女にナニか言われた? そうでもなきゃわざわざアタシに電話してくる訳ないよね?」


 俺は観念した。

 急に現れたーー実際には会ったことのない桜井麻美という高校の同級生と仕事で喋ったことが切っ掛けで気になり続け、何年も連絡を取っていなかった高根さんに、酔った勢いもあって電話をしたのだが、あの女が電話口で言ったことが頭から離れないのだ。それを言うのは流石にちょっと恥ずかしくて、言わずに済ませようとしたのだが、やっぱり無理か。



「うそ!! えええええええええ?? ……マジ?? 桜井麻美がマジで言ったの? 高2の学祭の時に来栖君が強引だったって…………ええええええええええええええ?? そんなの………ちょっとホントのこと言って! ヤってないんだよね!!」

「ヤってたら覚えてるって。それに高根さんにわざわざ電話なんてしないだろ、もしほんとうにヤってたんなら」

「ああ、だよね……………そういえば……さっき言ったアタシの元彼……O高校の………そいつが言ってたの思い出したんだけど、中学の頃の桜井麻美って、おんなじクラスじゃなかったからウワサだって言ってたと思うけど、メンヘラっぽくていっつも一人だったって………」



 メンヘラ? 心の病かよ。いや、中坊ってちょっと自分らと違うタイプの人間見つけ出しては寄ってたかっておかしな言いがかりりをつけるから、あんまり信憑性はなさそうだ。そんなことより、さっき高根さんが言った、メグミから聞いてないの? の続きが知りたい。


「え、あ~~それね~。そのウワサ聞いたメグミがブチ切れちゃって、D組に乗り込んでったの。アタシもまだメグミと仲良かったからハラたって一緒に行ったんだけどね、まだ昼ご飯食べてる桜井麻美にメグミが思いっ切りビンタかまして、お前が言いふらしてんだろ! リョーと寝たとかなんかアリもしないことベラベラベラベラと、ナニしゃべてんだ! 処女のクセにふざけんな! リョーと寝たんなら言ってみろ! リョーの身体の特徴! ホクロの場所! 言えるもんなら言ってみろ! どーせオナニーやり過ぎて妄想と現実がゴッチャになってんだろ、バーーカ、てなことを怒鳴りまくってた。…………え? 聞いてる? もーーーし、もしもし? 来栖君………聞こえる?」

「ああ、聞こえてる。…………オナニーやり過ぎって………スゲーこと言うよな。高2の時だろ? それも昼休みの教室で」

「高校生だよ、みんなしてるしょ。メグミだってしてたよ、知らんかった? ……アタシもするし」

「あっそう……ははは」

「やっぱさ~、あんときメグミが言ったのって当たってんじゃない? 妄想と現実がゴッチャになってるって………ヤバイよね」


 高根さんの話だと、そのウワサはメグミが怒鳴りつけたおかげなのか、それ以降はピタっと止まったらしい。まぁ下手にウワサでもした日にはメグミにオナニーのやりすぎだと怒鳴られると恐れたのかもしれないが……



「そう言えば、来栖君さっき、桜井麻美って可愛いのかって聞いたけど、卒業アルバム見ればわかるじゃん。いるよ、3年D組に」


 その卒業アルバムがどういった訳だか見当たらないのだ。それを言うと、写メで撮って送ってあげると言い、電話はいったん切れた。


 メグミも高根さんも1年の時は俺と同じA組だったが、2年になる時のクラス替えで俺はA組、メグミと高根さんはC組。結局、高校の3年間同じクラスで大の仲良しだった女子2人が男のことで大ゲンカか。2人とも地元にいるのだろうか? だとしたら顔を合わせる事もあるだろうし、気まずいだろうな。


 時計を見ると夜中の12時を過ぎていた。

 高根さんからのメールが着た。開けてみると見たことの無い女子高生がいた。こいつが桜井麻美か、知らん……


「もっし~~、メール行った? ………どう? 知ってる人っぽい?」

「いや、知らない人」

「あはははははははは……それってさ~、向こうにしてみたら超ショックだって~~ウケるぅ。そう言えばフっと思い出しちゃったんだけど、C組の桜井さんは知ってるよね? 1年の時は来栖君も同じクラスだったし」

「ん? C組の桜井? それって桜井麻美とは別の桜井ってこと? 女子で?」

「ええええええ!! マジ~?? 女子だって女子。桜井かおる! ………知らないの? あれ、かなり太った……色黒で……H町から汽車通してた……はっきり言ってブスなんだけど性格の良い桜井かおるだって」


 あれ? なんか思い出した。誰かから電話がきたんだ。3年の時だ。


「え……? ナニ? 電話って?」


 そうだ3年生の時に家の電話に掛かって来たのだ。名乗りもしない男から。声の調子から同年代だと思ったはず。そいつは言った。あんたがA高校3年の来栖か。桜井って女のこと知ってるよな、と。俺は1年の時に同じクラスで3年C組になった桜井さんのことだと思い、ああ知ってる、C組の桜井さんだろ? それがどうした? お前誰だ? と返したはず。1年の時に同じクラスだったとはいえ、桜井さんとは喋ったことなど無かったのだが、凄く太ってたから目立ち、2年になると付き合っていたメグミと同じC組になったことで覚えていたのだ。

 名乗りもしないヤツからいきなりあのデブを知ってるよな、と言われたと思い、だんだんと腹が立ってきた俺はケンカ腰になっていった。知ってたらなんだってよ? お前あのデブのなによ? 恥ずかしくて名前も言えねぇくらいテメェもデブか? なんとか言えデブ! すると微かに女の声が聞こえ、やっぱり違うんだ、私のこと知らないんだ、と言っていたような気がする。あれは公衆電話からだ。なぜだかそう思った。


「ええええ?? デブデブって……誰かも分らない相手にケンカ売ってんじゃん。あははは………でもそんなことあったんだ。でもさ~~桜井麻美って2年の学際の時に誰かとセックスしたのは間違いなさそうだけど………自分がセックスした相手が来栖君だと思ってたってことだよね? バカだよバカ。ヤり逃げされたんだよ、来栖君を名乗ったヤツに。しっかしさ~、仮にだよ、仮に……桜井麻美が来栖君のことを愛していて、でもメグミがいるから話し掛けることもできないで陰からずっと見ていたとするよね。っで或る日突然に来栖君から誘われたとするなら……まぁアリだよね。でもさ……来栖君の顔も知らなかったから電話してきたんでしょ? そんなハッキリと解らない相手にパンツ脱ぐ? 誰でもいい女だよ、桜井麻美ってやっぱ狂ってる。それか………ウリやってて、そいつが金払ってなかったとか…………でもそれは違うか、ウリだったら、来栖君って強引……なーーんてこと言うはずないもんね。でも………同じ学校の同級生なのに来栖君のこと知らないって………あるか……うん、あり得るかも。だってね、桜井麻美ってA町じゃないし、私だって来栖君とのウワサ聞いた時、ソレ誰? って思ったし、メグミなんて桜井かおるのことだと思って呼吸止まってたから。あはははは……ビックリしたんだろうね、浮気するにしても桜井かおるって、もしかしたら来栖君ってデブ専だった? って感じでさ~~ギャハハハハハハハハハハ…………」


 自分で言ったことに自分で大うけしている高根さんは、電話口でしばらく笑い続け、しまいには、苦しい、腹イタイ、たすけて、と言っていた。


「ーーー桜井麻美って超地味で全然目立たない。来栖君って派手目の女子なら誰でも知ってたけど、別の町から通う地味で目立たない女子は……知らなかったかもね」


 高根さんとは2時過ぎまで喋っていた。5年以上も合っていないのがウソのようにーーまるでつい最近に高校を卒業した者同士のような錯覚を覚え、俺は気分が晴れた。高根さんは、こっちに来るときは連絡してよ、口説かれる準備ってもんがあるんだからねと言い残し、電話は切れた。





【第5章 佐々木さん】


 何日か後、俺はH物産に躊躇いながらも電話を掛けた。自分でもどうしてこんなに憂鬱になるのか分からないが、とにかく桜井麻美と喋りたくない。またアイツが電話に出るかと思うだけでザワっとする。


 呼び出し音が2回となる前に女性が出た。


「おはようございます。H物産です」

「T社です。お世話になってます。佐々木さんはいらっしゃいますか?」


 どうしても自分の名前を名乗るのが躊躇われた。だが電話に出た女性が桜井麻美ではないと直ぐに分かり、肩の力が抜けた。


「いつもありがとうございます。佐々木は……あの~……ちょっと体調を崩して……休んでおります」


 どうやら今日は休んだのではなく、何日か前から休んでいるようだ。電話は佐々木氏の上司に当たる人に代わられ、用件は無事に済んだ。


 そして数日後のことだ。

 あれからH物産に電話を掛ける事も、掛かってくることもなく、そして俺の携帯電話に桜井麻美からの電話もメールも一度も無かった。

 頭の隅っこには会った事の無い桜井麻美が引っかかってはいるが、以前ほど携帯が鳴るたびにドキっとすることはなくなった。俺はいったいナニに怯えていたんだ。それはまるで、暗闇にはナニかが潜んでいると勝手に思い、そのナニかと遭遇したことなど無いにのに、暗闇を怖がる子供のようだった。


「T社の来栖といいます。いつもお世話になってます。佐々木さんはいらっしゃいますか?」


 H物産に電話を掛けた俺は躊躇うことなく自分の名を名乗っていた。



「え……その~………佐々木は……」


 電話に出た女性は言い淀んだ。ああ、きっとまだ体調が優れずに休んでいるのだろう。そう思った俺は女性の次の言葉を待っていた。


「なくなりました、不慮の事故で」


 女性は一気にそう言った。


 なくなったって……なに? どういうこと? 無くなるって………え? 亡くなった? 


「あの、すいません……死んだってことですか?」

「えっ、ええ……突然のことで……」

「病気で? それとも交通事故かなにか……」

「いえ……あの………不慮の事故で……」


 そんな俺の声が聞こえたのか、向えに座る立花主任が立ち上がって、こっちに身を乗り出していて目が合った。


「誰が死んだ?」


 俺は受話器を手で塞ぎ、


「H物産の佐々木さんが……」

「なっ………またか」

「え? またって……?」


 目を逸らした立花主任。悪い、なんでもないから気にするな、と下を向いたままで言い残し、どこかへ行ってしまった。


 電話は、前にも喋ったことのあった佐々木氏の上司と代わり、それ以上は佐々木氏のことについて触れられなかった。



「不慮の事故っていったら色々だけど……その女性はそうとうに言い難そうだったんだろ。………自殺だろうな」



 昼休み社員食堂で向えに座る熊田が言った。


「だろうな………でも立花主任が、またか、って言ってたんだよな。それって……」

「お前がH物産の担当になってから、向こうはずっと佐々木さんて人か?」

「いや、佐々木さんで二人目だ。前の人は……確か……す……鈴木さん! 鈴木さんって人だった」

「ふ~ん、その鈴木さんって辞めたのか?」

「いや、聞いてない。俺も入社1年目だったから、そんなもんなんだろうな~って……」

「H物産ってE市じゃ大手だろうけど、支店やら営業所がある企業じゃないはずだぞ。だから転勤なんてもんも無いし、人事異動だってよっぽどじゃなきゃ無いんじゃないのか」


 午後の3時頃に喫煙ルームに行くと立花主任が一人でタバコを吸っていて、他には誰もいなかった。


「H物産のことなんですが、佐々木さんの前の担当だった鈴木さんって……まさか……」


 予想は当たった。立花主任は一言、首吊った。





【第6章 移転】


 翌月のことだ。

 H物産の担当は目黒という人に代わった。

 向えに座る立花主任が腕を伸ばし、俺に手紙らしき物を渡してきた。


「H物産、また移転するみたいだぞ。儲かってんだな」


 渡された手紙はH物産の代表取締役名で出された、新社屋での営業開始の案内だった。

 手紙には、旧社屋の住所と代表電話番号、それと新しい社屋の住所と代表電話番号が印刷されていて、新しい住所は旧社屋と同じE市ではあるものの、違った丁目だから、旧社屋を壊してそこに建てた訳ではないのが解った。


「来栖君ってH物産に行ったことあったか?」

「いえ、ありません。立花主任はあるんですか?」

「ああ、何度か行った。何年前だったかな~、先代の社長の頃は別の………確かO町だかって田舎町に社屋があって、そこにも行ったな。っで5~6年前だったと思うんだけど、社長が息子に代わって、E市の今の社屋に移転。あれって新築しゃなく、土地と建物そっくり買って移転したんだよな。だからけっこう古くて使い勝手悪そうだった。なんで壊して新しいの建てなかったのかね~。今頃また移転って……よく解らんけど同族経営じゃなきゃ出来ない芸当だな。そっか~来栖君は行ったことなかったか………あれ? そう言えば来栖君の実家ってE市の傍じゃなかったか?」

「ええ、E市から30キロくらいのとこにあるA町です」

「なら行って来い。金曜日に行って土日は実家でゆっくりしてくればいい。課長には俺が言っとくけど出張申請は書いておけな。業務打ち合わせとなんとか書いて………いいんだって、出張なんか所詮は息抜きなんだから。H物産には事前に言っておけよ。美味いもん食わしてもらえるぜ、あはははははは……」


 H物産の新社屋での営業開始は翌々週ってこともあって、その一週間後に俺はH物産に社用車で行った。

 アリサは自分も休みを取って一緒に行くと駄々をこねていたが、流石に出張、それも会社の車に彼女を乗せて行くのというのは憚られ、俺は1人で行った。


 H物産の代表取締役からの手紙はコピーして持ってきた。

 E市は俺の生まれ育ったA町から30キロ程度離れた地方都市。子供の頃など夏休みや冬休みになると親に連れられて来ていたし、高校時代は付き合っていたメグミと二人で遊びに来た馴染のある街ではあるが、車を運転させたことのある街ではなく、イマイチ住所がピンとこない。まぁカーナビがあるから大丈夫だろう。それより立花主任が言っていたことが気になった。


 ーーー先代の社長の頃は別の………確かO町だかって田舎町に社屋があって……



 O町と言えばアノ女ーーー桜井麻美がO町から通っていたと高根さんが言っていた。

 それに旧社屋に残っていればいいのにと思うが、当然新社屋で働いているのだろう。会ったとしてもとにかく無視だ。無視を決め込もう。


 高速を走っていた俺はE市のインターで下り、時計を見ると10時少し前だ。H物産の新しい担当ーーー目黒氏には11時には着くといってある。高速が空いていたこともあって早く着きすぎた。俺はE市のJR駅に向かった。旧社屋が駅裏にあると聞いたからだ。旧社屋もちょっと見ておこう。


 旧社屋は直ぐに見つかった。

 駅の傍ということもあるが、そこだけが駅周辺とは思えない異様な佇まいを晒していて、最初は、なんだコレはと、まさかH物産がつい最近まで使っていた社屋だとは思いもしなかった。


 その建物がある土地全部をロープが取り囲み、けっこう頑丈そうな杭がそのロープを固定していて、「私有地につき立入禁止 H物産」との看板が何か所にもある。

 それ自体は異様でも不思議でもない。駅の近くで人気のなくなった建物だ。おかしな輩が入り込んだりしないよう最低限の措置だ。だがその建物のあまりの老朽化が目を引いた。外壁がところどころ剝げ落ちてしまっていて、何年間もずっと廃墟だったかのようなオーラを出しいて、お化け屋敷そのものだ。ほんとうについ最近までここで営業してたのか? それに駅周辺だぞ。E市は人口が20万を超える地方都市で観光にも力を入れ、予算もそれなりに投入してると聞いた。駅は市の玄関だ。このお化け屋敷は景観を損ねるってレベルじゃない。昭和の頃に建てられたのだろうが、歴史的建築物では絶対にない。遠目でハッキリしないが窓は木枠ではないもののかなり古いタイプの窓枠だろう。それに空調がないのか各窓の下にエアコンの室外機があるが、それは一般住宅用のものだ。

 部屋ごとに家庭用のエアコンが設置されているだろう鉄筋コンクリートの3階建ての建物。冬はどうしてるんだと見ると、屋上に突き出た集合煙突が幾本も見えた。それも四角の角がある煙突のはずが、その角が欠け落ちている。


 土地と建物をまるごと買ったらしいが、元はアパート?


 ゆっくりと車を走らせ裏手に回ると、ロープで取り囲む土地が思った以上に広いのに驚いた。それと土地の形が三角だ。


 駅を中心に区画がおかしな具合に整備されてる自治体は多い。街のグランドデザインが先行した後に駅が出来た訳ではないからだ。駅が出来、そこを中心に人流が生まれ、道路が整備されて商店が次々と進出してきて商店街となる。街の区画を碁盤の目のようにしようとすると、駅があるためにどっかに歪みが出来る。駅が大きければ大きいほどその歪みも比例して大きくなる。この街の歪みはここなのだろう。


 建物の真裏ーーー三角の角に来て息が止まるほど驚いてしまった。


 ーーーこれってナニ? 原生林? まさかこんな街中のそれも駅の傍に防風林?


 反対側からは見えなかった。だけど回り込む途中で、ずいぶん木があるな~とは思ったが、真裏にくると、木々の群れによって建物全部が見えない。隠されていた。ええ? 誰から? 駅から見えないようにしているとしか思えない。それは異様というより不気味だった。


 11時きっかりに新社屋に着いた。住所をカーナビで検索すると迷うことなく辿り着くことができたのだ。

 E市で新たに造成され売り出された工業団地の一角にH物産の新しい社屋ーーー鉄筋コンクリートの4階建ての社屋が威風堂々とあった。空調も行き届き、窓もダブルガラスーーーもしかしたらトリプルガラスかもしれない、断熱と防犯に優れたものが施され、建物全てが真新しく、これは快適だろうと思わずにはいられなかった。当然だが、おかしな原生林? のような木々の群れな無い。


 大して打ち合わせなど無いため、11時半には社屋を出て昼食に向かい、そして夕飯まで招待された俺は、午後3時にはH物産を出た。幸いなことに例の女ーーー桜井麻美から声を掛けられることも見かけることもなく、早々に退散した俺は酒を飲むつもりもあって実家に車を置いてJRで再びE市に来た。

 夕食は駅前にある料亭のようなところだった。そこは駅を挟んで旧社屋とは反対側ということもあって、俺は午前中に見たあのお化け屋敷のような建物のことも原生林のような異様な木々の群れのことも忘れ、二次会、三次会としこたま飲んだ。そのせいで桜井麻美のことなど思い出す事もなかった。


 実家にはタクシーで帰ったのだが、H物産の目黒氏は用意していたタクシーチケットを2枚くれて、酔ってだらしのない顔をしているだろう俺を、タクシーの外から頭を下げながら見送っていた。


 俺は公務員ではない。接待なんてしたりされたりが当たり前の民間人だ。札幌ではススキノに連れて行って女を抱かせる接待まである。それにしても接待の影響力って凄いな。これからもH物産から納品しようと思っている自分に酔いながらも気づいていた。





【第7章 梅木竜二】


「桜井麻美? ………O町から通ってた桜井麻美のことか? 全然覚えてるわ。特別かわいいって女じゃなかったけど、ちょっと影があって……ミステリアスっていうのかな~、俺は好みじゃなかったけど、それがいいって言ってる奴もいたな。その桜井麻美がどうかしたか?」


 そう言ったのは小・中・高と同じ学校だった梅木竜二だ。竜二は俺と同じA町で生まれ育ち、高校を卒業後は札幌の大学に進学した。俺と違った大学ではあったが同じ札幌ということもあって、随分と二人でススキノに遊びに行ったりしていた。そして二人の誕生日が近いせいで20歳になった時の誕生月には、竜二の誘いでソープにまで一緒に行ったし、アリサを入れて3人で飲みに行ったのも1度や2度ではない。そんな竜二は俺と違ってちゃんと4年間で大学を卒業し、E市にあるーーーE市では最大手の建設会社ーーーゼネコンに就職したが、炊事を自分でするのが面倒らしくA町の実家から通っていた。そう言えば札幌では一人暮らしをしていた竜二だが、週に3度は俺のアパートに来ては飯を食っていたし、彼女がいる間はその彼女のアパートに転がり込んでいた。


「うちの会社、E市のH物産ってとこと取引あるんだけどな、そこに電話したら居たのよ、桜井麻美って同級生が。俺全然覚えてなかったんだけど向こうは俺のことシッカリ覚えてて……なんだかちょっとな~~」

「そりゃ居るだろ。H物産の先代の社長………何年か前に死んじまってるけど、その先代の孫娘が桜井麻美だって。俺もE市じゃ大手の企業に勤めてるからH物産のことならある程度は知ってる」


 H物産は同族経営だから先代の社長も今の社長も苗字は同じで齊藤だ。竜二の話によると、今の社長の姉が桜井麻美の母親だという。要は社長の姪が桜井麻美だ。そして竜二はこうも言った。叔父さんが社長やってる会社あるならそこに就職するって。ましてや母親の弟が社長だぜ、遊びに行ってるようなもんだろ、と。

 そういう事か。同期の熊田が不思議がってたように入社6~7年で、まるでお局さんのように好き勝手が出来る環境なのだろう。


「H物産って小豆で大儲けした会社だ。小豆って赤いダイヤって言われてるの……知らんか……まぁいいや。投機性があって昔は株よりも強烈だったらくてな、一晩で大金持ちになったり、逆に一文無しになっちまって一家心中ってのもあったみたいだ。今でも投機性はあるんだろうけど、小豆でコケて倒産なんて話は最近は聞かないな………どうなんだろう? 昭和50~60年代まではけっこうあったらしいぞ、コケた小豆屋のあおり食らって倉庫屋とか運送会社なんかも倒れたとか………H物産はそこんところを上手く渡り切って今じゃ小豆なんか殆どやってないんじゃないか。子会社だってけっこう持ってるし、社長はE市じゃ盟主の一人だ。ウチの社長とも仲良かったはずで、しょっちゅう一緒にゴルフやって、毎年2月になったら沖縄までゴルフやりに行ってるわ。一緒に。同族経営の社長って金の使い方ハンパないぞ。普段はすっげーケチなんだけど、資本家ってそんなもんだよな。そんな会社の社長が叔父さんって、まぁいい御身分だろうな~~。でも結婚となったら色々あるみたいだ。今のご時世だって政略結婚なんてザラだからな。社長の娘がどっかの企業の息子と結婚してグループ企業をデカくしてくのなんて珍しくないし、俺んとこみたいな土木建築業なんかそんなのゴッサリあるわ。ダンプ屋と付き合い深いからな、いつのまにか運送業者がグループに入ってて、そしたら砂利プラントなんかも一緒にくっついてきて、その内、倉庫業とか不動産業なんかの会社もってな感じだ。だから社長の姪の桜井麻美も…………え? あれ? ………生きてんのか? あれ~~誰から聞いたんだったかな~~……桜井麻美が自殺したってウワサ……何年か前に聞いたような……でもリョウが電話で喋ってんだから生きてんだよな、あははははは」



 どういうことだ? 竜二までが高根さんと同じようにアノ女が自殺したというウワサを聞いた事があるって……

 居酒屋でのビールジョッキは二杯目でそれも空になりかけていたが、頭が妙にさめていく。

 最近桜井麻美と喋ったのは俺だ。誰よりもアイツが死んでなどいないことを知ってるはずなのに、誰かが葬式にでも行ったってウワサなのか、という台詞が俺の口から出ていた。


「え……ええええ?? お前が電話でしゃべったのって最近なんだろ?」

「いや、それは……そうなんだけど」

「変なヤツだな。………でもどうだったろう? ………ダメだ、全然思い出せんわ。でも兄貴は死んだ。桜井麻美の兄貴な。自殺、うん、これは間違いない。俺らがまだ大学行ってた時で、会社の先輩が教えてくれたんだけど、その兄貴もH物産にいて、けっこう優秀だったらしくて、将来は子会社の社長か、もしかしたらH物産の社長って目もあった有望株だったのが、ある日突然、首吊った。桜井麻美とは一つ違いの兄貴」


 なに? 社長の親族なんだろうけどH物産の社員だよな。桜井麻美と一つ違いってことは、仮に高卒だったとしてもそんなに古い話じゃないはずだ。H物産にはずいぶんと自殺者がいる印象を持っちまったけど、それって普通なんだろうか。


「お姉さん、ビール頂戴。……お前もビールでいいか? お姉さん、二つね!! …………ところでよ~~桜井麻美の兄貴の話してたら、ちょっと変なウワサ思い出した。俺って中学高校とサッカー部だったろ……」


 竜二が中学の頃からサッカーをやっていて、高校生になっても続けていたのは覚えている。だがA高校のサッカー部は全然大したことなくって、どちらかと言えば不良の溜り場のような部でもあったのだが、竜二本人がそれでも良しとしていて、そんなこともあってか高校の時は帰宅部だった俺の方が走るのも早いし運動神経が良い。あの部はいったいなんだったのかと今でも思う。


「2年の時なんだけどな、サッカー部にO町から通ってた一つ上の先輩がいてな。その人が誰かに喋ってたの思い出したんだけど……きっと喋ってる相手もO町の人だったと思うんだけど、それがすっげー話でさ………桜井のヤツ、妹とヤったらしいぞって言ってたのよ。O町出身だから桜井麻美とその兄貴のことだと思って聞いてたら、うん、俺らの学年にいる桜井麻美の事に間違いなかった。っでその先輩が言うには、ヤられた妹もまんざらじゃなくて、今じゃ自分から腰振るまでになって、誰にでもサセるとかなんとか言ってたの思い出したわ」


 受話器から聞こえる桜井麻美の声が蘇った。あの時のあの女の笑い声。それは含み笑いというような笑い方で、淫靡な響きがあった。



「もう一軒いくべや」



 竜二に連れられて行っのは、カウンターの中に女の人が二人いるカラオケのあるスナックだった。





【第8章 今泉絵里香】


「ボトルあったよな?」


 竜二はE市だけではなくA町でもけっこう飲み歩いてるらしい。そしてキープされていたのは焼酎ではなくウィスキーで、やっぱりスナックで飲む酒はちゃんと色がついてなきゃ~ね、などと嘯いている。


「竜二君、私も……ちょっと贅沢いってもいい? ………ひっひっひ……ビール! …………あれ? ………もしかしたら来栖君じゃ…………そうだよ! 来栖君だ!! うわーーーーー久しぶりーーーーー!! 私! 絵里香! 今泉絵里香だって!! 」


 それは小学校は違ったものの、中学、高校と同じだったせいで顔も名前も覚えいる同級生の今泉絵里香だった。化粧が濃くって直ぐには分からなかった。夜のお仕事してるんだ。


「カンパーーーイ! なんかチョーーー嬉しい!! まさか来栖君に会えるとはね~……独身だよね? メグミとは別れたはずだし………高校ん時カッコ良かったな~……ああ、今もね。なんで1年の時からメグミと付き合っちゃうかな~~。中2中3って私と同じクラスだったじゃん。来栖君ってさ~……ひひひひ……私に気ぃあったしょ? へっへっへ……知ってたんだよ、しょっちゅう私のこと見てたの……だから待ってたのに、コクられるの。メグミなんかより私の方が絶対可愛いしょ、性格だっていいしさ~」


 中学2年生の時に初めて今泉さんを見たのだが、小学校が違ったせいで物珍しさもあったのか、可愛い!! って思ったのは確かだけど、人見知りの俺はコクるどころか話し掛けるのだってムリだ。そんなんだから高校の3年間に一度も同じクラスにならなかった今泉さんとは今日初めて喋った。


「ふ~~ん……人見知りね~~……なら私がグイグイ行けば良かったってこと?」


 そう言えばメグミとはそうだったかもしれない。考えてみるとアリサも……



「ーーーーええ? O町の桜井麻美? あ~~~覚えてる。地味ぃでクラーーい女。喋った事ないけど覚えてるわ。アイツさ~……確か2年の学際の時に3年の男子に呼び出されてヤられたのに、そいつと付き合ったヘッチュウ女。もともと処女じゃなかったらしいけど、野球場の土手でだよ。そんなとこでヤる男と普通付き合う? そんで何をトチ狂ったんだか来栖君とセックスしちゃった~な~んて言い出しちゃってメグミにぶん殴られた大バカ女。ねぇ、来栖君さ~、アイツとなんかあった?」

「いや………なんにもない。そもそも顔も名前も知らんかったし…………そのウワサも……メグミが引っ叩いたのも最近知った」

「ええええ?? ちょっと~なにそれ~? でも………あはははははははははは……チョーうける。知らない女に抱かれたって言われてたんだ~~ヒャハハハハハハハハ……気の毒ぅぅ……あれ……? あいつって死んだんじゃなかったっけ? 自殺したってウワサ………誰かから聞いたな……」


 これで3人目だ。隣にいる竜二は、お前もか、と言っていた。


「いやいやいや、生きてるって、つい1~2カ月前に電話で喋ったから。仕事の関係で」


 意味もなくムキになっていた。


「へ~~そうなんだ。アイツって確かH物産の社長の孫だかなんだかでコネ入社したはずだよね。来栖君の会社ってH物産とつきあいあるんだ。っで? 喋った時どうだった? いつでもどーーぞみたいなこと言ってなかった? アヒャヒャヒャヒャ……いっとくけど私は処女だからガードは固いの。もう鉄壁。ひっひっひ……」

「あっそう」

「へ~無理しなくてもいいんだからね。言っちゃっていいんだよ、僕は昔あなたのことが好きだったんです~ってさ~~。そしたら私も処女じゃないかも」

「あれ? 急に舌がこわばって……ああああ……もうダメだ、口が利けない」

「………ムカツク」


 そんなクダラナイ話をカウンターの中にいる今泉さんと喋っていたのだが、隣に座る竜二が押し黙っているのに気が付いた。


「竜二、どうした?」

「いや………ちょっとな」


 そう一旦は言い淀んだ竜二が話し始めた。




【第9章 解体】


「H物産はE市じゃ大手で従業員もそこそこいる会社だ。だけど俺んとこもH物産以上に従業員多いわ。けど俺が入社してから現職が死んだ人なんていないぞ。リョウんとこはどうよ? お前のとこだって従業員多いだろ? 誰か現職で死んだ人っているか?」


 俺がいるT社の札幌支店でも、俺が入社してから現職で死んだ人などいない。


「……だろ? 先月か先々月だっかか忘れたけど、H物産で誰か死んでる。あら……新聞のお悔み欄……こっちの地元紙ってエラく詳しく載るんだよな。っで一応は全部に目ぇ通すんだけど、大抵は70とか80過ぎの年寄りばっかだから斜め読みするんだけど、珍しく40代の人のがあって目ぇ引いたんだよな。そしたらH物産勤務って書いてあって、それ読んでて思い出したんだけど、何年か前にもH物産で死んでる。確か俺が入社して1年目の時たっだ。それにさっきも言ったけど、桜井麻美の兄貴が死んだのだってH物産に入社してからだ。それだって6~7年前のはずだぞ。多すぎないか? ………あり得ねぇって」


 俺も思った。異様なくらい人が死ぬ会社だ。だけど偶然だ。もし偶然じゃないのなら、H物産という会社は業務量が恐ろしいほどに多くて、人の補充も追いつかなくって、そこで働く人が次から次へと心が病んでしまう、いわばブラックな会社だってことだろう。それにしても自殺するくらいならそんな会社など辞めてしまえばいいと思うが、日本の自殺者数は年間3万以上だという。その中で何人くらいが自殺成功ってことになったのかまでは知らないが、珍しい死因ではないのだと思う。俺の周りにはいないだけだ。

 俺がそんなことを考えてると竜二が続けた。


「H物産のあの社屋な……最近になって新しいの建てたけど、駅裏にある旧社屋、あれって元は結婚式とか場合によっちゃあ葬式もやる会館だったらしい。昭和の40年代頃に建てられたって聞いた。その頃ってまだ高度成長期で、結婚式なんかどんどん派手になって規模もデカクなって、今じゃ考えられんくらい人呼んで、300人なんてザラにあったって言うし、だから結婚式場も増えてったんだろ。だけど今じゃ結婚式なんか挙げないの多いし、挙げてもホテルだろ。だから潰れた式場多くて、あの建物もその一つだ」


 そうか、式場として使われる会館か。だったら各階に広いフロアーもあるだろうし、親族用の控室もあっただろうから応接室や少人数での会議室にも使える。だけどどうしてリフォームをしなかったんだろう。せめて外壁くらいは修理すべきだったんじゃ……あれは酷すぎる。


「俺んとこってゼネコンだから場合によっちゃあ解体も請負んだよな。あの旧社屋の解体話ってずーーーっと前からあったの知ってんだけど、あれは手が出せない。………問題物件だ。この話って人に喋っちゃダメなんだろうけど、ここらの建設業者なら誰でも知ってるから………H物産があの土地と建物買った時も本来は上物壊して新しいの建てる計画だったのが結局は壊せなくて………今だって解体業者探してるけど引き受け手いなくて、札幌の業者にまで当たってる」


 問題物件ってなによ? まさか祟りとか……


「それって、オカルトめいた話? でもウワサだよね、ウワサ……都市伝説みたいな……」

「いや、マジだ。実はウチにも何度も頼みにきてる。H物産の取締役があの建物の解体頼みに。でも何度頼まれても引き受けないから聞いたんだよな、うちの60代の常務に」


 竜二の話はこうだった。

 そもそもあの土地はE市の土地だったが、おかしな形―――三角の形が嫌われ、そのせいで買い手が付かず、高度成長期で周りにどんどんと新しい建物が建つ中、雑草が伸び放題の空き地になった。そのせいで余計異様に見えた土地は売れなかった。そして頭がイカレた奴が女を犯し、殺し、どういった訳だかその土地まで持って来て燃やす、という凄惨な事件までが起きた。

 数年後、E市は、駅裏という一等地に近い値段の土地を大バーゲンした。市議会も黙認した。

 買ったのは商売人ではなく農家だった。世の中が派手な結婚式ブームになっていて、駅に近いという立地条件もあり、冠婚葬祭用の会館として建てたのだ。その事業はそうとうに儲かったらしく、二号店、三号店と建てた。そして畑を売り、会館運営を生業とした。

 高度成長期が終わっても社長が生きている間は順調だったものの、その社長が亡くなり息子の代になると経営が怪しくなり、二号店、三号店は売った。最初に建てた駅裏の会館が最も古い事もあって最初に売ろうとしたが買い手が付かなかったのだ。そしてついに倒産。裁判所による競売物件となったが売れず、嘘のような安値で買ったのがH物産だった。地元E市の資産家たちが触手を伸ばさなかった物件を、O町の小豆屋が買ったのだ。

 だが建築業者たちは知っていた。駅裏に昭和40年代に建てた会館は、建て直しどころか外壁の修理すら拒むナニかが棲みついているのを。というのも会館経営者の先代社長が生きていた時ーーーまだ経営が順調だった時に駅裏の会館を一旦壊し、新しい、それこそホテルに匹敵するほどの高層会館にしようと計画し、E市の建設業者に解体から全部を任せるとの依頼があった。依頼を受けた建設業者は喜び、担当者を現地に見積もりに向かわせた。だがその担当者は敷地内に入った途端に意識を失い搬送された。そしてそれが三度続き、建設業者は馴染の宮司に祓いを頼んだ。

 だがその宮司は敷地前まで行ったものの祓いをすることもなく戻ってしまった。自分の手に負えるものではないと。

 宮司は言った。鬼門と裏鬼門が或る時期から塞がれていて、ナニかがアノ建物に封じられた格好で出られずに、長い年月棲み続けている。更にやっかいなのが、その鬼門封じを、まるで原生林のような木々で隠してしまっている。棲み続けてるナニかはずっと見ている。己に危害を加える者を許さじと、ずっと見ている。よほどの霊力でもない限り、近寄ることすらできない。まるで結界が張られてるようだ。



「それって……ウワサというか、言葉のせいじゃない?」




【第10章 スナックのママ】


 そのスナックは他に客がいないせいで暇だったのだろう、カウンターの中にいたもう一人の女性ーーーママが会話に加わってきた。


「ウワサってさ~結局は言葉でしょ。言葉ってね、口から発せられると力を持つものだよ。それを紙に書くともっと力を持つけど、書かなくたって、繰り返し、繰り返し、誰かが同じような言葉を口にするうちに、それが根も葉もないウワサ話であったとしても現実に影響を及ぼすものなの。呪いも同じ。呪いの最たるものって名前だって知ってた? 呪いってさ、相手になんらかの制限を掛けることなんだよね。人が生まれた時って、ただの赤ん坊なんだけど、名前を付けるじゃない。そしてその赤ん坊に、みんなで繰り返し繰り返し……太郎、太郎、太郎、太郎って言ってるうちに、ただの赤ん坊が太郎になる。そう、お前は太郎という名前だと制限を掛けちゃうの。それによって赤ん坊は太郎以外の何者でもなくる。ウワサっていうのも同じだと思わない?」


 名前が呪い……考えたことも無かったが………一理ある。ウワサか………同じ内容の話が多少オーバーになったとしても繰り返されるのは呪いと同じかもしれない。



「E市の駅裏のあの建物でしょ? うん、あたしも知ってるし、前々から何かイヤ~な感じのする建物だった。あの建物に邪悪なナニかが籠ってるって言うなら、あたしは納得だね。でもさ~最初は三角の土地の買い手が付かなかったってことだよね。それって使い勝手が悪い形だからだと思う。どんな上物建てたってデットスペースが出来ちゃうし、それに駅裏だから値段が高い。そりゃ~買い手がつかないよ。だけどその内におかしなウワサが立った。三角の土地は良くないとかなんとか。そして止めがどっかの基地外が遺体を燃やした事件。ウワサが更なるウワサを呼ぶわ。っで誰もが嫌う土地になった。でもその基地外って呼ばれたんだろうね。だってさ~、別の場所で女の人をレイプして殺したはずだよ。なのになんでわざわざあそこに持って来て焼く? 駅裏だよ。僕が焼いてるとこ見つけてくださいってもんでしょ。どんなにバカでも河川敷とか、人のいないとこで焼くんじゃないの? 呼ばれたとしか思えない。多くの人が長年に渡ってウワサを口にしたおかしな土地がおかしな力を持っちゃって、頭がおかしいヤツを呼んだ。そんでおかしな土地は大バーゲン。買ったのはそんなウワサなんか知らない他所の町の農家。結婚式なんかをする開館を建てた。高度成長期ってこともあってそこを使う人も多かったんだろうね。でもE市に住む人達は、あんな会館で結婚式なんか挙げたらロクな目に合わないとウワサした。そんなウワサは会館の経営者の耳にも入るでしょ。経営者はウワサを消そうと躍起になっった挙句に、誰の浅知恵なのか知らないけど鬼門を封じてしまった。鬼門ってね~封じることが出来ないから鬼門なんだよ。それを下手に戦ったり、訳も知らずに封じちゃったら後々大変なことになる。案の定、更なる不幸を呼び込んじゃって倒産。人はよりいっそうウワサを口にするってもんでしょ。ウワサって面白おかしく口にするけど、思いもよらない事態を招くよ。噂をすれば影を差す、って諺あるでしょ。あれって、人のウワサをするのもほどほどにしなさい、って戒めの言葉でもあるけど、現実になるって意味もあるんだよ。外国にも似たような諺があってね、誰かの噂をするとその人は必ず現れる。だから悪魔の話はするな、っていうの」





【第11章 エピローグ】


 日曜日の朝、俺は実家で目を覚まし、そして携帯電話に登録されいた桜井麻美の電話番号とアドレスを消去した。

 桜井麻美はきっと生きてはいない。


 一昨日の金曜にH物産の旧社屋に行った時、建物を表から見た後に裏手に回り、原生林のような木々に驚いた俺は、直ぐにそこを離れようとした。だが、もう一度その建物の表側に回り込んだ。そして見上げた。すると目の端に映ったのだ。3階の窓の人影が。


 俺はその人影に気づいていない風を装い、ゆっくりと別の方に視線を移動させた。そして車に乗り込み、ゆっくりと、ことさらゆっくりと車を走らせ、決して振り返らなかった。バックミラーも見なかった。



 あの窓は、建物の西南、裏鬼門に位置する窓。


 H物産は、旧社屋の電話番号を新社屋へは持っていかなかった。そんなこともあって俺が旧社屋の電話番号に電話をする事はない。


 桜井麻美と喋る事はもう二度とない。

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[良い点] 記憶になく、ウワサのみで実像が描かれていく同級生。いかにも地元就職した地方都市っぽい人間関係の狭さ、そして提示される情報量の多さ……じわじわと外堀を埋められていくような不気味さを感じました…
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