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雨の日の龍と私

作者: まこと

 雨の日に、一匹の龍に出会った。

 雨に打たれて、鱗の一つ一つからまるで宝石のような雫がぽたぽたと輝きながら落ちている。鱗の色が反射して、青いような緑色のような、そんな雫が落ちている。


「傘いりますか?」


 試しに聞いてみた。


「私の手は物を掴めない。」


「それもそうですね。」


 龍はゆっくりと、その首を持たれながら私を上目遣いでじっと見てくる。その度に、しゃりっと音を立てている。鈴の音でも聞いているかのようだ。


「雨が降ったらどうするんですか?」


「どうしようもない。ただ、雨に打たれるだけだ。」


「雨は好きですか?」


「好きも嫌いもない。ただ、雨が降ってきた、と思うだけだ。」


「雨に濡れると寒くないんですか?」


「濡れている、と感じるだけだ。」


「ふーん。」


 その割には、さっきから水をよく払っている。


「本当は濡れるの嫌なんじゃないですか? さっきからずっと水を払ってるし。」


 龍はキョトンとした顔で私を見る。


「そうなのか?」


「そうですよ。だから傘をかそうかなって思ったんです。」


 龍はしばらく黙った。そして、低い声で笑いだした


「長い間生きていても、自分のことでさえ知らないことはあるのだな。」


「1つ知れて良かったですね。」


「私が雨を好んでないことが分かったようだ。」


 そして大きく身震いして、鱗に着いている水滴を払った。私がびしょ濡れになった。

 龍は、もう一度身震いした。また濡れた。

 私がムッとしているのに気づかないまま、龍は話した。


「濡れないようにしたいのに、私の手は傘を持てない。濡れたくない、という欲望を持ってしまった故に自分の欠陥に気づいてしまった。」


 そして、空を見上げた。


「知らなくてもいいことは、知らないままでもいいのかもしれない。」


 そう言って空へ飛び立っていった。

 龍のいたところは、龍の熱気で雨の日とは思えないほど土が乾燥していた。

 自分では気づけなかったのは可哀想だな。龍は傘なんかなくても、自分の体温で鱗を乾かせるのかもしれない。それに気づくのはいつなのだろう。傘よりもっと身近で楽な方法があるのにな。


 そう思いながら、ビシャビシャになって重くなった全身を引き摺りながら、家へ帰った。

 私にも龍の力があればな。家の傘立てに傘を置きながらそう思った。


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