第7話 痛い系な違反者
アンドレーが、ポムを無視して、エディタに話かけた。
「そちらのパーティーには入るな。我のハーレムに入れ」
エディタは、なんだか不思議な気分だった。
二人の美男子が、自分のことを取り合いっこしてくれている。
まんざらでもなさそうだった。
だが、彼女は、この町に来た目的を思い出した。
(そうだ。わたしはお金を稼いで、村のみんなを助けるんだ)
彼女には弟がいた。
貧しいからいつも腹を空かせていた。
両親は体が弱っていて、うまく稼げなかった。
(私が頑張らなきゃ!)
弟の、空腹を我慢しているときの作り笑いを思い出すと、胸が痛んだ。
どちらの男についていくべきか、考えなくてもわかった。
「ごめんさない」
エディタはアンドレーに頭を下げた。
刹那、ポムがニッと笑った。
「わたしは、冒険者になってお金を稼いで家族を助けたいんです!
ハーレムに入って自分だけ楽しむ気持ちはありません!」
ポムは、期待した。
アンドレーがフラレたショックで、泣きそうな顔をするのを。
彼は、そんな顔を見るのが大好きなのだ。
(さぁ、はやく泣け。フラレた男の惨めなすすり泣きを聞かせてくれ)
だが、彼は、目の前の違反者が、「不名誉」スキルを持っていることを知らなかった。
アンドレーは性欲狂いだが、フラれることへの恐怖とは無縁なのだ。
彼は、エディタからノーを突きつけられても、不退転のメンタリティーで微動だにしなかった。
それどころか、こんなことをぬけぬけと言った。
「家族を悲しませないためにも、そちらのパーティーには入るな。我のハーレムに入れ」
そばで話を聞いていた格闘家の冒険者が、癇癪を起こしたように怒鳴った。
「テメェー! いい加減にしやがれッ」
拳を構えた。
岩のように大きな拳だ。
「まてまて」
格闘家とパーティーを組んでいる魔道士の男が諌めた。
「人に向けてスキルを使っちまったら、お前まで違反者になっちまうだろ」
格闘家が拳をひっこめた。
「そうだったな。この拳はこんなクズを潰すためにあるんじゃなかった」
荒事は回避されたが、ギルドの空気は最悪だ。
アンドレーの3人娘が、窓から中を覗き込んでいる。
青ざめた顔をしながら、おおごとにならないようにお祈りしていた。
エディタは、事態を収めるために動いた。
「とにかく、あなたのハーレムには入りません」
アンドレーに告げると、
「ポムさん、行きましょ」
といって、ポムを外に連れ出した。
ギルドの受付嬢がアンドレーの元にやってきて何かを言おうとした。
違反者をギルドから追い出さねばならない。
だが、アンドレーは、彼女が口を開くよりも前に、
「騒がせてすまなかった」
と言って、玄関から外にでた。
と、彼がギルドの敷居をまたいだ瞬間だった。
待ち伏せしていたポムがアンドレーの胸ぐらを掴んで、壁にドンと押し付けた。
「おいテメェ。図に乗ってんじゃねぇぞ。
これ以上俺の女に手を出すとタダじゃ済まさねぇぞ」
アンドレーは毅然として言い返す。
「いつから《《俺の女》》になった?」
常識はずれなことをしていながら、まったく悪びれる様子のないアンドレーに、ポムは心底腹が立った。
拳を握った。
(ああ、喧嘩になる……)
血を見たくないエディタが、目を手でふさいだ。
その時であった。
「こら、ポム。よさないか!」
誰かの声が聞こえた。