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第22話 痛い系なペロペロ奉仕

 風魔法ウィンディーマジカのトルネード・ブローが巻き上げた荒野の砂が、アンドレーを襲った。


 目潰し攻撃だ。


 アンドレーはまともに喰らわぬように顔を背けた。


 時空魔法タイム・トリックのスピードドライブが、盗賊シーフの素早さをさらに引き上げた。


 スピードモンスターに化けた盗賊シーフが、「スラッシュライナー」のナイフスキルでアンドレーを攻撃した。


 さすがのアンドレーも、盗賊シーフの超光速突進斬撃を、目で追うことができなかった。


 アンドレーの右太ももから、血潮が吹きだした。


 アンドレーが跪き、うつむいた。


 2人の娘が、泣きそうになった。


 ポムが勝ち誇ったように言った。


「レイヤードスキルの罪は、さすがに父さんの力でも揉み消せないらしいから使うわにはいかない。


 だけど、仲間同士でスキルを連携させれば、どうってことない。


 おいアンドレー、顔をあげろ。


 そして、余裕の表情を見せてくれ」 


 アンドレーは、顔を上げなかった。


 ポムは嬉しそうだ。


「おいおいどうした?


 おまえは涅槃を得て無敵になったんだろ?


 だったらこれしきの攻撃なんかに屈したりしないよなぁ?」


 アンドレーは動かない。

  

 不審に思ったザッツが、アンドレーのそばによって様子をたしかめた。


 アンドレーの顔の下にあたる地面が、少し濡れていた。


 雨粒が数滴滴ったような黒い模様が浮かんでいた。


 その模様は、アンドレーの目からこぼれた涙のあとであった。


 ザッツが大声で叫んだ。


「コイツ、泣いてるぞッ!」


 みんな、びっくりしていた。


 まさかの展開だ。


 不退転の金剛心を得たと思われた男が、膝に傷を負ったことで泣き出してしまったのだ。


 ポムもさすがに驚いていた。


 が、だんだんとニヤニヤと笑い出し、やがては大笑いになった。


「おいお前! 涅槃はどこいった?


 無敵の涅槃はどこいったんだ?」


 すると、アンドレーが、地面に額をこすりつけて、土下座の恰好をした。


 さらに大声でこんなことを叫んだ。


「ごめんさない!


 なんでもするから許してください!


 もうこれ以上僕を傷つけないでください!」


 ザッツが、冷たい目線で言った。


「ほう、なんでもするのか?」


「はいッ! なんでもします。


 靴を舐めろと言われれば、喜んでやります」


 4人の男が、嬉しそうに互の目を見合わせた。


 ザッツが言う。


「なら舐めてみろよ」


「はいッ喜んで!」


 アンドレーは、犬みたいな四つん這いの恰好で、ザッツが差し出した足をペロペロし始めた。


 泥だらけの汚い靴だったが、なんの躊躇もなくペロペロした。


 ザッツの靴を綺麗にすると、アンドレーは、犬の恰好のままで、マルコの足元に駆け寄った。


 そして、マルコの靴もペロペロし始めた。


 その様が、余裕たっぷりだったさっきまでの雰囲気とあまりにもかけ離れ、あまりにも滑稽だったから、ポムは、腹の痛みをこらえながら笑った。


「おい、お前、俺を殺す気か?


 腹がいてぇ、腹がいてぇよ」 


 エディタが、ショッキングな顔をしていた。


 王子と信じたアンドレーの無様な格好を見て、いたたまれなくなった。


 そんなエディタをジアーナが励ました。


 猿轡でしゃべれなかったが、目で「大丈夫よ」と合図を送っていた。


 アンドレーは、マルコの靴を綺麗にすると、スコットにも同じことをした。


 アンドレーの口は泥だらけだった。


 口の中がジャリジャリしていた。


 と、3人の靴を綺麗にしたアンドレーは、急に立ち上がった。


 とつぜん犬の真似をやめたのだ。


「おい下僕!


 俺のがまだだぞ」


 ポムが王様のように言った。


 アンドレーはそれを無視し、最初の立ち位置に戻った。


 そして、ポムに毅然として言った。


「自分の靴ぐらい自分で綺麗にしろ」


 アンドレーの態度の豹変に、一同が面食らった。


 唯一ジアーナだけが驚いていなかった。


 どうやら彼女は、アンドレーの秘策に気づいているようだ。

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