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第13話 痛い系な暴力

 ポムは、ナイフを床に放り投げて、手をあげた。


 降伏のポーズだ。


 他の男たちもポムの真似をした。


 男たち全員が白旗を上げたのだ。


 ただ、表情には一ミリの悔しさも感じられなかった。


 不名誉な降伏のバンザイをしながら、目だけはギラギラと光っている。


 何かを企んでいるのが目に見えてわかった。


 アンドレーは、エディタの手枷を、剣術士のスキル・斬鉄ざんてつで切り裂いた。

 

 剣と手枷の切り口が、蛍光塗料を塗ったみたいに青く光っていた。


 これは、物理攻撃スキルが決まったときに見られる光学現象だ。


 エネルギーの波動が、波長の長さに応じた色で発光する。


 エディタはヘナヘナとアンドレーに倒れ掛かった。


 彼女は体に力が入らなかった。


 それほど、彼女が味わっていた恐怖は凄まじかった。


 アンドレーが、エディタを連れて外に出ようとした。


 すると、ポムが悪巧みをするような目つきで言った。


「腰抜け違反野郎。

 その淫女ビッチを泣かせた男が目の前にいるぞ。

 野放しにするのか?」


 アンドレーは無視した。


 当然。


 彼には「不名誉」スキルがある。


 ポムの嘲笑などものの数に入らない。


 性欲の対象であるエディタを助けだせたのなら、それでコンプリートだ。


 ポムは、アンドレーには挑発が効かないと悟ると、今度はエディタを嘲った。


「貧村のお花畑女はチョロイなぁ~。

 スキルをドロップしてくれるならどんな男にでもついていくんだから。

 さっきのお前のセリフ、マジで気持ち悪かったぜ。

 吐きそうだ。

 おえ~!」


 ポムが吐く真似をすると、他の男たちも便乗した。


 そうやって、エディタをひどく侮辱した。

 

 エディタは、疲れきっていたから、その場でのリアクションは薄かった。


 だが、あとからじわりじわりと心をえぐる残酷な言葉の暴力であることに違いなかった。


 アンドレーが立ち止まった。


 ポムはニヤリとした。


(よし。挑発に乗ったな。

 いいぞ。振り返れ。

 こっちま戻ってこい。

 そして俺を思いっきりぶん殴れ!

 それで貴様はTHE・ENDだ!)


 アンドレーは、エディタに「立てるか」とたずねた。


 エディタは「はい」と答えた。


 エディタの体からアンドレーの手が離れた。


 そこからさきは、まるでポムの催眠術にかかったかのようであった。


 アンドレーは、ポムの注文通りにくるりと振り返った。


 そして、ポムのところまで歩いて戻ってきた。


(そうだ。いいぞ、そのまま俺を殴れ!)


 アンドレーが拳を握った。


 拳が青く光った。


拳舞嵐けんぶらん!」


 格闘家ファイターのスキル名を叫んだ。


 アンドレーの容赦なき違反行為!

 

 スキルパワーの波動で青く光った拳が、動力機関エンジンのピストンとなり、ポムの大腸を、小腸を、胃袋、膵臓すいぞう脾臓肝臓ひぞうかんぞうと、臓腑という臓腑を滅多打ちにした。


 最後に、渾身の右ストレートを、奴の忌々しい顔面に打ち込んだ。全弾命中のクリティカルヒットであった。

 

 のけぞって吹っ飛んだポムは、派手に吐血した。

 

 きっと、はらわたの中は、修復不能なぐらいにめちゃくちゃになっているに違いない。

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