第12話 痛い系に参上!
エディタが目を閉じた瞬間……!
縦一文字に、切り込みが入った。
傷口が、だんだんと赤く染まっていった。
しばらくすると、傷口の隙間から、赤くドロドロしたものが滲み出し、やがてトロリと滴りはじめた。
だが、その傷が生じた場所は、エディタの腹ではなかった。
赤く滴ったものは、エディタの血ではなかった。
傷ができた場所は、恐ろしき拷問部屋を堅く閉ざしていた鉄扉だ。
彼女を絶望させた、あの重くて頑丈な鉄扉に、縦にパックリと傷が開いていたのだ。
「なんだ? 何が起きた?」
中の男たちがめいめいにザワついた。
鉄扉の傷口が、まるでバーナーで炙られでもするように、メラメラと赤く光り始めた。
やがて、扉全体が濡れた煎餅みたいになって、ヘニャリと折れ曲がってしまった。
扉はもう扉ではなくなり、床に寝そべった得体のしれない鉄くずになった。
エディタの目が光った。
彼女は、地獄で仏を見た人間の目になっていた。
ほぼ無意識に叫んだ。
「助けてッ!」
彼女の視線の先にはあいつがいた。
エディタのことを執拗につけまわしていた変態。
女に貢がせたスキルを性欲のためだけに悪用する違反者。
涅槃を得て転生してから、女漁りしかやってこなかった元僧侶。
アンドレー。
やつが、崩れた扉の向こうに立っていた。
彼の手には剣がある。その剣が、夕陽のように真っ赤に燃えていた。
「誰だッ」
男たちが叫んだ。
ポムだけは、相手の正体を知っていた。
「いらっしゃい」
ポムは、それほど焦っていなかった。
「まぁ上がれよ」
彼は余裕の表情でアンドレーを中に招いた。
アンドレーは、躊躇なく中に入った。
壁に磔られたエディタを見て一言。
「うむ、悪くないな。
我もこういうプレイには興味があった」
アンドレーは、エディタの前にたち、むき出しの乳房をマジマジと観察した。
「いい形じゃ」
彼はエディタの顎をクイッとあげて、キスをした。
「やはりおぬしは、我のハーレムに入るべきじゃ」
そう言うと、後ろを振り返り、ポムたちを睨みつけた。
ポムが言った。
「火炎魔法剣か」
「左用」
鉄扉を斬り破ったスキルをポムが言い当てた。
魔法剣士の上級スキル・火炎魔法剣。
火炎魔法を封じ込めた剣で斬られると、傷口が灼熱の炎に焼かれる。
鉄扉が溶け崩れたのも、他ならぬこの火炎魔法剣の力によるものであった。
もちろん、こんな危険な技は、町中使用禁止だ。
彼は、またしても違反を重ねた。
だが、彼にそんなことは関係ない。
「不食」「不財」「不名誉」「不眠」の転生聖者。
彼に関係あるのは性欲のみ。
エディタのみ。
「違反が好きな奴だな」
ポムが言った。
「好きというのとは違う。
ただ単に、冒険者としてのルールに用事がないだけじゃ」
アンドレーが答えるとポムが笑った。
「冒険者として? フン、お前は人としても結構やべぇぞ」
「貴様には劣るから心配しておらん」
アンドレーは淡々と返す。
「どうする? エディタを助けるために違反を重ねるか?」
挑発するポムには余裕がある。
高火力スキルを目の前で見せつけられても微動だにしていない。
もしかしたら彼は、アンドレーに匹敵するチートスキルを持っているのかもしれない。
あるいは、スキルとは別の形のチートを隠し持っているのかもしれない。
でなければ、彼が、この場でこんな態度を取れる理由を説明できない。




