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第10話 痛い系なプレイ

 エディタは、どうして自分がぶたれたのかわからなかった。


 この現実を、この頬の痛みを、この胸の悲鳴を、どう受け止めていいのかわからなかった。


 頬を押さえるエディタの周りを、3人の男が飛び回った。


 さかりのついた猿のように。


 ポムが、懐からナイフを抜いた。


 刃をベロリと舐めた。


 魔獣のような目をしていた。 


 彼は、エディタの胸ぐらを乱暴につかみ、彼女のローブの胸元をナイフで切り裂いた。


 エディタの悲鳴が迸る。


 彼女は死に物狂いで魔獣ポムを振り払い、一目散、出口に駆け込んだ。


 そこで、彼女はピタリと止まった。


 彼女は忘れていなかった。さっきこの扉をあけようとして、ビクともしなかったことを。


 この鉄扉は自力では開けられない。


 すでに実証済みなのだ。


 彼女の手から力が抜けた。


 背後からポムの声が聞こえた。


「どうした? 逃げないのか?」 


 その声は、さっきまでの彼の声ではなかった。


 噴水広場で変質者から守ってくれた、あの王子様の声ではなかった。


 ああ、本物の変質者はこちらの方だった!


「そちらのパーティーには入るな」と警告してくれた彼のほうがまともだった。


 だが、いまさらをそれを悟ってもあとの祭りだ。


 ポムがエディタの髪を掴んで、そのまま床に引き倒した。


 そして、非情にも、彼女の可愛い顔面を、思い切り蹴った。


 彼女の白い肌に、真っ赤な糸がひかれた。


 鼻血だ。


 恐怖のために萎縮している彼女を、3人の男が担いで、壁に立てかけた。


 その場所には、あの手枷がぶら下がっていた。


 男たちは、手枷で彼女の両手を拘束した。


 エディタはバンザイの恰好ではりつけにされた。


 彼女の白い顔に、一筋が鼻血がよく映えていた。


 彼女は、寒さに耐える子猫のように、ビクビクと震えていた。


 彼女は服を剥ぎ取られ、丸裸にされた。


 硬い岩の壁に、やわらかくてすべっこい肉塊が、バンザイの恰好でもたれかかっている。


 ポムは、この部屋は拷問部屋として使われて《《いた》》と言ったが、とんでもない。


 現在進行形である。


「やめて……」


 無駄とわかってもそれ以外に出てくる言葉はなかった。


 ポムは、指でエディタの血をぬぐって、ペロリと舐めた。


 彼女はようやく悟った。


 目の前にいる奴は、女をいたぶって興奮する、残虐な性癖を持った魔獣だ。


 ただのレイプでは済まない。そう思った。


 もしかしたら、命に関わるかもしれない。


 二度とおうちに帰れないかもしれない。


 それを覚悟した。


 ポムが、牙を光らせながら、エディタの髪を引っ張った。


「痛いッ! やめてッ!」 


 叫ぶほどにポムの顔色が良くなっていった。


 奴は、悲鳴を聞くのが目的なのだ。


 もっともっと激しい、おぞましい悲鳴が聞きたいのだ!


 髪を離すと、今度は往復ビンタだ。


 エディタは、気を失いそうになった。


 彼女は、耳の中で、母の声を聞いていた。


「知らない人についていっちゃダメよ」


 幼いころからずっと言われてきたこと。


 その言葉の裏側に、どれほど恐ろしい意味が含まれていたのか、いまさらながら思い知って、絶望した。

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