八 別人格
日曜日の9時頃、私は検察へ移動させられた。
担当の検察官は一通り私の供述を聞いた。
私はミクもミクの義父さんも殺していないと主張しても軽く
流されているようだった。
私は精神病院に連れて行かれ簡易鑑定を受けて精神病と認定された。
私は普通だと主張したが、騒げば騒ぐほど精神病と思われそうで黙って
病院に入院した。
つまり私が二人を殺したが、精神病で責任能力がなく不起訴になった。
何か可笑しい? 私が殺していない事は事実だ、じゃ誰が? 私を罠に?
考えても分からなかった。
病院は個室で大人しくしていれば、規則正しい生活だがある程度自由だった。
でもミクとの生活が思い出され、ミクが顔をクシャクシャにして涙を流して
いた姿が何度も浮かびその度に胸が苦しくなった。
それは突然やって来た、検察に移動してから十日経った頃、頭の中から
声が聞こえて来た。
(私だ、黒山翔だ)
(知らない、そんな名前は?)
(そんなことは無い、少しは気が付いていたのだろう?)
(名前は聞いた事があるが誰だか分らない?)
(もう、いい加減認めろよ! お前の前の人格を、お前は子供の頃は黒山翔
と言う名前だった)
(うるさい! ・・・・その名前と人格は捨てた)
(お前が嫌いな父親そっくりな性格だからな、でも違う人格になっても
俺の人格、つまり翔の人格は残っていた。そしてお前と俺は細い糸のような
物で繋がっていた。そして俺はお前の気持ちを感じた。俺は一週間に数時間
お前の体を支配できる、と言うより元に戻れたが正解かな?)
(そんな事はあり得ない!)
(お前の気が付かない内に人格が入れ換わるのだ、その時間は日曜日の
午前一時から七時までだ)
(何が言いたい!)
(そう、私が二人を殺した。父親で血の繋がりがなくても子供と性の関係
があった、そんな事をするのは人間ではない動物と同じだ、抹殺して当然だ!
あの娘は男と何人も関係を持ち、快楽だけを追っている。汚らわしい。
だから、天罰を加えた)
ミクの殺害現場の光景が頭の中に写された。
そこには胸や腹を何か所も刺され、血だらけで目を剥いて苦しそうな顔を
しているミクの遺体が写っていた。
私は気が狂いそうだった。
(私がミクを殺した、私の中にいる別人格がミクを殺した!)
「私はミクとミクの義父さんを殺した! 死刑にしてくれ」と騒いだが、
職員が駆け付け鎮静剤を打たれ独房に入れられた。
ミクが顔をクシャクシャにして涙を流していた姿が何回も現れ、
私は罪を償うことにした。
でも自殺するにしても何もない、金属も紐も何もない。私は寝着の上着を
細かく千切った。
力を入れて千切ったので爪が剥がれ血が出たが、ミクの痛さから比べれば
何ともないと思えた。
それを縛り繋げて紐を作ったが血で真っ赤に染まっていた。
それを少し低いドアのノブに掛け首を吊ったが、直ぐに閉まらず長く苦しんだが、
ミクが待っていると思い、ミクの笑顔を思い浮かべて私の意識は消えて行った。
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