七 逮捕された
今日は朝から雨が降り現場仕事は中止になり、10時から施工図を描く
予定だった。
呼び鈴がなり、玄関のドアを開けるとこの前に尋ねて来た刑事二人と制服
を着た数人の男達がいた。
初老の刑事が一枚の紙を目の前に掲げて「9月3日午前8時26分、○○正人、
○○静雄並びに○○未来殺害容疑で逮捕する」と読み上げた。
そして若い刑事に手錠を掛けられた。
私は驚いて「私は殺していない! 何故私がミクを殺すのですか?」と叫んだ
が信じて貰えないようだった。
私は椅子に座らせられ、制服の男達が部屋の中に入って来て部屋の中など
色々と捜し始めた。
暫くすると、「洗面台の下の収納庫にありました」と透明なビニールの袋に
入れたサバイバルナイフを鑑識の男がって持ってきた。
「これに見覚えは無いか?」
「ありません」
「嘘を言うな! これが凶器だ!」と言われても本当に始めて見る物だった。
また報告があり浴層で血痕が発見され、脱衣室の物入れから犯行時に持って
いた毛布と同じものがあったと聞かされ、私には全て記憶がなかった。
これから本署に連れて行くと言われた。
「会社に連絡しないと、今日は施工図の仕事があるから、工事が遅れると
不味いです」
「お前、殺人容疑で逮捕されているのに、良くそんな事を考えられるな!」
若い刑事は憮然とした顔で言い放し私を立ち上がらせた。
拘留期間は二日間と何かで知っていたので、今日は金曜日だから日曜日の
朝には帰って来られると考えた。
本署に連れて行かれ、早速取り調べが始まった。
今日来た刑事二人が担当になった。
逮捕の証拠になったと画像を見せられた。
これは殺人現場のすぐそばの外灯に付けられた川の増水を監視するカメラ
映像だと説明された。
義父が襲われた日の朝の五時半から再生した。
川を主に写しているようで散歩道の半分しか写っていなかった。
雨が降っていたので夏でも薄暗かった。
四十分頃に川添に犬が見えてきた、小さい犬で芝犬だった。
「正人、ミクの家の犬で芝犬だ、犬で義父さんだと分かっていただろう!」
と初老の刑事は画像を止めて聞いてきた。
「いいえ、義父さんの事件の後でミクに犬を飼っている事を初めて聞きました」
「嘘を言っても直ぐ分かる!白状しろ!」と画像を再生させた。
引っ張られるように雨カッパを着た中年の男が現れた。多分義父さんだろう?
犬と男が画面から消えてから直ぐに雨カッパを着た若い男が写った。
手に古い毛布を持って、毛布から刃先が出ていた。刃先を見ると
サバイバルナイフだった。犯行に使われた凶器と同じだと言われた。
男は画面から消えて直ぐ引き返して来た。
毛布が血で赤く染まっていて毛布は返り血を防ぐ物だと説明されたが
全く覚えがない。
カッパを被っていたので顔は見えなかった。
次はミクが襲われた日の朝の五時半から再生した。
晴天で朝から暑そうだった。
四十分頃、画面の左端にリードロープが見え、ミクらしい女性の体の半分が写った。
暫くして黒い影のようなものが写った、右足の腰までの部分が見えて、だらり
と垂れた手には毛布とナイフが写っていたが、顔が見えなかった。
また引き返してきたが、足元しか写っていなかった。
これで私を犯人と決め付けた? と思ったが、少し間が開き若い男がカメラ
を下から覗きこんでいる画像が写った。
戻って来たのだ。
カメラの存在に驚いているようだった。
日差しを遮るように額に揚げた手に血が付いたサバイバルナイフがみえた。
「これはお前だろう? ナイフも凶器と一致する」
確かに私に似ているが、帽子を被り目も手で半分ほど覆いはっきり
分からなかった。
「全く覚えが無いので私に似ている人だ」と言うと、
「ふざけるな!」と怒鳴られた。
血痕もミクと血液型が同じで、毛布にも付いていたと説明を受けたが、
「私は殺していない!」と叫び続けた。
ドアをノックする音がして他の刑事が入って来て初老の刑事に話をした。
「国会議員の黒山氏の依頼で弁護士と精神科医が来た」と聞いて刑事二人は
部屋から廊下に出ていった。
次の日は土曜日で朝から尋問が始まった。
1人増えていた。この中年の人は? でも刑事ではなさそうだ。
ミクとの事を色々聞いてきた。初めて会ったのは何処か? 彼女の浮気、
義父さんとの事、美鈴さんとか信二さんの事を聞いてきた。
そして、私の生い立ち、それから黒山翔を知っているか? と聞かれたがその
名前は過去に聞いた事があったが分からなかった。
今更色々聞いてどうなるのか? 土曜日の午前中で尋問は終わり、次は日曜日
の午前一時からと言われた。
何でそんな時間か分らなかったが、今まで碌に寝ていないのでその時間まで
寝ようと思った。
一人用の留置所に戻されベッドに横になった。
私は無実だが誰も信じてくれない。
冤罪は警察による一方的な取り調べで起こる事が身を持って分かった。
土曜日の十二時頃までは起きていたが、どういう訳か寝てしまった。
薄く意識はあったようだが、人が何人か部屋に入って来た。
そして身動きが取れなくなった。ベルトで縛りつけられているようで
金縛りだと思った。私の名前を呼ばれたが返事が出来ない状態だった。
誰かが変わりに質問に答えているようだった。
黒川・・・・と微かに聞こえた。懐かしい名前だったが顔が浮かんで来ない。
(人間ではない動物・・・・)(抹殺・・・・)(快楽だけ・・・・汚らわしい
・・・・天罰を・・・・)と聞こえて意識を失った。
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