十九 白鳥への封書
暫くして、白鳥に封書が届いた。
車のメーカーの袋で差出人は書かれていなかった。
カタログだと思い開けてみた。
中にはA4用紙を三つ折りした手紙らしき物が入っていた。
印字されていて最後に石田の名前があった。
(白鳥様、私はこの事件の全てをお話します。この前、殺害された主任監督は
私の兄です。二人兄弟で幼い時に両親が事故で亡くなりました。両親が入信して
いた今の宗教団体に引き取られ、私は精神科医の養子に、
兄は建設会社の養子になりました)
(事件の始まりは白鳥さんも調べていて分ったと思いますが、宗教団体の信者の
獲得争いからです。ミクさんの自愛教に大勢の信者を取られた宗教団体は黒岩氏
に相談しましたが、信者が離れて行くのを食い止める良い方法がなく、二人を
殺害する結論に達しました)
(この頃に正人さんを預かっている兄から度々連絡がありました。正人君が一時
凶暴になると、診察すると元に戻り始めて居ました。元とは鉄格子に監禁されて
いた時で、凶暴で手が付けられない状態の事です。その事を黒岩氏に伝え監禁
するようにと伝えましたがある日に呼び出されました)
(其処には黒岩氏、教祖、教団幹部がいました。黒岩氏は次男が出馬するから
世間体もあり、精神病院に入れる訳にはいかない。今まで通り主任監督の処で
預かって貰いたいと話した。そして私にこの先正人君はどうなるかと聞かれました。
私は正直に話しました。一生鉄格子に中で暮らす事になり、何れ精神が破壊され
発狂します。黒岩氏もそれで覚悟を決めたようでした。正人君に二人を殺害させ
精神病で入院させて、自殺させる計画を立てました)
(幸い自殺教唆は溝口氏が替わりに行ってくれました。自殺教唆で二人を訴えた
のは形式上の事でした。起訴しても却下されると分かっていました)
(計画の最初は正人君をミクさんのレストランに兄が連れて行きました。しかし
正人君はミクさんに興味を持ちませんでした。其処で私が暗示を掛けました。
信者の信二さんと美鈴さんがミクさんの浮気と義父との関係を拭きこみました。
元々その様な教義の自愛教なので嘘ではありませんでした。盗聴器は信二さんが
仕掛けて、録音テープは私が正人君のアパートに隠しました)
(兄は正人君を可愛がっていました。教団の意向に従っていましたが正人君への
罪悪感で、ある週刊誌に告発しようとしましたが、その週刊誌も宗教団体の
影があり、告発が知られ殺されてしまいました)
(黒岩氏は今の政権の中枢部にいます。公安も警察署長も自由に動かせます。直に
私も命を狙われるでしょう。そしてこのまま事実は隠ぺいされるでしょう。
この事実を誰かに知って欲しいので書きました。 石田)
手紙を読んで白鳥はおよその検討はしていたが。大きな力で抑え込まれていて
自分の力ではどうにもならないと感じた。




