十八 移動
次の日に白鳥は精神科医の溝口と一緒に石田の病院を訪ねた。
居留守を使われると思っていたが、応接室に通してくれた。
白鳥が例の宗教団体に入信しているか尋ねた。
石田は黒山先生から紹介されたので信仰心は無かったが入信したと答えた。
「正人君とミクさんとの話は全て妄想と言いましたが、私の間違いでした。
正人君とミクさんは知りあっていた。そして、正人君はミクさんに興味が無かった」
と溝口は話した。
「妄想では無い? 興味が無い? 立証出来るのですか?」石田は驚いて聞いた。
「ミクさんの義父の自愛教の信者で正人さんと親しい人が証言してくれました」
白鳥は答えた。
「ミクさんの義父が殺される数カ月前から、正人君の精神病に変化がありましたね?
翔君を呼び出したとき分りました。激しい怒りが伝わってきました。石田先生も
気が付いていた筈です」
「溝口先生の言う通りです。建設会社に世話になった時は落ち着いていました。
が此処半年前位から激しい気性が現れるようになりました。だから一週間に
一度は正人君のアパートを訪ねて治療していました」
「推測ですが、その時に正人君に暗示を掛けたのではないですか?」
いきなり結論を急ぐ余り溝口は聞いてしまった。
「暗示なんて掛けていません」石田は驚いた様子で答えた。
これ以上聞いても無駄だったが、事件前に石田が正人のアパートに出入りして
いた事は確認できた。
次の日、白鳥は署長に呼ばれた。
「何回も言わせるな!もうこの事件に関わるなと!」と怒られた。
そして捜査一課から交通課に移動させられた。
運転技術もない白鳥は書類作成専門の窓際に廻された。
ある時、白鳥に溝口から携帯で連絡があった。
精神科医の石田が自殺した。院長室で首を吊ったらしい。
(幼い頃から診察してきた翔君を治す事が出来ず、殺人事件を起こさせ自殺させて
しまった。全て私の責任です)と書かれた遺書も見つかったそうだ。
署内の捜査課は皆知らされていたが、交通課の白鳥には報告はなかった。
遺書も本人の自筆でなく印字されたものだった。が自殺と断定された。




