第九十九話 僕は予想外の人物に驚く
僕とビテックは必死でラウラを止めようとするが聞き入れてくれず、それどころか連れて行かないのであればスケルトンの魔石を貸さないとまで言い出した。
「赤竜なんてこれを逃したらもう見れ無いでしょ、それにそろそろ村に帰ろうと思っているのよ」
「えっどうしてなんだ」
同じ家で暮らしているのに、まさかラウラが帰ろうと思っていたとは全く知らなかった。
「そろそろ私の冒険は終わりにしようと思っているの、だから最後にするならこれはいい機会でしょ。私の最後の冒険は赤竜の討伐にするんだ」
ラウラはずっと自分に何が出来るのかを考えていたが、今の仕事のおかげで自信を持って村に戻る事が出来るのだそうだ。それに村で学校を作りたいという夢もあるらしい。
僕とビテックは黙ってラウラの話をずっと聞いていた。ラウラにはラウラの考えがあり、冒険者の締めくくりとしては最高の相手だと思うが、同時に簡単に決めて良い相手では決してない。
「その気持ちは本当に良く分かるんだけどな」
「良いじゃないか、俺とお前で戦いは担当して、お嬢ちゃんはそこの坊主が守ればいいんだよ」
いきなり窓が開き、僕達に向かって普通に話し掛けて来たのはトビアスで、僕達が驚きの余り動けずにいると何事も無かったかのように窓から中に入ってきた。
「えっどうして……」
「いやぁ俺も赤竜の事を耳にしてさ、一人では無理だからお前を誘おうと思ったんだよな」
その理由は分かったが、この街に到着してからトビアスとは一度も会っていないし、そもそもこの家を教えてなんかいない。
「本当に一緒に行く気ですか」
「だからそうだと言っているだろ、それにな兵士の精鋭部隊や勇者も向かっているから時間が無いぞ、冒険者が自由に動けるのは後数日しかないだろうな」
「勇者って誰が来るんですかね」
「知らん、それより早く準備しろよ、もう行こうぜ」
「ちょっと待ってよ、ビテックはそれで大丈夫なの、トビアスだよ」
「昔は恐怖でしか無かったですけど、平気になったんです」
ビテックはトビアスが冒険者になったのを知って、わざと避けていたが、ある時ビテックが組んでいたパーティがダンジョンで壊滅の危機に襲われた時に助けてくれてのがトビアスだったそうだ。
それからはたまに一緒に仕事をしたりしていたらしいが、今回はトビアスが他の仕事で別の街に行ってしまったので声を掛けられなかったそうだ。
「これで分かったかい。当事者であるビテックがあの事を水に流しているんだぞ。お前が気にしてどうするんだよ」
そうかも知れないが、殺し合いに近い事を僕達はやったのでちょっと違うように思える。だが、ビテックを見ていると僕が心が狭いだけのように思えてきた。
「ねぇビテックを助けたのは罪滅ぼしのつもりだったの? それに一緒に仕事をするなんてあんたにメリットはないじゃない」
「まぁ最初に助けたのはその気持ちがあったけどな、ただな、その後に一緒に仕事をしたのはそんな理由じゃないさ、いいかこいつの探知能力はこの俺よりも上なんだぜ」
トビアスは僕が闇に潜っても簡単に発見できる程に感知能力が優れているのに、ビテックはそれ以上なのか。
「それを教えてくれたのはトビアス何ですよ、凄く感謝しています」
何だかよく分からないが、ビテックが信頼しているようなので詮索する事は止めようと思う。これ以上の事はトビアスにとって照れ臭いと感じるかも知れない。
「それじゃあ決まりだよな、だったら出発しようか」
「いいのかな?」
「何を悩んでいるんだよ、時間が無いって言っただろ」
これ以上考えても仕方が無いように思え、急いで必要な物を魔法陣の中に入れ始めた。ラウラは二階に用事があるらしくビテックを連れて上がって行った。
そうなるとこの部屋の中は僕とトビアスだけになるのでちょっとだけ空気が重くなっている様に感じる。
「あのさぁもう警戒しないでくれるかな、俺はお前を信用しているんだぜ」
「僕は貴方の底が見えないから怖いんだよ。ラウラはともかくビテックが貴方を信用しているのかもまだ理解が出来ないんだ」
「底ねぇ、見えないのはお前も同じだろ、もう手打ちにしようじゃないか」
トビアスは笑顔になりながら右手を差し出してきた。一瞬だけ戸惑ったが僕も無理やり笑顔になってその手を握り返した。
トビアスが味方になるのであれば良いに決まっている。




