第九十八話 僕達はこの街に来てから半年が過ぎた
アリアナさんは僕の魔力が安定し、魔法の精度が判明するとドラゴンゾンビに乗って帰ってしまった。そして、最初の頃は午前中は働いていたがアールシュ様の希望により午前中も訓練をする時間となってしまっている。
ラウラはあれから次々と魔法陣を覚えていき、今では七つの魔法陣を描く事が出来るようになっている。半年で六つも覚えて書く事が出来るのだからこの仕事はラウラに合っていると思う。
「余計な事を考えるんじゃない。もっと集中したまえ」
「すみません。けど、少し休憩しませんか」
アリアナさんがいた頃とは違い、訓練がどんどん激しくなって来ている。そのおかげで剣技も大分形になってきたが、この街の道場で修行をしている子供には一度も勝てたためしがない。
「もっと食事をして体を大きくしないとな、なぁ少しは成長しているのか」
「どうですかね、体力は此処に来た頃に比べれば多少は着いたと思いますが、身長は伸びたかどうか元を測っていないので分かりません。原因は副作用だと思いますのでそう簡単にはいかないのではないでしょうか」
ここまで努力しているのにそれに見合っていない成長はやはり副作用の影響としか考えられない。それでも衰えないだけ僕にとってはまだマシだ。
僕が休憩を貰っていると、そこにビテックが久しぶりに顔を出してきた。彼はつい先日に藍玉となったのでこれで冒険者では一人前となっている。
「レーベンさん、訓練中に申し訳ありませんが。訓練が終わりましたらお時間を頂けますか」
「いいよ、ただもう少し時間が掛かるから家で待っているかい」
「いや、今すぐ話しなさい。わざわざここに来たのだからな」
最近のアールシュ様は僕に対しては少し怖いが、僕以外にはいつも優しい。
「大したことでは無いのですが、魔獣の討伐にレーベンさんの力を借りたいのです」
「レーベンの力を借りなくてはならん魔獣などこの辺りにはいないはずだが」
「いえっそれが現れたんです」
ビテックはせきを切ったように話し出し、最新のギルドの情報でこの街から一日をかけて南に行った山中に赤竜がすみついていて、それいくつもの集落を襲ってしまったそうだ。
「そんな事態なら兵士達かそれこそ勇者が動くんじゃないか」
「それがですね……」
赤竜の討伐が出来る程の兵士や、各地に行ってしまっている勇者が到着するにはまだ時間が掛かるそうなので冒険者が今がチャンスと向かっているそうだ。
「怖くないのかな、だったらビテックも何処かのパーティに入ればいいじゃないか、もう実績があるのだから入れて貰えるだろ」
この街に赤竜が向かってくるのであれば討伐に参加しても良いが、わざわざ山になど行きたくはない。平地ならいいが山を登るなど無理に決まっている。
「レーベンさんにとっていい話だと思いませんか」
「んっどういう事だ」
「そうか、君が言いたい事が分かったぞ、レーベンの名前を売るつもりなんだな」
「その通りですアールシュ様。冒険者でも兵士でもないレーベンさんは知名度が皆無ですからね、それなのにいきなり勇者の指輪を引き継いだら不満が出るかも知れないじゃないですか。赤竜は良い実績になると思います」
ビテックはラウラから僕が勇者候補だと聞いてこの話を持ってきたのだろう。僕が勇者になりたいと思っているに違いない。
「あのさぁ、赤竜って強敵だろ、万全な状態でもどうか分からないのに山を歩いて体力を削りながら戦うなんて無理だな」
「いや、頑張って倒してこい。お前なら赤竜程度なら余裕で倒せるさ、儂は此処から応援してやるからな」
アールシュ様は勝手に決めているので僕の気分はどん底にまで落ちていくが、何故か話を持ってきたビテックも茫然としている。
「あの、アールシュ様はいかれないのですか」
「儂はこの街の領主だぞ、どれぐらいで戻って来れるか分からん討伐に行ける訳無いだろうが」
「ちょっと二人では……野営に見張りも大変ですし……」
ビテックは元勇者であるアールシュ様も一緒に行ってくれると思っていたらしが、そんなのは無理に決まっている。浅はかな考えでこんな話を持ってくるからこっちはいい迷惑だ。
全てはビテックのせいでこんな羽目になってしまったが、兄貴代わりの僕としては面倒を見なければいけないだろう。直ぐに準備に取り掛からなくてはいけないのでこの日の訓練は終わりにして貰った。
「余計な事を言ってしまいすみませんでした。まさかレーベンさんの師匠でもあるアールシュ様がいかないとは思いませんでした」
「あの人は領主なんだよ、せめてそこを考えて話してくれよ」
「すみません……」
◇
二人で討伐に向かうのは無謀なのでラウラにスケルトンの魔石を借りに行くと、予想もしなかった答えが返ってきた。
「私もいこうかな、竜なんて見たことないしね」
「ちょっと待てよ、危険なんだぞ、自分の身は自分で守れるのか、僕達にはそんな余裕はないかも知れないぞ」
「大丈夫よ、私は冒険者なんだから」
そうなんだけどさ、ラウラが自分の身を守れるほど実力があるわけないじゃないか、そうなると僕が守らなくちゃいけないよな……あ~面倒くさい。




