第九十七話 僕の訓練
僕のこれからの予定だが午前中はいつものように働き、午後に訓練をする事に決まった。アリアナさんが長くこの街に留まれないし、アールシュ様も領主の引き継ぎがあるのでアリアナさんの指導が優先されることになった。
「さて、あんたの魔法はどんなになったのかね」
「それより僕は早く魔力が安定して欲しいですよ」
アリアナさんと二人だけの訓練は何処か懐かしさを感じてしまうし、安心感があるので程なくして僕の魔力は落ち着いていった。そして僕の魔法で今迄と効果が変わった変更点も判明していく。
【炎闇】中身が燃え尽きても僕の意思次第で消える事は無くなった。
【毒闇】もっと広範囲になり、僕の意思で毒の効果も消える。
【滅闇】ピンポイントではあるが、腐闇がもっと強力になった。
【潜闇】視界がクリアになっただけ。
【操闇】一人だけ操れる。他の魔法とは併用できない。
【煙闇】濃くなったそうだが、僕には薄いか無理にしか見えない。
【刃闇】大きさは僕の意思で決められる。
【感闇】範囲は狭くなったが、相手の行動もはっきりと感じる事が出来る。
【鞭闇】拘束は出来なくなり、全体が刃物になってしまっている。
まだ試していない魔法もあるが、普段使用している魔法はだいたいこんなものだ。これを試す為にどれだけのゴブリンを討伐したか分からないが、そのおかげで日帰りで行ける場所にはゴブリンが全て居なくなった。
「僕の魔法はどう思いますか」
「あのさ、悪くは無いんだけど魔力が増えた割には変化は少ないね」
「そうですね、ただ魔力の残量を気にしなくていいぐらいですかね」
いくら魔法を使っても魔力切れを起こす事が無かったので、兵士として生きて行かない僕にとっては充分だ。
ただ何故か使えなくなってしまった魔法も存在した。その中でも【幻闇】は少し前までは使えたはずなのに僕の掌からも杖からも闇が出る事は無くなってしまった。
「それでさ、新しい魔法のイメージは湧いてこないのかい」
「そうですね、僕の身体が魔力が反転した事を覚えているので、それを利用して……」
「止めな、それは実験出来ないだろ」
「そうですか、それなら相手の全身の穴から全ての血を……」
「あんたいい加減にしなよ、少しは人前で使える魔法をイメージしたらどうなんだい」
僕だってそう願っているけど、安全だった【鞭闇】ですら今は危険な魔法に変わってしまっている。あの秘薬のせいなのかそう言った魔法は頭に浮かんでこないし、使える気がしない。
【煙闇】と【潜闇】がまともなだけマシだろう。ただ、僕はその時はそう思っていたが、【煙闇】に新たな効果がある事に僕もアリアナさんも気が付いていなかった。
「何処かにいい魔人はいないですかね……そうだっ、あの魔人の魔法書には何か良い魔法はあったんですか」
「解読が全然できないんだよ、それこそ魔人を捕まえて翻訳するしか無いだろうね」
「勇者じゃないんですから魔国に何て行けませんよ」
僕は本心で言ったつもりなのだが、アリアナさんは真剣な顔で見てくるので不安でしかない。
「儂の指輪を引き継ぐのは君だと思っているんだ。ただその為には民衆が納得するようにその身体をどうにかしないといけないがな」
いきなり現れて話し掛けて来たアールシュ様はとんでもない事を言い出した。アールシュ様は本気で後継者を僕にと考えているらしい。
バザロフが手に入れた指輪はゴアサックの物でアールシュ様の後継者はまだ決まっていない。この間の選抜会から選べば良いのかと思ったが残念ながらその案は見送られたそうだ。
「どうしてですか、二番目に目立っていた者が勇者に成ればいいじゃないですか」
「二番手はバルナバスなんだよ。彼は勇者のパーティの選ばれているからな、それに無理やり彼を勇者にしても民衆は納得しないだろう」
バルナバスが勇者に選ばれたとしても、バザロフより弱い勇者と思われてしまう事が原因で、素直に期待をする事が出来ないのではないかと思われている。
「だったらまた選抜会をするのですか」
「今集まる者で新たな力を持つ者はいないだろう。これから三年の間に新たな勇者を儂が見つければこの指輪を渡して良い事になっているんだ」
それならばアールシュ様は此処で領主をやっている暇は無いと思うのだが、どうして街から離れられない領主をするのだろうか。
「大変じゃないですか、それなら僕の事は気にしなくても良いですよ」
「何を言っているんだ。私が指輪を渡すと考えているのは君なんだぞ、だからその小さな体を大きくするように鍛えるんだ」
勇者は憧れではあったけどもういんだよな……。




