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第九十六話 僕の身体

「どうしてアールシュ様と一緒にいるんですか」

「あのねぇ久し振りに会って最初の言葉がそれなの、もう少し他に言葉があるでしょうに」


 いきなり小言を言ってきたが、久し振りと言われるほど僕が旅立ってから時間は過ぎていないはずだ。


 その後ろにはアールシュ様がいて、二人は僕の目の前に椅子に座り、更にその後ろにいたラウラは僕の帳に腰を下ろした。


 僕の疑問でもあった二人は知り合いだったのかというと、一緒に来ているのだから当たり前の事であって、出会いはアールシュ様がクルナ村に立ち寄った時に村の周りに埋まっているスケルトンに気が付いて仲間の僧侶にに浄化させようとした事があったそうだ。


「慌てて行ったら半分ぐらいは浄化されていたけどね」

「知らなかったら誰でもそうするに決まっているだろ、なにせスケルトンが埋まっているんだぞ」


「その後で私を魔人扱いしてくれたよね」

「だから、それは何度も何度も謝ったじゃないか」


 僕の質問がきっかけで二人は楽しそうに出会った頃の話をしているし、その感じは年の離れた夫婦のように見える。


「二人はお似合いなんですね、まるで父親と娘みたいですよ」


 ラウラにとっては親子に様に見えたらしいが、二人はその言葉が気に食わないらしくかなり冷たい視線をラウラに向けている。肩をすぼめて委縮し始めたラウラを助けてあげたいが、僕にはその勇気はない。


「まぁいいか、儂はな、お前さんの魔法を見てアリアナに相談しに行ったんだよ」


 僕が既にアリアナさんの弟子であったとは知らなかったそうだ。


「あんただったら調べれば私とレーベンの繋がり何て分かりそうなのにね」

「そこまで頭が回らなかったし、レーベン君をかなり待たせてしまっているから、どうせなら私以上に導ける人間を紹介したかったんだよ」


 そしてアールシュ様から話を聞いたアリアナさんは僕を心配して急いで来てくれたそうだ。


 僕が意識を失っている間に二人で僕の身体に流れている魔力を調べたそうで、アールシュ様は僕の魔力量に感動すら覚えたらしいが、アリアナさんは怒りで気が狂いそうになったらしい。


「僕が何かしてしまったのでしょうか」

「あんたは何も悪くないよ、ただねあんたはまた秘薬であるグレゴールを飲まされたようだね、その異常なほど増えた魔力はそれが原因としか考えられないね」

「私は分からんのだが、二回飲んで生きている事などあるのかね」

「信じられないけどね」


 文献によると二度飲んだ人間に待っているのは確実な死だそうだ。ただ、本当にそうなのか情報を集めているらしいが二度飲んで生きているという情報は一切入って来ていない。


「それだったら僕の魔力が只増えただけじゃないですかね」

「それなら良かったんだけどね……あんたの身体は退化しているじゃないか……魔法が使えるのがせめてもの救いなのかな」


(あ~やっぱりそうか、薄々は気が付いていたんだよな、ただそれだと犯人はあいつだと言う事になるから嫌だったんだ…………)


「この身体は副作用ですね、けどどうして魔法が使えるんですかね」

「はっきりとした事は分からないけど、身体は闇属性の魔力に順応しているんじゃないか、だから魔力の増加と共に変化したんだろうね」


 僕はまだその事をちゃんと理解していないから魔法が安定していないのだそうだ。杖は魔力の流れをサポートしてくれているので威力が上がったように思えるが、実際は自分の力でコントロール出来れば杖無しでも変わらないらしい。


「まぁあんたの魔力が安定するように協力するよ」

「魔法はやはりアリアナに任せて、儂は君がこれ以上体力を失わないように鍛えてあげるな」


 これで僕の師匠が二人になったので解決したかと思われたが、ラウラは全然納得してくれないようだ。急に立ち上がって身体を震わせながら怒鳴り始めた。


「何なんですかこの雰囲気は。これで終わりじゃないですよね、良いですか一度でも死ぬ確率が高いのに二度目は確実に死ぬんですよね、たまたま生きているから良いですけど。レーベンを殺そうとした人物がいるんですよ。そいつはどうするつもりなんですか」


 アールシュ様とアリアナさんは黙って僕を見ている。その目は(答えは僕に任せる)と言っているようだ。


「あのさ、今は良いんだよ、いつかは何とかしないといけないけどな」

「それで良いわけ無いでしょ」

「およしっ、この件はレーベンに任せるんだよ」


 珍しく怒気を含んだアリアナさんの迫力にラウラは何も言えなくなってしまった。決してアリアナさんはラウラに怒っている訳では無く、僕が隠しているあいつに向けての事だろう。

 

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