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第九十五話 僕の予感

 僕とラウラは嫌な予感を感じながら屋上に駆け上がって行く。


「あのさ、もしかして……かな」

「そうなら大変だよね」


 屋上から山の方を見ると雲一つない空を何かが向かって来ているのが分かる。滑るようにして飛んでいるし、大きさもかなりあるので普通の鳥では無いようだ。


 下を見ると街の人達が叫び声を上げながら逃げ出している姿が見え街の中はパニックになっている。


 こんなにも只のドラゴンゾンビであって欲しいと願っているが…………何をしてるんだよ。


「ねぇ、あれはアリアナさんかな」

「あぁそうだね、気づかせようとしているのか知らないけどわざと魔力を飛ばしているよ。それが余計な事だと思っていない様だね」


 遠くに離れていても分かるぐらいの魔力を飛ばす事は凄い事だし、僕にとっては懐かしい魔力だけども、そんな事を知らないこの街の人にとってはその魔力はただ不安を増幅させる事でしかない。


「あっスピードを上げたよ」

「もう勘弁してくれないかな、どうすればいいんだよ」


 この街の人の恐怖が臨界点を超え、泣き叫ぶ声が至る所から聞こえている中で、街全体を優しい声が包み込んだ。


「すまんな、儂だ。こんな発表の仕方で悪いが儂はこの街の領主として戻ってきたぞ」


 その声は魔法によって聞こえているので、五月蠅いと思う程の音量ではないし、周りが五月蠅くともちゃんと言葉が頭の中に入って来る。


「この魔法ってあれだよね」

「そうだと思うけど、勇者の指輪が無いと使えないって聞いたようなんだけどな」


 勇者の指輪はその所有者に特別な魔法を使わせてくれ、その一つが指定した範囲の人間に声を届けるといったものだ。演説以外に使い道は無いように思えるが、大勢と一緒に戦う時にはその真価を発揮させる。

 

 特にこれを使って数の多いパーティを手足の様に動かしたのが、死んでしまった勇者ゴアサックだ。


 アールシュ様は勇者を引退したのでこの魔法は使えなくなるはずなのだが、アールシュ様は特別なのかも知れない。


「お帰りなさいアールシュ様~」

「うぉ~~~~~~」


 この街を恐怖のどん底の落とした張本人なので、批判の声が多く上がると思われたが。僕から見える人達からは歓声が上がっている。


「こんな事をしても人気なんだな」

「勇者だった男が領主になるって宣言したんだからね、嬉しいんじゃない」

「今の領主はどんな気分なんだろうか」

「アールシュ様のお父上だよ、あんたねぇ、そんな事も知らなかったの。本当はとっくに譲りたかったけど勇者を辞めるまで待っているんですって、あのね、少しは自分の師匠になる人に興味を持ちなさいよ」


 僕の勝手な考えで貴族では無いと思っていたが、領主の息子だとアールシュ様は貴族家となる。恐ろしい程の完璧な人生じゃないだろうか。


「アールシュ様の家の事なんて聞く訳無いだろ」

「そんな情報は出回っているの、あんたはこれから弟子になるんでしょ、それ位は頭に入れなよ」


 僕が情報に疎い事が判明したが、それよりもあのドラゴンゾンビは無いよな。


「う~ん、領主館に行った方が良いのかな」

「え~ちょっと格式高くない? どうしたらいいか聞いていないの?」


 僕はアールシュ様とそんな打ち合わせなどしていないが、戻ってきたらそれなりの騒ぎになるだろうからそこに行けば良いと思っていた。ただそこが領主館だとは全く想像を超えている。


「う~ん。参ったな」

「お~い。お前らまだ屋上にいるのか」


 下からミドハさんの声がしたので下を覗くと、隣には煌びやかな装飾品で飾られた馬車が止まっているのが見えた。


「二人ともこれに乗れってよ」

「その馬車か、ちょっと目立ちすぎだよな」

「何か言ったか、聞こえないぞ、いいから早く降りて来い」


 仕方がなく急いで会談を駆け下りるが、誰かが落とした荷物に足を滑らし、そこからの記憶は消えてしまった。



「う~ん、痛いな、あれっここは何処なんだ」


 僕は見慣れないソファーの上で寝かされていて、起き上がるだけで頭痛が襲ってきた。暫く大人しくしていると頭痛の音色は静かになり、これなら起き上がる事が出来そうだ。


 部屋を見渡すと僕の荷物は無いし、杖すらも見当たらない。それに中途半端に広いこの部屋の中には誰もいないが、置いてある調度品は見たこともないような高級品のように思える。


「あの~誰かいますか」


 反応が何も無いが、危険な場所では無いと思えるので座って待っていると、少ししてから扉が開き、アールシュ様と一緒に懐かしい顔のアリアナさんも入ってきた。 

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