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第九十四話 僕は反省する

 衛兵にあの男を連れて行ったせいでかなりに時間を費やしてしまったので、もう工房に行く気にはなれず、自宅の居間でのんびりしていると、その内にラウラが帰って来た。


「どんだけやったのよ、その代わりにいい成果はでたんでしょうね」


 今日の出来事を話している内に僕のやり方が間違っていたように思えてきた。


「僕一人で討伐するのはちょっと良くなかったよな、どうしようか」

「知らないよ、それはビテックがあんたに言わなくちゃいけないの、例え口出ししない約束とは言えそれに甘えたビテックも悪いんだよ」


 今度はビテックのフォローに回るように仕事を手伝おうかとも考えたが、ビテックから言い出さない限り此方から言う事はよそうと思う。僕は冒険者では無いので後の事はビテックに任せよう。


「僕が同じ冒険者なら良かったけど、僕にはそのつもりがないからね」

「あんたは冒険者に成れないよ」

「えっどうしてだよ、今日だって僕が全て討伐したようなものだぜ」

「あのねぇ、稼ぐなら山やダンジョンに行かないと駄目なの、昔ならともかく今のあんたにその体力はあるの?」


 ラウラの言葉に僕は何も反論する事は出来ない。何が原因か知らないけど日に日に僕の体力が失われているのが分かる。ただ普通に生活するにはまだ影響はないけど、持久力が無くなっているのは確かだ。


「なぁ、アールシュ様に魔法を教わっても無駄かな」

「無駄じゃ無いでしょ、私が思うには変になった魔力のせいだと思うからね、まずはアールシュ様に相談したほうがいいよ」


 この一ヶ月の間に何軒かの治療院に見せたが僕の身体は至って正常だそうだ。そうなるとラウラが言うように魔力が原因としか思えないが、今のこの街には僕以上の魔術師がいないので見せても意味がない。


 一つ不思議なのは、この体力で魔法が使える事だ。前は体力がないから魔法を放てなかったのに、今は何の影響も無いように使えている。


「また体を鍛えなさいよ」

「そうだよね、やりたくないけど最低限だけやるしかないか」



 数日後、ビテックは翡翠に上がれたことを報告しに来てくれ、ちゃんと翡翠の仕事も一人でこなしてきたようだ。やはりビテックは大した働きをしないで翡翠に上がれたことを気にしていたようだが、一人で依頼を達成した事で自分の中で解決したのだろう。


「一人前までもうすぐだな」

「そうですね、これで希望が持てるようになってきましたよ。ただその先も目指していきたいですからね」


 あの時にラウラに聞いたが、藍玉まではちょっとの苦労で上がれるそうだが、その上の蒼玉になるにはちょっとやそっとではなれないらしく、最上級の金剛などは現在のこの国ではいないそうだ。


「何かその為の行動はしているのか」

「ギルド主催の剣術講習会には参加していますよ。ただちゃんとした師匠も探すつもりです」

「そうか、頑張れよ」


 ビテックはもう自分で考えて行動している様なので見守ろうと思う。僕がやってしまった事が逆に自立に繋がるいい結果になったと思う事にしよう。


「そうだ、あの元貴族の男ですが、どうやら逃げてしまったようですよ」

「衛兵は何をやっているんだよ、またあんな事をするかも知れないのにな」

「そうかも知れませんがこれからは定期的に兵士が下水を調べるようになったらしいのであそこまでは増えないでしょう」


 あの元貴族がどうなろうと関係ないが、あいつには賞金が掛けられるはずなのでこれからは賞金首ハンターに狙われる人生が待っている。


 それからはたわいもない話をしていると、そこにラウラが焦ったように部屋の中に入ってきた。


「どうしたんですかラウラさん。何かありましたか」

「大変よ、魔族がこの街に向かって空を飛んでいるらしいわよ、もう街中はお騒ぎになっているんだから」

「本当なのか、ちょっと聞きに行くか」


 ミドハさんの所には階級の高い冒険者が常連でいてくれているので何かが分かるかも知れない。ビテックはギルドに向かい、僕達は店に走り出した。



「あっミドハさん。聞きましたか」

「勿論聞いたさ、それでな教えてもらった情報だと、もうすぐドラゴンゾンビが山を越えてくるそうだぞ」

「えっ……ドラゴンゾンビですか」


 その言葉で何だか嫌な予感がしてきたのか、頭全体から汗が流れ始め、心なしか頭痛がしてきたように思える。隣のラウラも目をギュッと強く瞑り額を押さえている。


「ねぇまさか違うよね」

「いくら何でもそれ位の常識はあると信じたいよ」  

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