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第九十三話 僕とビテックの討伐

 どうせ手伝うなら冒険者登録をしてビテックと同じ依頼を受ければいいと思ったが、冒険者ギルドの前に立っただけでやっぱりその気持ちは消え去ってしまった。


 あの討伐がいくらの稼ぎになるか知らないが、所詮は誰もやりたがらない仕事なのでお金に関して言えば大したことはないのだろう。ただその代わりに普通の討伐より達成度が高いので階級を上げたいビテックには好都合だと思う。


 ラウラに話を聞くと、楽に暮らせるには藍玉にならないといけないらしいので、ビテックはあと階級を三つ上げないといけないそうだ。


「坊や、冒険者になりたいのかい」

「いや、ただ見ていただけです」

「そうか、冒険者になりたいにならそんな体じゃなくて、もっと鍛えないといけないぞ」


 つい最近に冒険者になったような若者にいきなり上目線で話し掛けられたが、心が大人な僕はこれぐらいでは怒ったりはしない。


 見た目でしか判断できない連中が多いから嫌なんだよな、やはりこんな連中と同じようにはなりたくないね。



 約束の日のまだ陽が出てこない早朝に、大きな袋を抱えたビテックが目を輝かせてやってきた。


「お早うございます。今日はよろしくお願いします。何でも指示通りにやりますので言ってください。あっそうだ。レーベンさんはもう翡翠になったのですか」


 僕が冒険者になったと思っているビテックは、エサイアみたいに一気に翡翠になったと勘違いしている。


「あのさ、やはり登録は止めたんだよね」

「えっ、それでは今日は中止ですか」

「違うよ、ちゃんと一緒に行くさ、それにな僕が冒険者じゃ無いって事は全てをビテックが独り占めしていいんだ」


 これは僕にとっては場所こそ嫌な場所だが、それでも遊びのようなものだ。だからビテックが独占してくれて構わない。


「本当にいいのですか……そうだ、せめて討伐報酬は山分けにしませんか」

「要らないって、その代わり僕は肉体労働はやらないから覚悟するんだよ」


 討伐は全て僕が受け持つつもりでいるが、それだからと言ってビテックに楽をさせるつもりは無いし、それなりの事をやって貰う。


 早速、表情が一気に硬くなったビテックに最初のポイントに案内してもらった。此処には食堂が多くあるのでそれに釣られた褐色ネズミが発生している。


「さぁそこの下水の入口から入るんだ。討伐はしなくていいから他の冒険者が中にいないか、ちゃんと見てくるんだぞ」

「誰もいないと思うけどな」

「あのなぁこの依頼を受けているのは本当にビテックだけか分からないだろ、もしいたら彼等を巻き添えにするかも知れないじゃないか、そうなった場合は責任はとれるのか」


 僕の言葉を理解したビテックは一人で下水の中に入り、僕の場所まで聞こえるような大声を上げて此処の近づかないように注意を促した。


「レーベンさん、もう大丈夫だと思います」

「だったら上がって来るんだ」


 レーベンが上がってきたと同時に下水の中に【毒闇】を流していく。所詮は雑魚の魔物なので出来るだけ毒素を押さえるようにして闇を広げていく。逃げたはずの褐色ネズミが戻っている事を信じるしかない。


 数分後


「さてどうだろうな、毒素は解除したけど、もし異変を感じたら直ぐに戻って来るんだよ。僕は中に入らないからね」

「そうですよね……」


 僕が中に入らないと言う事は褐色ネズミの処理を自分一人で行わなければいけない事に気が付いたようだ。


 危険の要素はかなり減ったし、分け前も要らないと言っているのだからこれぐらいは喜んでやって貰わないと困る。


 ◇


 かなり時間が掛かったが、ようやくビテックが大きく膨らませた袋を担いで戻ってきた。


「どうだった? ちゃんと原型は保っていたよな」

「そうですね、死んでいる個体が半分ほどですが、それ以外は弱っていましたので近づいて殺しました」

「そうか、それは悪かったな、次はもう少し強くしてみるよ」


 次の場所でも同じように【毒闇】を下水に流し込み、毒素を解除してからビテックを送り込んだ。


 最初の場所より時間のかかったビテックはかなり顔を悪くして戻ってきた。


「どうした。随分と時間が掛かったじゃないか」

「しょうがないですよ、身体から変な液体を流しながら死んでいるんですよ、中には説明出来ない死体もありましたのであのままでは袋にしまえませんので汚いですが下水で洗いました」

「そんなのは捨てたらいいのに」

「無視する訳にはいきませんので」


 ちゃんと処理をしないと今度はグール化した褐色ネズミになってしまう事を恐れたのだろう。もしそれが大量発生してしまえば、ビテックの評価にも関わってくる。


 ビテックが持ってきた袋は目一杯入っているので近くの店から箱付きの台車を調達してそこに入れ、またビテックは下に降りて行った。


 この行為をもう一度繰り返しただけで台車も一杯になったのでギルドに向かうと、いきなり薄気味悪い男が台車にしがみ付いてきて、褐色ネズミの残骸に泣きながら顔を埋めている。


「ちょっと、どうしたんですか、病気になりますよ」

「五月蠅いこのガキ、折角俺が育てた子供達を殺しやがって」


 その汚らしい褐色ネズミを自分の子供だと良いながら腰に付けていた小さな斧を振り回し始めた。

 ビテックはその男から距離と取るように指示を出し僕がその男の対処をする。


「何だかな……操闇」


 大人しくさせたその男を衛兵の詰所に連れて行き、褐色ネズミに何をしたのか全て白状させそのおぞましい事をしたその男はそのまま牢屋に入れられることになった。


「まさか廃爵になった貴族だったとはな、魔力を込めたエサで褐色ネズミを増やしてこの街を滅ぼそうとするなんて何を考えているのか」

「あの男の作戦は成功する可能性はあったんですかね」

「無理だろ、只の狂った考えだよ」


 褐色ネズミが増えた原因が人為的だとは想像もしていなかったが、そのおかげでビテックは確実に翡翠に上がる事が出来るだろう。




 


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