第九話 僕の知りたい話
今まで分からなかった事が一気に解決していくようだが、僕が魔法が使えない謎も早く教えて欲しい。
「あんたが気になっているのは魔法の事だろ。その元になる魔力だが……」
「どうかしましたか」
アリアナさんは視線を外に向けて少し険しい表情になっている。
「話はまた後でな、向こうで何かあったようだよ、ちょっと行ってみようか」
「あっはい」
本当は行かないで話の続きを聞きたかったが、アリアナさんの興味が外に向かってしまったので僕はそれに従うしかない。
アリアナさんと一緒に村の入口に行くと、数人の大人たちが街道の方を指を差しながら何やら話している。
「どうしたの、何かあったのかい」
「あぁアリアナさん、実はフィルの奴が隣村でガラの悪い連中が嫌な話を耳にしたのを伝書鳥で知らせてくれたんですよ」
話をまとめるとその連中は僕が街道で消してしまった男の仲間の可能性が高い、と言うか確実にそうだろう。仲間を募って僕を襲う相談をしていたそうだ。
「仕返しにしては大袈裟じゃないか」
「それがですね、その子供が持っていた短剣がかなりいい物らしいんですよ」
「それで、そいつらはどうするんだって」
その連中は僕の行く先は確実には分かっていないが、先ずは進行方向にあるこの村に向かうそうだ。
「あの、その連中が狙っているのは僕だと思います」
「んっ君は誰なんだ」
「私の客……なのかな」
僕の立場は分からないが、夜に会った事を全て話して聞かせた。魔力が暴走してその連中の仲間を消してしまった事は言いたくなかったが、嘘をつくとこの人たちに迷惑を掛けてしまうかも知れない。
「何だよ、君は全く悪くないじゃないか、まぁ気にするな」
「この村に居れば安全だぞ」
「そんな連中だったら一人いればいいだろ、くじで負けた奴以外は仕事に行こうぜ」
どれぐらい先の事か知らないが、これから盗賊に近い連中が来ると言うのに本当に一人だけ残して解散してしまった。
一人が残っているので僕の事を見捨てるつもりは無いようだけど、これは何なんだ。
「この子の事は私が面倒みるから、気にしなくてもいいよ」
「そうなんですか、けど、夕方には戻ってきますよ……あの、もし出す時は鐘を鳴らして下さいね、久し振りに見たいので」
「分かったよ、早く畑に行ってきな」
「さて、私等は行こうか、この村の中にはそんな連中は入れたくないからね」
「あの何処へ行くのですか」
「そこの見張り台だよ」
壊れた門の隣に見張り台はあるのだが、それ程高さは無いのであまり意味が無いように思える。
上に登ると、下から見るよりかはスペースがあるのだが、端の方に魔石が埋められた石碑があるだけでその他は何も置かれていない。
「僕は何をすればいいのですか」
「まぁ慌てなくていいよまだ着かないだろうしね、ちょっと家から食べる物でも持ってくるから此処で待っていな」
アリアナさんは見張り台を降りて行ってしまったが、僕はこの上に居ても無いもやる事が無い。一先ず街道を見張るがここに居るところを連中に見つかったら簡単に捕まってしまうだろう。
あの闇が出せればいいけど、どうやって出したかも分からない。
そんな不安を抱えながら街道を見ていると、アリアナさんは食料を抱えて戻ってきた。
「お待たせ、連中が来るまでさっきの話の続きをしようか」
「お願いします」
いつ来るか分からない不安もあるが、いよいよ僕の核心に迫る話が聞けそうだ。
「あんたはね秘薬によって魔力が増強されているよ、元から強かったせいもあるけど、今は普通の魔道具では測れない程にね」
「それは無いとい思いますよ、僕は基本魔法すら使えないんですよ」
「あんたね、魔力が無い奴が人を消せると思ってるの、試しに此処で魔法を使ってみてよ」
あの闇を出せたとしたら危険なので、基本魔法の中でも簡単な部類の魔法を唱えて見たが、いつものように何も変化しない。
「駄目ですね、僕はこんなものですよ」
アリアナさんは真剣な表情で僕を見ているので、何かをしてしまったのだろうか。
「あんたの魔力は感じられるけどね、もしかしたらその身体が問題なんだと思うよ」
「どういう事ですか」
「闇属性を含んだ魔力にその身体が対応できていないんだよ、魔族が光属性を使えないようにね」
その理論だと、僕もアリアナさんも魔法が使えないと言う事になってしまう。
「闇属性でいる間は魔法は使えないって事ですか」
「違うよ、その身体を慣れさせるんだ。私は呪いによって生まれた時に闇属性になったから対応できたけど、あんたは魔力も増強されたからね、かなりの弊害が出たとしか思えないよ」
僕の事より、何気なく言った呪いの言葉が僕に突き刺さる。
「アリアナさんが闇属性になった原因は呪いなんですか」
「そうさ、私達双子は呪いによって光と闇に分けられたんだ」
少し悲し気な表情になったので、何か言った方が良いに決まっているが、僕にはその言葉が何も出て来ない。
「あの……」
「話は終わってからにしよう、向こうを見てごらん、あれはあんたの客だろうね」
街道には砂煙が舞っていて、かなりの人数がこの村に迫って来ているようだ。