第八十九話 僕とラウラは驚いた
野営地に戻るとスケルトンの周りに商人達が集まっていて、僕の姿を発見した商人達が魔石を売ってくれと迫ってきた。
「これは売れませんよ、そもそも僕の物じゃないですから」
「んっこれは君の物だとあのお嬢さんが言っていたぞ」
ラウラは面倒になったのか全てを僕に投げて寄こしたようだ。僕が売ってしまったらどうするつもりなのだろう。
「そうですね、だったら試しに使ってみますか、ただし魔力を使えないと無理ですが」
多かれ少なかれ人間なら誰もが魔力を持っているが、自分の魔力が低い事が恥ずかしいらすく誰が試すのか押し付け合っている。
「あぁもういいです。一番若い私がやりますよ。こんな子供が使えるのに躊躇してどうするんですか」
年齢は三十代のようで如何にも野心のありそうな顔をしている。この人の魔力を探ると、言うだけあってラウラより魔力は多い。
「それではいいですか、貴方の命令で動かせるように繋がりをラウラからあなたに移動しますよ。魔力が流れていきますので調整をして下さいね」
「そんな前置きはいいから早くしてくれたまえ、これでも火属性の魔法で盗賊を倒したこともあるんだ。魔力操作ぐらいなら簡単い出来るに決まっているだろう」
実はこれを動かすだけの魔力は既にスケルトンの中に入れてあり、ラウラは命令するだけの存在だったが、その貯めてある魔力も回収するのでこの人はどうなるのか楽しみだ。
「行きますよ、集中して下さいね」
「くどいな、早くしたまえ」
ちょっとだけ癇に障ったので、スケルトンがその身体を保てるだけ魔力を残しその他は全て回収してから繋いでみた。
「おいおいおいおいおい、どうしたらいいんだよ」
「だから落ち着いて……」
僕の言葉が言い終わらない内にその人は意識を手放し、スケルトンは元の魔石に戻って行った。やはり自分の魔力でスケルトンを生み出すにはこの前のラウラのように問題はなかったが、魔力の強い者が全てを渡してしまうと良くないだろう。
ラウラに試さないで本当に良かった。
「魔法使いしか使えんのか、苦情が多そうな魔石じゃな」
商人達は倒れている男を助ける訳でもなく、自分たちの馬車に戻って行こうとしている。
「待ってくださいよ、この人も連れて行ってくださいよ」
「ただの魔力切れじゃろ、そのままそこに置いておけばいいさ、カナルの自業自得じゃよ」
うつ伏せでしかも土の上に倒れてるので、ラウラと二人でその男を草むらの上まで運んでいる内にトビアスは魔石を拾って魔力を込めたようだ。スケルトンが生まれようとしている。
「おいおい何だよこれは」
「軽く投げて下さい。飲み込まれますよ」
慌てた様子のトビアスが魔石を投げるとそこに現れたのは。ラウラのスケルトンよりも小さな大きさスケルトンで魔石の重さに耐えられないのか立つ事すら出来ずにいる。
「単なる骨の固まりじゃないか」
「それはトビアスの魔力で生まれたんだよ」
「こんなのがそうなのかよ、俺って全然魔力が無いんだな」
獣人族であるトビアスが持っている魔力が判明したが、その魔力で僕の事を発見できるのだから不思議な感じだ。
ラウラはスケルトンに手を置いて魔石に戻すと、懐にしまいながらトビアスに向き合った。
「あんたはこれが終わったらどうするの、今度もまた奴隷商人でもやるつもり?」
このラウラの直球の質問に驚いてしまうが、トビアスは何とも思っていない様だ。
「そんな事はやらないな、暫くは冒険者にでもなって自由を満喫するかな。獣人族初の勇者に成るのも良いかも知れんな」
勇者の仲間に獣人族の者は過去にいたが、勇者まで上り詰めた者はいないし、この国ではあり得ないと思う。
「だったら獣人族の国で冒険者になればいいのに、この国じゃ無理じゃ無いの、それにさぁ引退したアールシュ様以外はまだ若いんだからこの国では暫く選抜会なんて行われないと思うよ」
「そうでもないぞ、どうやら勇者ゴアサックが死んだらしいぞ」
「えええええええええ~」
思わず二人で大声を上げると、いきなりトビアスは俺達を抱えて森の中に向かって走り出した。恥ずかしい恰好ではあるが、身体に感じる風が心地よく、浮遊感もあるので気持ちよくなってきた。
そんな感覚なのに直ぐに木の根が競り出している場所に投げ出された。
「お前らな五月蠅すぎるんだよ、寝ている奴もいるだろうが」
「仕方が無いでしょ、そんなの聞いたら驚くでしょ」
「その話は本当なんですか」
勇者ゴアサックはパーティが多いので有名で、始めは三人だったが八年を過ぎた頃には三十人を超えている。その維持費の為なのかやることも派手で、勇者の中で一番魔国に行き、いくつもの街や村を滅ぼしている。
帝国と合同でそろそろ魔王城に行くのではないかと言われていたが、魔族からの恨みも他の勇者より多いはずだ。
「ゴアサックは魔王城迄のルートを作りに行ったそうだが、城にある勇者の部屋にゴアサックが身に着けていた指輪が戻ってきたんだってよ」
勇者の指輪はその持ち主が死亡すると、城の中にある勇者の部屋に戻るように魔法が掛けられている。指輪自体に強力な魔法があるので魔人に渡す訳にはいかないからだ。
「まだ世間も知らない情報ですよね」
「そうだな、発表になるまで数日はかかるだろうな」
そうなるとアールシュ様が到着が更に遅れるかも知れないな。それともとっくに知っているから忙しいのか。




