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第八十八話 僕とトビアス

 残党からはあまり情報が得られなかったので、奴らが残していった荷物から判断するしかない。だが、荷物からもその裏で控えている奴に繋がる物は何も出てこなかった。


「もういいんじゃないか、こいつらの上司であるヤプールの奴はもう大きなことは出来ないさ」

「これで終わりで良いんでしょうか」

「お前はそんなに根絶やしにしたいのか」


 そう言われてしまうと困ってしまう。僕はただ子供達が安全であればそれでいい。


「また狙われたらいやだなって思ったんですよ」

「そうだな、あいつらに情報を流した奴はまだ生きているけど、一人では何も出来ないさ」

「そう言えば裏切り者がいましたね」


 僕にとってはそいつは裏切り者としか思えないが、トビアスはそうは思っていない様だ。もしその男が依頼主である商人を襲わせるのであったらそれは裏切り行為だが、護衛達の契約の中には子供達の事は含まれていない。


「依頼人を襲ってきたらそいつも襲ってきた奴も全て殺すけどな」

「そいつは誰なんですか、まぁ教えてくれないですよね」

「んっ知りたいなら教えてやるよ、戻ってからでいいよな」


 まさかこんなにもあっさりと教えてくれるとは思ってもいなかったので拍子抜けしてしまうが、僕が戸惑っている間にもう、トビアスの姿は見えなくなっていた。


 それならば【潜闇】で進んで行くと、地上からトビアスが僕を呼んでいる。


「あの、どうしてここにいる事が分かるんですか」

「魔力が漏れているからだよ、そんな事よりな、そんな魔法に頼っているからお前は体力が無いんだぞ、いいか、此処からは全速力で走るんだぞ、いいな」

「え~本気ですか」


 トビアスの背中を見ながら嫌々走り出すが、トビアスに簡単い居場所を見破られる程に魔力が漏れているのだとしたら【潜闇】を見直さなくてはいけない。折角忍び込むのに最適な魔法なのにたかが魔力漏れで見つかるのは心外だ。


「お前さぁ一体いくつなんだよ、どう考えても五歳のガキじゃないよな」

「ちょっと待ってくださいよ、五歳なんて初めて言われました。いいですかこう見えても僕は二十歳を超えているんですからね」


 闇属性の細かい事は言えないが年齢の事ならば話しても良いと判断をした。ただ同い年としても良かったのかも知れない。


「ふ~ん、ならその見た目はわざとそうやっているのか」

「そんな訳ないでしょ、敵と戦う時は勝手に油断してくれるので都合がいいですけど、普段の生活には不便でしょうがないですよ」

「そうだよな、それで元の姿にはなれるのか」

「元……どうなんですかね、別に縮んだ訳では無いので分からないですね」


 あんなに若く見えるアリアナさんが実は年齢的には老婆なのだから、僕がちゃんとした大人に見えるようになるまであと何年かかるのか想像がつかない。そしてこの成長が闇属性の仕業だけであったら成長は期待できるが、あの薬の副作用も関係しているとしたらもうどうしようもない。


 思わず僕の話で会話が進んでしまっているが、決して壁を無くさないようにしてある一定の距離を保たなくてはいけない。


「あの、僕も聞きたいのですが、あなたは本当に奴隷だったんですか」

「そうだよ、俺は獣人だからな、かなりの良い値が付いたんじゃないか」


 予想外の告白だったが。トビアスは狐人型獣人族だそうだ。幼い頃にボスに買われて、その時に身体能力に目を付けたボスがかなりの厳しい修行をしたそうだ。


「それなのに同族に対して何も思わなかったのですか」

「お前に言われたくないな、ついさっき同族をあんな酷い殺し方で葬ったじゃないか」


 確かに何で僕は自分の事を棚に上げてトビアスを攻めているのだろうか。僕にはその資格は全くないというのに。


「そうだよね、僕の方が酷いやり方だよね」

「ちょっと待てよ、別に非難をしている訳じゃないんだぜ、それにさ、俺はお前に感謝しているんだよ。お前が契約書を燃やしてくれたおかげで俺は自由になったんだからな」


 あの時は館が火事になったからと言ってトビアスは呪印が消えている事に気が付いていなかったそうだ。余りにも当たり前に呪印があるので契約書が燃えて自由になったなど想像もしていなかったらしい。


「そうだったのか」

「そうさ、たださ、あの屋敷に俺の契約書があるのを知っていたのに何で自分で燃やさなかったのかが不思議だよ。奴隷を長くやっているとそんな事も考えられなくなるんだな」


 僕には何て答えて良いのか分からなかった。ただ自分の右手にあったはずの呪印の面影を見ているトビアスを見ていると胸に熱い物が込み上げてきた。

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