第八十七話 僕の残党退治
トビアスの心の声が漏れた事を伝えようと思ったが、この距離では勝てる訳がなく、聞こえないふりをするしかない。僕がトビアスに勝つためには距離が離れれば離れる程勝率が上がるだろう。
「心の準備は出来ているか、もうすぐ見えるからな」
その言葉通りに小さな泉のほとりで真夜中だと言うのに食事をしている集団の姿が見えてきた。僕はトビアスに下ろして貰い、木の影に隠れながら様子を伺い始める。
「そんなにいませんね、二十人ぐらいですか」
「誰かのせいで一家はバラバラになったからこんなもんだな、まぁ早くやってしまえよ」
トビアスはせかしてくるが、僕にはそんな卑怯な真似は出来ない。
「少し話して来ますよ」
「はぁ~お前は何を考えているんだ。話し合いが通用するとでも思っているのか」
「どうですかね、ただ彼等が本当に子供達を狙っているのかが知りたいんです」
僕はまだトビアスを信じ切っている訳では無いので彼等が残党で子供達を狙っているのか確かめなくてはいけない。
「まぁいいけどよ、ただしお前がやばくなっても助けないからな」
「それでいいですよ」
「良くこの状況で落ち着いていられるな……お前は只のガキじゃないだろ。何者なんだ」
「どうでしょうね」
トビアスの鋭い視線を背中に浴びながらゆっくりと魔力を循環させていく。ほんの少しだけだがこの準備をするだけで魔法の発動時間が変わるからだ。
残党だと思われる男達のの会話がはっきりと聞こえる距離まで近づいた時に僕はいよいよ大声を張り上げた。
「お前達はウズベラ一家の者だな、まだあの子達を狙っているのか」
今まで楽しそうにしていた連中の空気が一変しどす黒い匂いがこの辺りを埋め尽くし始めたようだ。そして口の中に入っている物を吐き出し、ゆっくりと立ち合がり者も出てきた。
「誰だこのクソガキが」
太っている男が肩を揺らしながら近づいて来る。
「それ以上近づくと残党だと判断するけどいいのか」
「はぁ~、好きにしろよ」
その男以外にも向かってくる者もいるし、もう少しで掴み掛られる距離まで来てしまうので、僕に残された時間はあとわずかだ。
「お~いお前ら、そんなガキに負けるなよ」
「どうせ背後にいるんだろうがな」
連中は僕よりもトビアスしかいないのにもっと何かが隠れていると思って暗闇を睨みつけている。明確な答えは返ってこなかったがトビアスの言葉通りの残党だと思うしかない。
「降参したいなら武器を捨てるんだ……滅闇」
杖から真っすぐに伸びた闇が僕に一番近い男に触れると、その男は海岸の砂の城に様に崩れていく。広範囲で使用できなくなってしまったがこの消滅させる速度は今までと比べ物にならない。
「おっおい、あのガキの仕業なのか」
「あいつは何処に消えたんだ」
これだけの衝撃を与えたというのに、恐怖よりも怒りが強いのは僕の見た目が小さいせいなのだろう。てっきり簡単に降参してくれるかと思ったら、元から近寄ってきた連中も、ただ見ていた連中もまとめて僕に向かって走り出してきた。
「無駄なのに……毒闇」
僕の身体の前面から闇が溢れ出ていく。【毒闇】に触れた者達はその場から動けなくなりしまいには【毒闇】の球体に閉じ込められて徐々にその身体を液体に変化させていった。
叫び声は聞こえないがその苦しそうな表情や、必死にその中から逃げ出そうともがいていたり、全てを諦め身体の崩壊が始めっても僕を睨み続ける者など多種多様の様子で死んでいくが、僕は残党からは目を離す事はしない。
トビアスは僕の魔法を切り裂く事が出来たのだから、この【毒闇】から逃げ出す者がいるかも知れないからだ。決して正気で見れる光景ではないのだがその表情を顔に出さないように全身に力を入れ歯を食いしばって見ている。
人間をここまで酷い形で殺したことは無かったので、腹の中から何かが上がってきて口から出そうになるけどトビアスの視線を感じているので無理やり堪えている。
「もういいかな……解除」
液体はその場に残ってしまっているが、毒自体は消えているはずだ。ただそれを確かめるために近くにいた虫を捕まえてその液体の中に投げ込んだが、その虫は元気に飛び立った。
「よくこんな魔法を俺にぶつけようとしたよな」
いきなり話し掛けて来たので思わず声を上げそうになったが、まだ身体が硬直していたので口が上手く開く事が出来ずに情けない声を上げずに済んだ。
「けど簡単に防ぎましたよね、僕としてはこの魔法からは逃げるしかないと思っていたけど切り裂くと効果も消えるなんて初めての経験でしたよ」
「何を言ってるんだ。そんな事は剣士の常識だろう。魔法は無敵じゃないんだぜ、お前はそんな事も習っていないのか」
これは学校が悪いと思う。そんな事は魔法の授業で教えてくれないと分かる訳がない……僕が授業に参加させて貰えなかったからか。




