第八十六話 僕はトビアスと行動する事にした
トビアスは森を指さしてこの先にいると言ってきたが、僕には気配を感じられないし未だにトビアスを信じている訳じゃないので疑問が頭を駆け巡る。
……何故、残党はこの場所を知っているのだろうか。
……それならば内通者がいるというのか。
……それはトビアスじゃないのか。
……だったら僕に教える訳はないか。
「何をしている。奴らはこの先の泉でこっちが寝静まるのを待っているんだぞ。先に攻撃を仕掛ければ簡単だろう」
「あの、なぜそこまで分かるんだ。この奥に泉がある何て分からないじゃないか」
「俺が偵察に行っていたからに決まっているだろう。それに襲って来るなら森からの可能性が高いからな」
僕にはトビアスが何処から来たのか見ていないのでそう言われてしまったら反論は出来ないが、僕はトビアスの行動を何も感知出来ていなかった。
まだ底が見えないトビアスに対してどうすればいいのだろう。
「……分かりました。それでは案内をお願い出来ますか」
「あのなぁ向こうには俺の部下では無かったが、仲が良かった奴がいるんだぞ君が一人で行って来いよ。それに別動隊がいたら此処の護衛はどうするんだ」
そうなのかも知れないが、ラウラや子供達のそばにトビアスを置いていける訳がない。
「後ろから見ているだけでいいですよ、それにここの護衛は気にしなくても大丈夫です」
僕は念入りに魔力を込めた魔石をそっと投げると、いつものスケルトンとは若干姿が変化したスケルトンが姿を現した。
そのスケルトンは背中に棘が生えていて、六本の腕にはそれぞれ棍棒のような土の棒を持っている。
「これが君の隠し玉って訳か」
トビアスは目を見開いて驚いている様に見えるがその目の奥の光は怪しく光っていて、スケルトンを分析しているのかも知れない。
「これに対抗出来ると思いますか。それよりもあなたが向こうと縁を切ったのであれば協力をして欲しいのですがどうでしょう。僕は感知が苦手なのでこの暗闇に紛れて逃げてしまう人を発見できませんので」
勿論トビアスを連れ出す為の嘘だが、ここから離れれば全力で魔法を使う事が出来るので何があっても対処が出来ると思う。
「分かったよ、ただし俺は後ろで隠れているぞ、逃げた奴がいたとしても教えるだけだ」
「それで結構です。ただ気になるのは貴方と同じぐらいの強さを持っている人はいますか」
僕は真剣に聞いたつもりだったが、トビアスは声の大きさを気にすることなく笑い出した。
「いる訳無いだろ。俺はなぁ元々奴隷だったがこの腕を買われて下働きから免除されたんだぞ」
笑いながら僕の背中を叩いてきたが、その話が本当だとしたらどうして同じ立場であったはずの奴隷を助けてあげなかったと思ってしまう。
向こうが動き出す前に対処したかったので、よく眠っているムズーリさんとハガレさんを起こしてスケルトンの説明と商人達が発見しても騒がないように注意して欲しいと頼んだ。
僕が離れてしまうのでスケルトンにはラウラの指示に従うように命令を出したので、後はラウラが上手く扱ってくれることを僕は信じている。
◇
トビアスが森の中を走って進んで行くが、直ぐにその背中を見失ってしまう。
まさか僕を巻いたのかな、それにしては早すぎるんだけどな。だったら……。
「おいっ、何をやっているんだ」
「ちょっといきなり現れないで下さいよ」
「お前がしっかりついて来ないからだろ。いいか何も考えないでついて来い」
気合を入れなおしたつもりだったが、少し進んだだけでトビアスの背中は小さくなり、またしても見失ってしまった。そもそも飛ばした斬撃よりも素早く移動する事が出来る男に僕が追いつける訳がない。
「お前は、な・に・を・し・て・い・る・ん・だ」
目を細めながら一言に合わせながら僕の頭を叩いて来る。こんな場所で声を上げて良いのか知らないがこれは黙っていられない。
「早すぎるんですよ、普通の人間が付いていける訳ないじゃないですか」
「俺は普通に走っているだけだ。本気何か出しちゃいないぞ。お前が遅すぎるんだよ」
「分かりましたよ、今度はちゃんと見失わないようにしますよ」
出来れば【潜闇】で行こかと思ったが、なるべくならトビアスには魔法を見せない方が良いと判断した。
「そうして欲しいんだけどさ、お前はもしかして魔法に特化しすぎて身体能力が低いのか、おかしな奴だな」
「そうじゃなくて体調が悪いだけですよ」
「いいよ、そんなしょうもない嘘を言わなくてもよ」
するとトビアスは僕をいきなり抱えて走り出した。その行為は僕は甘んじて受けいる事にしたが、多分トビアスが無意識で漏れてしまった言葉に僕の背中には冷水を入れられてたようになってしまった。
これならあの時殺せたじゃないか。




